死に場所
「へぇ、こんなところがあったのか」
「反応薄いっスねぇ…」
浦原はそう言って、日番谷を振り返った。冷静なこの少年が盛大に驚くところも見てみたいものである。
「お前ならこういう事、やりそうだしな。そこまで驚かねぇよ」
日番谷は浦原商店地下の、修行場に居た。階段を下りるのが面倒で、日番谷は途中で階段から飛び降りる。衝撃を殺して、膝を利用しながら静かに降り立った。
「せっかちっスねぇ…」
「うるせぇ。俺は早く氷輪丸をどうにかしねぇといけねぇんだ。ゆっくりできるか」
腕を組んで、まだのらりくらりと階段を下りている浦原を睨む。それに気づいた浦原は、帽子をバツが悪そうに下げて、ひょい、と軽い身のこなしで階段を飛び降りた。扇子をパチン、と叩いて懐にしまうと、杖の形をした斬魂刀を握る。
「それじゃ、アタシは紅姫を使いますんで、日番谷隊長は白打と鬼道、それから歩法でどうにかアタシとやりあって下さい」
「…のしてもいいわけだな?」
「はい、そりゃもちろん」
分かった、と頷いた日番谷を見て、浦原は口角を上げる。刀を構えて、小さく呟いた。
「啼け、紅姫」
杖の形から、見る見るうちに刀が表れる。日番谷は少し下がり、距離を開けた。刀を相手にしたら、少し分が悪い。それは簡単に理解はできるが、離れすぎても鬼道の威力は落ちる。絶妙な距離感が大切だ。
「行きますよ!」
「いつでも」
浦原がバッ、と身構え、日番谷は軽く肩の力を抜く。力みすぎては、鬼道は最大限の力で発動しない。ふぅ、と息を吐いた。瞳をゆっくりと閉じ、全神経を研ぎ澄まさせた。翡翠が、カッと開かれる。
浦原の一撃目を、隊首羽織を翻してかわし、視界の隅に見えた浦原に焦点をあわせて、掌を向けた。
「蒼火墜」
浦原の斜め上で、青白い炎が見えた。それを察知して、刀を下から上へ、振り上げる。赤い輝きが、日番谷の銀髪を照らした。
「っ…!」
鬼道で相殺させるか、それともかわすか…一瞬の迷いがあった。そうこうしてる間にその輝きが目の前までに迫ってくる。
「ちっ!」
真っ先にしたのが、距離を開けるでもなく、逃げるでもなく、立ち向かう事。威力は虚閃より遥かに上だ。鬼道で止めるのは不可能だが、ほかにしようと思った事が無かった。
「…白打、か」
視線を掌に向ける。白打だけではとても止められる勢いではないが、日番谷にはある技名が頭の中を巡っていた。
名前を少し聞いて、やり方をなんとなく聞いただけで実際に試した事は無い。けど、自己流に使ってみれば、何とか応用は利くかもしれない。賭け、だった。
「…瞬閧」
肩ではなく、掌に霊力を込める。加えて白打の勢いを加えれば、相殺はできるかもしれない。そんな小さな希望を込めて、一気に鬼道を練り上げた。掌から雷のようにバチバチと鬼道が輝く。一気に浦原の攻撃にそれをぶつけた。
バンッ、と大きな爆音と暴風とともにそれは消え去った。
「…少しイメージとズレがあるな…。ま、こんなもんか」
「さっすが…天才、っスね。聞いただけで実行できるなんて」
「持ち上げても手を抜く来はねぇぜ。…白雷!」
浦原がそれを刀で受け止め、身構えた時には、日番谷は浦原の背後を捕らえていた。パリパリ…と電気が走っているような音が聞こえる。
―――雷電系の鬼道か、それとも…!
浦原がそう思って背後を振り返ったときには、既に遅かった。
日番谷の力強い拳が、浦原の顔面スレスレで止まる。
決着はついた。
*****
地面に座り込んだ日番谷が、浦原に言う。
「手、抜くなよ」
「まさか。抜いてませんよ」
日番谷があまりにも不機嫌にそう言うので、浦原は少しおどけた感じでそう言った。しかし、日番谷はまだ納得しない表情で、はぁ、とため息をつく。
「アンタ、完成体の破面を撤退させたらしいじゃねぇか」
「アタシじゃないですよ、追い払ったのは。夜一サンっス」
「…それでも、そこに居合わせて近距離での虚閃を防いだだろ」
そうですけど、と浦原は言う。
それを聞いた日番谷は、更に不機嫌そうにキッと日番谷を睨んだ。それに、浦原はギョッとする。
「だとしたら、俺の最後の一撃…あれは簡単に防げたはずだ。…何でそうしなかった?」
「…時間がなくなったから、っスね」
「はぁ?」
聞き返す。何の事か、さっぱり分からない。何に気づけと彼が言っているのか何も見当が無かった。
「…よく、感覚を研ぎ澄ましてください」
「?」
急に、普段不真面目な浦原が、真面目な顔でそう言ったため、仕方なく感覚を研ぎ澄ませる。今の今まで戦っていて、身体が火照っていた。
…はずだ。
一気に汗が引き、背筋が凍りつく。金縛りをかけられたかのように身体が動かなくなった。引いた汗が、今度は冷や汗となって噴き出した。
「何だよ…これ…?」
「氷輪丸の霊圧、でしょうね。制御装置に入れておいたんですが…こんなに早く霊圧が溢れ出るとは思いませんでした」
スッと、帽子の奥の瞳が日番谷を捉えた。日番谷が霊圧になれ、身体の自由が利くようになると、浦原を見、翡翠を伏せた。
「…もう、時間はねぇな」
「はい。このままにしておくと、また暴走が始まる」
「…そう、か」
少し、苦笑する。さっきまで強気だった少年が、一気に弱くなっていく。
「仕方ねぇ。浦原、氷輪丸を持ってきてくれ。俺が掴むと…」
「分かってますって。あなたが持つと、余計暴走する。ここまではあたしが持ってきます」
「悪いな、礼を言う」
浦原が階段を上りきり、姿が見えなくなったのを見て、日番谷は小さく言う。
「ここが死に場所じゃねぇことを祈るぜ…」
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