第19話:お花畑に連れてって…。
六人もいた俺の仲間が次々と倒れて、今は二人だけ。
……なんて訳もなく、さっきの指令で琥珀と功治、珊瑚と美鶴がそれぞれ指令を実行する為に方々に散っただけの事。
内容は極秘と言う事で、俺にも教えてくれなかったがあんまり乗り気ではないのは、顔を見ればすぐに分かった。
また、むちゃくちゃな事を言ったんだろう、桃姉さんは。
「さて……俺達も行くぞ」
「う、うん……。で、でも……ど、どこ行くの? 私、知らないよ」
服の裾を掴む瑠璃は潤んだ瞳で俺を見上げている。妹ながら、その男心をくすぐる仕草に感服。
その仕草を自然に出来るとは末恐ろしいが、この性格なら大丈夫だろうと思う。
瑠璃が指令の内容を知らないのは、桃姉さんが俺だけに指令を出したからだ。しかし、瑠璃を一人にするのは危険なので、こうして一緒に
来たのだが、ちょっと失敗したかも知れない。
「それなら俺が知っているから、ちゃんと付いて来いよ」
「うん、お兄ちゃん」
廊下には俺達以外の姿はない。
さっき倒した奴らは、まとめて牢屋にぶち込んできた。と言って、ここは俺達の教室がある校舎ではない。
この学校には二棟の校舎があり、A棟に一年やニ年のクラスが全てあり、そして今いるB棟には三年生のクラスがある。
その他に理科室や視聴覚室等の特殊教室がこちらにあるので、敵が隠れるにはもってこいの場所とも言える。だから、どこに隠れているのか分からないので、慎重に行動しなければ、
「きゃうっ」
と思っている矢先から、後ろで瑠璃が転んだ。大丈夫かな……かなり幸先が思いやられるよ。
「大丈夫か? 瑠璃」
「はうぅ……痛いよぉ」
「どこ打ったんだ?」
「……ここ」
涙を浮かべて鼻を擦っている瑠璃。少し赤くなっているが、特に問題なさそうだが、相変わらずのどん臭さだ。
何も無いところで転べるのは、ある意味才能だな。
「大丈夫みたいだぞ。こうしていれば、痛くないだろ?」
「ひゃ……お、おおお、おにいちゃん」
鼻頭を指で優しく撫でるようにして、おまじないをする。
子供の頃、転んで怪我をして泣いている瑠璃に何度もやったな。無論、珊瑚や琥珀にもやったが、瑠璃が回数ではダントツに多かった。
今では滅多に転んだり怪我をしたりする事も少なくなったので、久しぶりにやったがなんだか懐かしい気持ちでいっぱいだ。
「ほら、大丈夫だろ?」
「うん……。ありがとう、お兄ちゃん」
真っ赤な顔の瑠璃は照れくさそうに応えると、ゆっくりと立ち上がる。
「ちゃんと足元見て歩けよ? また転んでも知らないからな」
「も、もうっ……! そ、そんなにドジじゃないもん」
「…・・だと、いいんだけどな」
「むぅ……お兄ちゃんのいじわるぅ」
むすっと頬を膨らませて俺を睨みつける瑠璃だが、怖くないのは何故だ?
逆に思わず抱きしめたくなる愛玩動物系の可愛らしさがある。
腕が抱きしめたくて、ムズムズしてます! て、妹相手に俺は何を考えているのだ――。
「と、とりあえず、先を急ぐぞっ」
「あ、おにいちゃん、まってよぉ」
パタパタと後ろを付いてくる瑠璃の足音をBGMに、俺達は目的の場所へと進んでいった。
「さて――ここで、ひとまず様子を見よう」
「あ、あう……」
狭い場所だが、仕方ない。
俺達は今、廊下の突き当たりにあるゴミ箱の中にいる。ゴミの投入口が二つ在るタイプで、中はそれなりに広いが俺一人でほとんどいっぱいの状態なのだが、そんな中に二人もいるとさすがに苦しい。
決してゴミと一緒にいる訳ではなくゴミはさっき他の場所に移してきたから問題なし。でも、少し生ゴミ系の匂いがきつい……。
さて、投入口から見える廊下をウロウロとしている数人の生徒。男子も女子も混ざっているが、あれが問題のチームって事か。
それにしても、桃姉さんも俺に面倒な事を頼むなよ。
「え、えっと……お、おおお、おにいちゃぁん」
足元から聞こえる瑠璃の情けない声を無視していると、今度は俺のズボンを引っ張り出した。
「なんだよ。騒ぐと見つかるだろ?」
「だってぇ……」
それでも必死にズボンを引っ張る感触と泣きそうな声に下を向くと、
「ぶっ! な、なんだっ」
「あぅ〜、た、たすけて、お兄ちゃん」
なぜ、顔の前にお尻があるんだよ? ピンクの花畑が満開でとても綺麗だな。
でも、さっきまでは確かに俺の方を向いていたはずの頭は、今は髪の毛しか見えない。二本の尻尾のようなツインテールが、忙しく動いているのは、瑠璃が暴れているからだろう。まったく、どうやったらこんな芸当が出来るのか、教えて欲しい。
「何やってんだよ……瑠璃」
「わ、分からないけどぉ、いつの間にか……それよりもお兄ちゃんっ、見ちゃダメっ」
必死に隠そうとすればするほど、捲れ上がっていくスカートに、更に慌てた声が聞こえてくる。
目の前にあれば見てしまうのが、男の悲しい性と前にも自己弁護したが、まさにその通り。
大体、こんな狭い所に二人も入っているんだから、瑠璃も無理な事を言うなよ。だから俺が、「違う場所に隠れろ」って何度も言ったのに、一緒がいいって駄々をこねた結果がこれだ。
「だ、だめ、見ちゃいや!」
「あがっ、蹴るな! いた、いたたっ……お願いだから暴れるなって、瑠璃っ」
暴れまわっている瑠璃の足蹴が俺の身体中に炸裂する。しかし、瑠璃の蹴りは案の定と言うか威力はなく、ポコポコと可愛い音がしそうなものだ。それでも、どう言う訳か正確に身体の急所を蹴っている辺り、琥珀と同じDNAを持っているんだな、と関心したりもする。
「大体、このゴミ箱に二人っていうのが無理があるって、最初に言っただろうが」
「あぅ……。だ、だって……ひ、ひとりは、さびし……い、し」
恥ずかしそうにしているが、目の前ではおしりが揺れてるだけ。俺のリビドーが暴れ出すのも時間の問題かもな。
そんな俺の葛藤を知らずに、目の前のお花畑は優雅に揺れていた……。
「しっ! ……静かにしろ、瑠璃」
「ひゃうっ」
俄かに騒がしくなってきた廊下に視線を向けると、何やら一人の男子生徒と女子生徒達が集まって相談をしていた。
話の内容は聞こえないが、どうも様子がおかしい。慌ただしく走って行く男子生徒に付いていく迷彩服を着た女子生徒達。そして残ったナース服を着た女子生徒が教室の中へと入って行く。
あれで全員だろうか? そうなると今、教室の中には救護要員だけのはず。これはチャンスかも知れないな。
「瑠璃、行くぞ」
「う、うん……。あ、あの中に捕まっている人達がいるんだね」
「そうだ……て、早く頭をこっちに向けろって」
「あぅ……だって、服が引っ掛かって、動けないのぉ」
頷いているが、やっぱりお尻が揺れているだけ。もうちょっと見ていたが――て、俺って最近エロキャラになってないか?
「行くぞ、瑠璃」
「あぁ〜、ま、まってよぉ、おにいちゃぁんっ」
もう無視だ。このままでは一向に進まないし、俺の精神が持ちそうにない。
『亮ちゃん、今どこ?』
「うおっ、びっくりした! ――桃姉さん、いきなり通信入れてこないでよ」
『そんな事より、捕虜は確保したぁ?』
「今から突入するんだよ。それより……桃姉さん、もしかして陽動かけた?」
インカム越しに笑い声が聞こえてくるが、どうやら当たりらしい。どうやって陽動したのか聞いてみたいが、その手口を知るのは怖いな。
『それじゃ、検討を祈ってるわぁ』
「あいよ」
それっきり桃姉さんの声は聞こえなくなった。
男にとって、こう言う場面って見せ場の一つだろ? アドレナリンが脳内を駆け回って最高に気持ちいい。
「お、おにいちゃん……えっち」
「うおっ、る、るり! ――て、どこ見てんだよっ」
いつの間にやらゴミ箱から脱出してきた瑠璃が俺の横に立っているが、視線が下の方を向いて顔を真っ赤にしている。
これはアドレナリンの副作用であって、決して変な事を想像した訳ではないぞ。
「こほん――そ、それじゃ、突入するぞっ」
「う、うん」
頷きながら銃を構えている瑠璃だが、水鉄砲では締まりが無い。と言うより、それでは太刀打ち出来ないだろう。
張り切って頷いている瑠璃には申し訳ないが、俺一人で頑張るか……。
「……行くぞ」
教室のドアを、静かに開けた――。
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