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第29話:俺の周りはやっぱり変だね
 やっぱりこの学校は、アホばかりだ。色々なアホ達が馬鹿な事をやって、楽しんでいる非常識な学校。
 常識人の俺には辛いです……。

「おにぃ……食器はこれがいい」
「却下」
 即答で却下。
 これ以上議論するつもりはないので、俺は珊瑚の手からソレを取り上げて元の場所に戻す。
 途端に俺を見上げて泣きそうな顔で、ぽこぽこと叩いてくる珊瑚。なんだか、父親と娘みたいな光景だな。
「おにぃのいじわる」
「あのなぁ……。どこの世界に、文化祭の出し物にお子様ランチ用の食器を使うところがあるんだよ」
「ここ」
 と、床を指しながら、頬を膨らませて俺を睨みつける。
 拗ねてご機嫌斜めになってしまったようだ。
 ぐりぐりと俺の制服を突いてくる珊瑚は、口を尖らせてむっと口を尖らせているが、こいつの感性がさっぱり分からない。

 今――俺は、自分の教室で文化祭の出し物で使う食器選びの真っ最中である。
 俺のスカウトマンの仕事は、すでに終わった。だって、あのウエイトレス参加希望用紙に名前を書いてもらうだけの簡単な仕事だったはず。
 普通に考えれば、一時間もあれば終わる仕事なのに……色んな騒ぎに巻き込まれて、丸一日掛かってしまったのだ。
 ――だから、今日は次の日なんですよ。
 すでに文化祭準備を始めて二日目なのです。なのにですよ……奥さんちょっと聞いてくださいよっ!
 我がクラスは、何も進んでないのです。
 一日目はあれだけ張り切ってやっていたクラスメイト達は、二日目の今日はすでに失速気味で、ダレまくり。
 持続力ないね……こいつらは。
「委員長……もう少し、まともな食器は無かったのかよ?」
「仕方ないでしょ……。急いで探し回って見つけたのが、これなんだから」
 俺達の前に並べられている食器達。
 机を数個並べてその上にテーブルクロスを敷き、本番さながらにセットしてみるが、如何せんバラバラの食器達ではなんともシックリこない。同じのが最高でも六個しかない現状では、どうしようも出来ないけどな。
 後はほとんどが一点物の食器達で、組み合わせがまったく出来ないので、頭が痛い事だ。
「出来れば、全て同じ食器の方が見栄えがいいのだが。……かと言って紙皿は勘弁して欲しいけど」
「水上君って、意外と凝り性だね」
「……うっせぇよ。俺は半端が嫌いなだけだ」
 このお姉をどうにかしていいでしょうか……? 神様。俺は、この手を真っ赤に染めてしまいそうです。
「おにぃ……これ」
「だから、それは――って、なんだ、そりゃ?」
 俺の服をくいくいと引っ張る珊瑚が手に持っていたもの。
 ――これって、珈琲カップだよな?
 でも、どこかで見た事あるんだけど……て、これ俺のじゃないか! なんでこんな所にあるんだよ。
「これも、おにぃのだよ」
「うおっ! なんだ、こりゃ――って、よく見りゃ……これ全部、俺ん家の食器じゃないかっ!」
 とりあえず、こっそり逃げ出そうとしている委員長の神田川容疑者を確保。
「神田だよっ、「川」はいらないだよ! そして、離してぇ……暴力はんたぁいっ」
「うるせぇよ。てめぇ……これをどこから持ってきたんだっ」
「え、えっと……。どこからって――ひゃぁ、ごめんなさいっ! こ、こうちょうが、こっそり水上君の家に侵入してっ」
 また……あの人かよ。
 全て白状した委員長は、泣き崩れるようにして机に突っ伏した。「出来心だったんです。家には、可愛い我が子がお腹を空かせてっ。と一人芝居をしているが、これは放置プレイしよう。とりあえず、これで事件は解決だ――って、違う!
 あの人は、何考えてるんだよ。と言うか、いつの間に家の合鍵なんて作ったんだ? そう言えば、前にも家に侵入した事があったが――。
「それは、ピッキングで……」
 それは泥棒で犯罪だって。
 どこでそんなスキルを手に入れたのか、絶対に使う場所を間違えている。いや、使ってはいけないのではないか?
 しかしよく見るも何も、本当に我が家の食器達だよ。俺の食器から珊瑚、瑠璃と琥珀の分まで全てある。
「……ったく。最初から、やり直しかよ」
「おにぃ……。これがいい」
「だから、それは家の食器だって……」
 未だに食器を選んでいる珊瑚が、手に取っては楽しそうに眺めている。
 だから、それは家の食器だって何度言ったら分かるんだよ。選んでも仕方ないんだぞ。
 まったく桃姉さんも、疲れる事をしてくれる人だ。とりあえずは、これを持って帰ってもらわないと、晩御飯が食べれないではないか。

「はっははははははっ――ごほぐほごほっ! はぁ……息が続かねぇ」

 突然、馬鹿笑いと咽返るアホな声が聞こえてきた。
 毎度同じ登場パターンで、よく飽きない奴だな。俺なら少しは変えるぞ?
 しかし、今回は笑いすぎで咽返ってしまい、名乗るチャンスを潰している。このままスルーするか……。
「ちょ、ちょっと待ってよぉ!」
「なんだよ、ハゲ」
 上半身が裸で、下にはスパッツを穿いた芸人を彷彿とさせるポーズで、固まっているハゲ。
 あれは、なんとか二時何分だったかな……? 忘れてしまったぞ。現れたのは、やっぱりハゲ。間違いなく、ハゲ。
「どう見ても……ハゲ」
 ナイスだ、珊瑚。
 その一言が、相手の心を抉り地獄のどん底に落としていくのだ。あの泣きそうな顔を見ろ――あれは相当効いてますね。
 ハゲに問答無用のクリティカルヒット。
 それでこそ我が妹……いい子だから、頭を撫でてあげよう。
「あぅ……。おにぃ、気持ちいい」
「いい子だぞ、珊瑚」
「おにぃ……出来れば、違う所も」
 何故に胸を突き出すんだよ。頬を染めて俺を見てもダメ。唇を舐めてもダメ。
 そんな色っぽい表情をしても、ダメなものはダメ!
 お兄ちゃんは例え、天地が引っくり返ってもしません。多分……ね。
「お、おのれっ! 変態兄貴、水上亮っ! その手を離せっ」
「うるせよっ! 変態が変態って言うなぁ。この変態薔薇色ハゲがっ」
「ぐふっ……それを言うな。俺は、帰ってきたんだっ! この日の当たる世界にっ」
 だから、眩しいのかよ。
 今日はまた一段と蓄熱式が有効活用されているようで、眩しさ倍増だ。
 例によって、俺達はサングラス着用。クラスメイト達は、すっかり目をやられて大変そうだけど知らない。
 こいつ、もしかして眼鏡屋と眼科の刺客じゃないだろうか?
「さぁ、勝負だっ! 戦え、水上亮っ」
「やだ」
「へ……?」
 珍しく呆気にとられた顔をしているハゲが、どうしていいのか分からずオロオロしている。
「こんなの予定にはないよ」って顔をしているが、俺はそんな事は知った事ではない。
 大体、こいつと戦う理由なんて俺にはないのだから。
「お前、俺に戦いを挑むより……男を磨いてこいよ」
「う……!」
「お前の目的は俺じゃないだろう」
 珊瑚の背中を押して俺の前に立たせると、真っ赤な顔をして俯いてしまったハゲ。
 あれだけ酷いフラれ方をしたのに、まだ好きだとは恐れ入ったよ。こいつも本気なんだな。
「……分かった。もう一度、出直してくる」
「いや、二度と来るな」
「うるせぇ。俺はお前に勝つんだよっ」
 俺を指さして軽く笑みを浮かべて、教室を出て行くハゲ。
 爽やかなつもりだろうが、気持ち悪いだけだぞ。そして、二度と来るなよ……俺はお前の相手は疲れただけなんだから。
「ハゲはうっとうしい……ぺっ」
 お前の気持ちは、どうやら報われないようだぞ。
「おにぃ……」
「な、なんだよっ」
 突然、俺に抱きついてきた珊瑚が俺の制服をしわくちゃにしていく。
 ハゲもいなくなったので、視界は良好。と言う事で、周りからは痛い視線がガンガンと飛んできます。
 今は皆さん――武器を持ってますからね。ノコギリ、ハンマー、釘……とてもお近づきにはなりたくない代物を持ってます。
 そして、そんな目で睨まないでくれ。俺の目から水がこぼれそうだよ。

「ボクは、ここがいいの」

 その言葉が意味するところなんて分からない。
 ……ここってどこだよ?
 俺にしがみ付いて「ここ」って、どういう意味だよ。だけど、そんな事をゆっくり考えている暇はないようだ。

『ぶっ殺すっ、ギマイスター亮っ』

 いつの間にかすっかり囲まれているよ。
 その先頭で涙を流している馬鹿が一人。随分前は俺って確か尊敬されてなかったか?
 それが、少しの間に犯罪者紛いの扱いだ。酷い格差があるのは、どうしてでしょうかね。
「ちくしょう……なんで、いつもお前だけがっ」
「泣きながら来るな、功治っ」
「もう、お前なんて大嫌いだぁ」
 子供が泣き喚くようにしてノコギリを振り回す功治の周りは、次第に赤く染まっていく。
 巻き添えを喰らったクラスメイト達よ……永遠なれ。
「おのれ……よくも仲間をっ」
「お前がやったんだろうがっ」
「問答無用っ! 野郎共、やっちまえっ」
 何故、時代劇風になっているんだよ。
 全員「へいっ」なんて言って、くわだのすきだのを持って――百姓一揆かよっ。

「待ちやがれっ、亮っ! 少しは、俺達にもその妹パワーを分けろっ」
「何の事言ってるのか、さっぱり分からんねぇよっ!」

 涙を流しながら追い駆けてくる功治とクラスメイト男子共。面白半分の女子まで一緒に追い駆けてくる。
 なんなんだよ、このクラスは――。

「俺が何したって言うんだよ!」

 虚しく響く俺の声が、廊下を木霊していた……。


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