太陽の断末魔
「…」
日番谷は、自分の掌を見つめていた。ここ最近、ずっと、事あるごとに見つめているような気がするのは、気のせいではない。
ぼんやりと、思いつめるように自分の掌を見つめている日番谷に、乱菊は不思議そうに話しかける。
「隊長、どうしたんですか? 最近、ずーっと掌見つめちゃって」
「ん?」
日番谷には珍しい空返事をして、乱菊のほうを振り向く。その顔は、身長に見合った、子供のような顔をしていて、眉間の皺が普段よりずっと浅かった。目も大きく見開いていて、確実に自分の世界に入っていたのであろう事が伺える。
乱菊と目が合ったその瞬間、我に返ったようにキリッと表情を引き締めた。
「悪い…何でもねえ」
何故謝ったのか自分でも分からないまま、日番谷は机に肘をついた。掌で顔を覆い隠すようにして、深く腰をかける。
「…お前、仕事はどうした?」
顔を伏せたまま、乱菊に訊く。
「え、いや、その…」
その曖昧な答えに、日番谷のこめかみに青筋が浮かんだ。
怒りを噛み殺したように冷静に、しかし確実に震えた声で乱菊に言葉を投げかける。
「まさか、やってねえとか言うんじゃねえだろうな…」
「そ、それじゃ、京楽隊長とお酒飲んできまーす♪」
こんな光景は、普段の光景。日番谷の怒号が飛び、乱菊が慌てて執務室から飛び出す。そんなことは、安易に予想できる図だった。
今では、有名な十番隊の名物の一つである。いや、護廷隊名物と言っていいかもしれない。それくらいに、しっかりと浸透しているものだった。
「…ったく…あの野郎ォ、逃げやがって…」
こうして、いつも副官の仕事をしている日番谷を「苦労人」と呼ぶ死神は急増しているというのは、言うまでもない。
日番谷は、乱菊が残していったおぞましいほどの資料をげんなりと見つめ、上から少しずつそれらを片していくのであった。紙の上を、筆が滑らかに滑る音が、執務室に木霊した。
「はぁ…」
ため息をついて、筆をコトリと置いた。アレだけあった資料の山が、すっかりと無くなっている。何時間ほど仕事をしていたのだろう。日番谷は椅子から立ち上がって、少し伸びをした。
気分転換に素振りでもしようかと、グッと氷輪丸の柄を掴む。瞬間、自分でも恐ろしくなるほどの霊圧が、自分に流れ込んでくるのが分かった。驚いてサッと手を引き、柄を掴んだ右掌を見つめる。
その瞳が、不意に一瞬揺らいだ。
「…ちっ…」
小さく舌打ちをして、日番谷はもう一度柄に手を伸ばした。今の感覚をもう一度、確認する。出来るなら嘘だと信じていたいかのように、僅かな希望を込めて、ゆっくりと。
しかし、びりびりとした感覚が、先ほどと同様に、流れ込んでくる。もの凄い速さで、腕から身体へ、確実に。そのまま、刀に拒まれるようにバチッと掌が弾かれると、日番谷は氷輪丸に呟く。
「もうちょっと、待ってくれよ…」
悲しむように、惜しむように。
その声は確実に揺らいでいた。
「頼む…」
椅子にもう一度腰を掛けて、顔を伏せる。その言葉は、聞き取れるか聞き取れないかほどにまで掠れた、小さな声だった。
窓から、真っ赤な太陽が、断末魔のように日番谷を照らしている。十番隊の執務室は、断末魔で真っ赤な血の色に染まっていた。その中で、日番谷の銀髪だけがやけに輝き、孤立しているようにも見えるのだった。
…シリアスになってますでしょうか?
シリアスを書くのが少し苦手なので、評価してもらえると嬉しいです(^^*
これからもご愛読お願いします♪
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