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男嫌いな健気な天使

作者:イヌスキ
名前を考えるのが面倒でしたので連載中の「モブ男~」の名前を流用してますが全然関係ありません。名前を考える才能を誰か譲ってください。
「くるな! こっから先は女だけの場所だ。お前みたいな汚い男が入ってくんな!」

 岩の上、剣を構えた女に静止されて、リュウジンは足を止めた。

「あぁ……わりいな。入らないからオレのことは気にすんな。このへんに休める小屋ねーか? 納屋でもなんでもいい。使わせてくれると助かるんだが」
「……入らないの?」

 女はきょとんと首を傾げた。年の頃は13、4だろうか。小柄な、だけど恐ろしいぐらい綺麗な子供だった。

「入らねーよ」
「なんで」
「あ?」
「男は乱暴だって皆言うよ。戦わなきゃ駄目って。なんでお前は入らないの?」

 五歳は年下の子供に不思議そうに首を傾げられ、リュウジンはさて、どう答えようかと一瞬だけ思案した。
「あー。まぁ、男もいろいろいるんだよ。心配すんな」

「そう……なの? ……怪我してるの?」
「あぁ。ちょっとな」
「いたい?」

「いてぇからそっとしといてくれ。怪我治ったら消えるからよ」

「……………………。こっち。古い家があるよ」

 小さな手に引かれて、森の中に入る。幾分も無く、古びた家屋にたどり着いた。
「使っていいよ。お水持ってくるよ」
 少女はまるで重さなどないかのようにふわふわ地面を蹴って歩く。

「ほんとにおれ達の場所に入ってこない?」
 水を抱えてきた少女に、目を真っ直ぐ見て聞かれた。リュウジンはやはり真っ直ぐ見返して答えた。
「入らないよ」
 と。
 少女は嬉しそうに笑って――――。

 リュウジンの服を裂いた。

 ぐちゃぐちゃに傷の入った腹部を露にされる。
「毒だね」
 口の中に布を突っ込まれ、直接傷口に口を付けられる。
「ぐぅ……!!」
 激痛にリュウジンの体が跳ねる。布を噛まされてなければ舌を噛み切っていたかもしれない。
 傷を吸われ舐められて、激痛に気を失う。だけど、目が覚めたときには痛みが夢だったかのように体が楽になっていた。

「いたい?」
「いや、すげぇ楽になった。ありがとうな」
 いままで見た事のない荒療治だったけど、この少女の治療のお陰で楽になったことは間違いない。
 小さな頭を撫でると、少女は驚いたのだろう、リュウジンの手を凝視した。

「――おっきいね」
「え?」
「手」

 重ねられて納得する。確かに自分の手は少女の手の二倍ほどもあった。
「ちっちぇな」
「むぅ」
 少女が不満げに吐息のような声を漏らす。

「俺はちっちゃくない」
「ちっちぇーよ」
「ちっちゃくない! お前より大きいんだ」
「どこがだ? 手も体も小さいじゃねーか」

 手は言わずもがな、体だってリュウジンのほうが二倍は大きい。
 笑われて、少女は唇を尖らせた。

「みせてやる」

 ぶわり。

 リュウジンの視界が真っ白になった。
 少女の背中から、純白の天使の羽根が生えていた。

「おまえより、大きいだろう」
 なぜか胸を張る少女に、リュウジンは目を見張るしかない。
「お前、天使族だったのか」

 確かにリュウジンの体より大きな翼だ。
「そだよ」

 少女は不思議そうにリュウジンを見た。
「羽根、むしらないの?」
「はぁ?」
「俺達の羽根、すごく高く売れるよ。1枚で1年、遊んで暮らせるよ。知らないの?」
「――知ってるよ。この国の人間が知らないはずねーだろ」
 だからこそ天使は乱獲され数を減らし続けている。

「なんでむしらないの?」
「傷を治してくれたのに毟るわけねーだろ」
「――そう」
 少女は嬉しそうに笑って、リュウジンの掌を掴んだ。
 手の甲をすべらかで柔らかい頬に押し当てられ頬ずりされる。
「ありがとう」

「お前、名前は?」
「ミキ。おまえの名前は?」
「リュウジン」
「りゅう」

 そっと握られた掌を解く。
「りゅう?」
 まだ握ろうと伸びてくる指を振り払うように掌を振った。


「あんま懐くな。オレは居なくなるんだから」
「いなく、なる?」

「怪我が治ったらな」
「いなく、なる……?」
 呆然と繰り返していたミキの視線が突然に尖った。背筋を伸ばして立ち上がる。


「ひとだ。おとこだ!」
 ミキは帯剣していた剣を構えて小屋を飛び出していく。
 何事か。
 リュウジンも少女の小さな背中を追った。


「くるな! こっから先は女だけの場所だ。お前みたいな汚い男が入ってくんな!」
 いつか聞いた台詞と同じ言葉を履いて、少女が立っていた。

「おぉ、すげー美人じゃねーか。まじでここ、天使の谷なんじゃねーの?」
 少女――ミキは恐怖に一歩下がった。
 男の数が多かった。ざっと見るだけでも十人以上いる。
 なんでこんな大勢の男が。そうか、村の皆が、近くで戦争が起きてるっていってた。だからリュウジンもここに逃げてきたんだ。
 天使達が口々に話していたことを思い出す。
 そろそろ移動しなければと話していた。もっと早く逃げ出しておくべきだったんだ。
(は、ひ、勝てない。負ける。負ける!)
 ミキの体が恐怖に引きつる。

「お前、天使なんだろ? なぁ、羽根を出してくれよ。お前が天使なら、他の連中は助けてやるから」
「て、てんしじゃ、ない」
「へー、そうなの?」

 負けて堪るか。戦ってやる!

「ああああ!」
 自分を鼓舞するように声を上げて、ミキは剣を振りかぶった。
「おっと。なかなか鋭いじゃねーか」

 ガァン!

 剣を叩き着けられ、ミキの掌が痺れた。
 勝てない。全然勝てない。
 だけど引くことなんてできない。一人でいい。誰か道連れに死んでやる。

 村は異変に気が付いているはずだ。きっと皆逃げている。少しでいい。時間稼ぎを。
「ほらほら、これで終わりな」
「ぎゃぅ!」
 正面の男と切り合っている最中、横から蹴り飛ばされ、ミキの体は軽く飛んで地面に落ちた。
(剣!)
 剣に伸ばした掌を踏みつけられる。
 ぎり、と踏みしだかれて皮膚が切れる激痛に呻く。

「あああぁ……!」
「縄持って来い。こいつも高く売れるぞ」
「こんだけ綺麗なら俺ら専用便所にしてもよくねえか? 士気あがるんだけどなあ」
「あぁ、それも――――」

 答えていた男の首が飛ぶ。
「ガキ相手に何言ってんだよおっさんよぉ」
「りゅう」

 多勢に無勢だった。
 リュウジンは手追いだった。

 だけど、最後に生きていたのはリュウジンと、ミキだけだった。


「りゅう、りゅう、りゅう、りゅう!」
 腕を、体を切られ、出血の多さに朦朧としているリュウジンの肩をミキは必死に揺すっていた。
 怪我人を包むだけで治癒の効果のある天使の羽根を伸ばしてリュウジンの体を覆うものの、彼の意識は戻らない。

「ユリ、ミホ、リュウが死んじゃう、どうすれば助けられるの!? お願い、おしえてくれ!」
 村の中にいる同族に必死に呼びかける。
「教えられないよ」
 落ち着いた声が村の中から帰ってきた。天使の長、ユリの声だ。
「どうして!?」
「教えたら、お前は村に戻れなくなる」

「戻れ無くていい! おれはりゅうと行く! だから教えて!」
「だめだ」

「血をね、飲ませればいいよ。そうすれば助かるよ」
 きつく尖ったユリの声とは違う、優しい声が答えてくれた。ミホだった。
「ミホ!!」
 絶叫のようなユリの声が響く。
「もうね、だめなの。もうミキは取られちゃったの。諦めなきゃだめ。おっきい手と力と優しい心を持った男の子には勝てないの。わかってたでしょ? ユリ」
 嗜めるような、だけど悲しいミホの声が響く。
 もうミキは二人の話を聞いていなかった。
 役に立たなかった自分の剣を取って、躊躇無く手首を切りつける。
「しなないで、しなないで、りゅう、お願いだから、しなないで」

「まて、ミキ! 駄目だ! 血を飲ませれば、お前はその男から離れられなくなる! 一生その男のいいなりになってしまうぞ!」

 断末魔のようなユリの叫びも虚しく、ミキの血はリュウジンの口へ落ちていった。

「あれ……、オレ、生きてたのか」
「いきてたよ。絶対にしなせないよ」
「あぁ……」
 リュウジンはふわふわと自分を包む羽根を撫でた。
 気持ちよさそうにミキが笑った。
「天使の羽根には癒しの効果があるんだったな……」
 リュウジンは体や足を動かして検分し、傷も痛みも無いのを確認すると立ち上がった。
「んじゃ、オレ、ここから出て行くわ。今までありがとうな」
「おれもいく」
「はぁ? 駄目に決まってんだろ。村に戻れよ」

「おれ、戦えるよ。おれ、強いよ。お前が怪我した時は助けるよ。おれ、お金も作れるよ。おれの羽根ね、すごい高く売れるの。皆、この羽根を狩りにくるの。お前のためなら、羽根、売れるよ。お前、遊んで暮らせるよ。一生」
「いやいらねーよ」
「なんで? お前のためなら、羽根、無くなっていいよ」
「なんでだよ」
「お前が守ってくれた。だから、おれも守りたい」

 ぶわりとリュウジンの体を純白の羽根が覆う。
「すき」
「お前なぁ……」

 リュウジンは不愉快そうに眉根を寄せて、ミキの羽根を1枚毟った。
 たまにからすや白鳥が落とすのを見た事がある、大きな翼の中のたった1枚の羽根。
 毟ったかどうか一見すると判らない程度の小さな羽根だったのに、
「ひぃ――やぁああ!」
 ミキは絶叫して背中を反らせた。
「痛ぇんだろ? 簡単に売るとかいうな。お前にはできねえよ。この谷で暮らせ。人と同じ場所に来たっていいことなんてないからな」
「ひぐ、ひ」
 本当に痛いのだろう。リュウジンにしがみ付いて泣き出したミキに戸惑ってしまう。

「そ、その、すまねえな。でもこんぐらいしないとわからないだろ? ほら、帰れ。な」

 ミキは自分で翼に手を伸ばして、羽根を毟った。
「う、やぁあああ――!」
「――にしてんだ、やめろ!!」
 手首を捻り上げて止める。
「つれてってくれないなら、おれの羽根、一杯持っていってほしいもん。お前がおれを忘れないように。お前がお金に困らないように」
「なにいってんだ!!」
「すき。おまえのために、女になったのに」
「は?」
「おれたち、女か男か選べるの。おれ、おんなのこを選んだの」
「はぁあ!? 女の子にしか見えなかったんだけどお前女じゃなかったのかよ! だいたいお前男は帰れって言ってたよな? おまえ自身女じゃなかったのかよ」
「いまはおんなだよ?」
「いや、そうじゃなくて、いや、それはどうでもいいんだけど」

「痛くてしぬかもしれないけど、羽根、一杯持っていって。だいすき。すき」
「――――――!!」

 リュウジンは息を呑んでから、ミキの小さな肩に掌を乗せて、観念したように深く深い溜息を吐いた。
 肩は柔らかくて小さくて、力を入れたら簡単に砕いてしまいそうだ。
 これ以上痛い思いなんてさせたくなかった。

「わかった。連れて行く。でも嫌になったらいつでも言えよ。ここに帰してやるから」
「りゅ」

 ふわりと浮き上がってミキが顔に抱きついてくる。

 リュウジンは観念して小さな天使を抱き締めた。

 この後。

 天使の加護を受けた青年が国の要まで登り詰めたり、要に登り詰めたのに国王に天使をよこせと言われて嫌になって国から逃げ出して、悪かったから戻ってきてくださいと頭を下げられたり、頭を下げられたころには自由気ままな暮らしが楽しくて一介の冒険者でありながら諸国に名をはせていたり、天使族の長に命を狙われたり和解したり、天使の乱獲を止めるよう政治的な規約を作ったりと様々な紆余曲折があるのだが、それは全部後のお話。


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