序章 奇跡未来堂!ただ今参上! その7
「では、最大の難関へと問題を移そう」
「そうですね、そもそも、この問題がなければ、普通の事件ですからね」
犯人が防犯カメラに映らない。
「やっぱり、呪いじゃないの?その、高木恭介だとか、昔の男のさ、2年前の『呪いの人形事件』とかあったじゃない」
ビューティーが先程の話を言い出した。
「それもあるけどさー。ビューティー、あの去年の夏の『恨み饅頭事件』の方がすごかったじゃん。あんなに饅頭口に入らないよ〜」
「いやいや、それをいうなら、『藁人形事件』だ。釘を刺された藁人形の中に本物の人間が入っていたというあの事件は本当に大変だった。我が警察の力を持ってしても犯人を捕まえるのには時間がかかってなあ…」
ビューティーとハルとミソの昔話が始まった。
「おい、話を止めろよ」
話が違う方向にいってしまったことに不機嫌なキセキはイライラと言った。
「そういえば、あの時キセキさん、藁人形の中に入れられたんですよね」
モーが笑顔で言う。
「そー、そー、あん時は、ヤバかったよ、あと少しで釘を刺されてなあ……って、うるせー!!」
キセキは怒鳴った。
「昔話はいいから、今の話をしろ!」
はい、はいと4人は姿勢を正す。
「一番可能性があるのは…画像に手を加えてることですよね」
「うむ、だが、それはない」
モーの質問をミソが返す。
「なんでわかるんだ?」
「最近はこの手の事件も増えててな、ウチの中にもそういうのがわかる人間を置いてるんだ。そいつがはっきりと言っていたよ、CGなどの手は加えられていない…ってな」
「そのマンション…管理人はいるのか?」
キセキが唐突に聞いた。
「ん?ああ…一応な、いるよ」
「そいつの詳細を調べてくれ」
「今調査中だ」
「この管理人が、もし、被害者と深い関わりがある奴なら、この事件は一気に解決に向かうぞ」
自慢気にキセキは言った。
「どういうことですか?」
モーが問いかける。
「この監視カメラは恐らくビデオテープ録画になっているタイプだろう?」
ミソが頷く。
「…であれば、ビデオテープそのものに手を加えたものであれば、バレないな」
「なるほど、そういうことか、管理人が主犯、もしくは共犯のケースか」
「つまり、この殺害現場の録画は、自作自演、1人芝居のもので、本当の画像は処分されてる。管理人が関与してなければ、出来ない技だな」
「…わかった。早急に結果出させるようにしよう」
ミソは携帯を持って外へ出た。
「さーて、これからどうする?」
キセキが周りを見ながら聞いた。
「僕勉強があるんで…」
モーが口火を切った。
「あたしは睡眠」
ビューティーが冷たく言う。
「ちっ、どいつもこいつも。俺は、その現場となったマンションへ行くぜ。なあ、ハル、行こうぜ」
キセキのご指名にハルは極端に驚いた。
「えっ、あのー、ハルちゃんはね、これから調べものをしなければいけないのー。メールの受信という調べものを…」
「あーあー、もういい!俺1人で行ってくらぁ!」
キセキの呆れた声に反応するように、3人が同時に「行ってらっしゃーい」とハモった。
シャルムマンション。
早見真紀子の殺害現場。
黄色のテープが引かれ、数十人の警官があちこちを調べている。
さすがにこれでは入りようがない。
キセキが諦めてその場を離れようとした時、携帯電話が鳴る。
ミソからだった。
「キセキだ」
(おう、さっきの管理人の話だがな、24歳という若い男で、北村茂という名前だ)
「被害者との関連は?」
(まだわからんが、住所まではわかったぞ、ここから遠くない)
「教えてくれ。それにしても随分と若いな」
(うむ、これはひょっとしたらひょっとするぞ)
「まあな、今日のこの事件があったのに、管理人が出勤してきていない。問題だろう、これは」
住所を聞いたキセキは急いでその北村茂の家へと向かった。
シャルムマンションから歩いて10分程度。立派とはいえないアパートがその住所だった。
「…ぼろっちい所だな…」
かん、かん、かん。
キセキは階段を上がり、「北村」の表札を見つけた。
静かにドアノブに触れて回してみる。
普通かかっているはずの鍵が…。
かかっていなかった。
「北村さーん、すいませーん」
キセキはこん、こんとノックをしながら呼びかけた。
無言。返事はない。
嫌な展開を思い浮かべる。
携帯を持ち、ミソへ電話をかける。
(御園生だ)
「ミソ、ヤバイぜ、ビンゴだ」
(どうした)
「北村の家にいるんだが、鍵がかかってない、しかも呼びかけても反応もない」
(寝ているってことはないのか)
「今までの経験上の感覚ってやつだ。100%寝てるってことは……ない。いいか、俺はドアを開けて侵入するぞ」
(待て、俺たちが行くまで待つんだ)
「だったら早くきな」
キセキは電話を切る。
深呼吸をし、ドアをゆっくりと開けた。
きぃ…。
建てつけの悪い音が響く。
「北村さーん。お邪魔しますよー」
大きな声でキセキは言うが、当然ながら返答はない。
みしっ。
床が軋む。
玄関、台所、奥が居間。寝室兼用なのだろう、居間の様子がわからない。
キセキは恐る恐る居間の方へと進んでいった。
嫌な予感は更に深まる。
ぴーんと空気が張るのを感じた。
居間の中の全貌が明らかになる。
キセキは除いた。思わず溜息をもらした。予感が見事的中したからだ。
暴れた形跡は感じられない。部屋の中も着衣も乱れている様子はない。
だが、これは現実だ。
キセキは…。
北村茂の…。
無残な…。
包丁を突き立てられた…。
刺殺死体を…。
…発見した。
「…ったく、動くなと言ったろーが」
ミソが怒った口調でキセキに言った。
北村茂殺害現場。アパート。ここのシャルムマンション同様、黄色のテープで囲まれて、警官がわらわらと騒いでいる。
「仕方ねーだろ、気になったんだからよ」
キセキは半分ふてくされている。
「ここは俺がなんとかするから、早くお前はこの場を離れろ」
ミソが追い払うようにキセキを押した。キセキは何か言いたそうだったが、渋々その場から離れた。
「それにしても、妙な展開になっていくな…」
ミソは呟いた。
キセキの携帯電話が鳴り響く。
モーからだった。
(あっ、キセキさん!ミソさんから聞きましたよ。どういうことか説明してくださいよ!)
「どーもこーもねーよ。管理人の名前と住所がわかったっていうから、行ってみたらこの有様だ」
(それで?どう思いました?キセキさんは)
「間違いなく、今回の事件に関わっているな。しかも、格闘とかの跡はなかった。つまり…」
(顔見知り…仲間割れですね)
「そういうことだな」
キセキは不穏な空気を感じ取って、立ち止まった。辺りを見回す。
「今はまだ現場近くだ。とにかく、皆を集合させておいてくれ。すぐに戻るから」
(了解です)
携帯電話を切る。
キセキはそこから1歩も動かないまま、しばらくじっと佇んでいた。
やがて、まるで目の前に誰かがいるかのように、言葉を発した。
「いい加減に、出てこいよ。わかってんだ」
何者かの気配を感じ取っていたキセキは自信を持って言い放った。
…が。
10分以上経っても…誰も現れることはなかった…。
「気のせい…?いやそんなはずはねえ」
今までの経験で、この感じは何かあるとキセキは確信を持っていた。
じゃり…。
地面の小石が混じった砂を踏みつける音が後ろから聞こえた。
キセキは振り返ると、そこには女性が立っていた。
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