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神影の彷徨 作者:ゆちゃあ
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第六話 少女達 / 1

お久しぶりです。今話は平和的かと思います。その為少しだけ実験回でもあります。故に少しだけ読みにくい部位が出てくるかもしれません。
さて、今回の話はキャラ回です。というのも間違いなく鬼神城の名前が覚えにくい&キャラが掴みにくいと思われるので彼女達にスポットライトを浴びせてみようというのが動機でした。なお、キャラのイメージはみてみんさんの私のページ(http://55.mitemin.net/)へ飛んでもらうとよろしいかと。へたっぴでごめんなさい;;


 静かな音が響く。それは風の音。静かだからこそ響く新しい音。

 程好く晴れた空の下、一人でいる事が不思議と嬉しくなるような場所、そんな所に私は立っていた。風が吹く度に前髪が揺れて髪型が崩れていくのが分かる。普段の私ならなけなしの体裁感覚を保つために髪型を直すのだろうが、今は私しかいないためそのような事に時間を費やす気はない。利き手をそんな瑣末な事の為に動かすことすら億劫となる。
自然の一部になると言う事がこんなに気持ちのいい事なのかと生まれて初めて知る。もっとも、自然から離れてしまっている私達が自然の一部になれているなどという妄想はほとほとおかしな話かもしれない。だけれども大きな力の前にならそんな叛骨的な考えさえも小さ過ぎる芽だった。いや、叛骨という言葉は不適か。

 雲が動く。止めどなく流れていく。雲の形を目で捉えるには私は一度じっくりと空を見上げるだけでいい。小さな目玉二つで私はあの大きな雲を大量に捉える事が出来る。
 それは遠いから。私とあの雲の間には距離以上の絶対的な何かがあって、それを越えられない私だからこそ彼等をこのように見渡す事が出来るのだと思う。

 遠いから。
 そう、遠いから見渡せる。

 遠い、存在

 逆に言えば、近いと見渡せない事になる。
 あまりに近くにいるとその全容を知ることはできなくなる。

 ならば近づくよりは遠くでいた方が良いのか?
 姿を捉え続ける為に距離を空けていた方が良いのか?

 近づけば、見えなくなる所が増える。それは怖い事なのかもしれない。
 でも近づかないと見えない事もある。それは怖い事なのかもしれない。


 風が流れる。あの雲と私とに風は当たっている。それなのに私と雲の距離は遠ざかっていく。私はあの雲の様に軽くはないから当然のことなのだ。

 だけれどあの雲とその横の雲ではそこまで大きな差は開かない。同じ風に当たって、同じ方向に流れて、同じ速さで泳いでいる。


 それは羨ましい事だった。いつでも寄り添っていられる幸せ、それが私の望みなのかもしれない。

 でもそれは難しい事なのだと私は深く理解していた。

 今ここに私が独りでいる事が何より彼女との間に大きな壁が一枚存在している事の証なのだから。


 風が流れる、雲達は仲よく泳ぐ。
 風が流れる、私は置いてかれる。

 それは私と雲が違う存在だから


 時が流れる。
 彼女にも同じ時が流れている。
 彼女と私が同じ存在なら私は彼女の横につれそっていけるはずだ。でもきっと近くにいないとはぐれてしまう。あの雲とあの遠くにいる雲とでは違う風が当たっているからお互いに離れてゆくのだ。

 だけれども近くにいる事が怖い。私と彼女の違いに気づいてしまうから。
 だから遠くでいた方が幸せなのかもしれない。遠くでいれば彼女の凛とした姿の全身を脳に刻み込めるから。
 でも近くでいた方が幸せなのかもしれない。近くでいれば彼女の可愛らしい部位を見逃す事がないのだろうから。


 遠いから見える。近いから見えない。
 近いから見える。遠いから見えない。

 風が流れる。
 時が流れる。





「ここにいらっしゃったのですね」

 振り返ると木陰に顔を暗めた(くぬぎ)ちゃんが立っていた。少しだけ閉じられた様ないつもの目を私に向けていた。

「うん、(あずさ)ちゃんに教えてもらってね。(はじかみ)ちゃんのお気に入りの場所なんでしょ?」
「そうですね。ここで椒姉様をよく見かけます」
 椚ちゃんはその後に小さな声で「ここには花がありませんから」と付け足した。
「そっか。なら椚ちゃんはここが苦手かな? 花好きだもんね」
 私の言葉に椚ちゃんは首を傾げる。ほんの少し閉じられていた瞼が、ほんの少し開いた。
「そうですけど……よく御存知で」
 どうやら私が椚ちゃんの好きな物を当てたのが不思議らしい。でも誰が見ても分かる事だと思うんだけれども。毎日楽しそうに花の手入れをしている姿を見ていれば彼女が仕事として花と向き合っているのではない事くらい誰だって、ね。

 傾げた首を再び真っすぐに正すと、彼女はいつも彼女が持っている静の雰囲気を纏い始めた。動くのは瞼と小さく動く胸だけで、それ以外の部分は全く動かさずにじっと私を見つめている。恐らく私の言葉を待っているのだろう。彼女はよくこんな感じで言葉を聞いていたから。
「椚ちゃんはどうしてここに来たの?」
 私の言葉の意味を何度か脳内で反響させてようやく自分が何をしにここに来たのかを思い出したのか、慌てて、しかし『彼女の割に』としての慌てぶりで口を開いた。語頭が少し詰まっただけの変化だった。
槿(むくげ)姉様が尼土様を探しておられました」
「槿さんが? 何だろうね?」
 見当がつかないのはお互いさまなのか、椚ちゃんも首を横に振った。
「それで探してくれていたんだ。ありがとうね」
「いえ、折角の時間を邪魔してしまった様で申し訳ないです」
 そんな風にしゅんと落ち込む椚ちゃんの肩を後ろから押して館へと向かう。
「いいんだって。私にはあんな御センチな気分なんて似合わないんだから」
 椚ちゃんは私の言葉が当然のごとく理解出来ないため、静の雰囲気を醸しつつも私と目が合う度に首を傾げていた。





 椚ちゃんに連れられて何やら騒がしい台所の戸枠を潜ると、そこには私を探していたと言う槿さんの他に梓ちゃんと(あおぎり)さんがいた。騒がしいという言葉を脳に直接ぶつけるとスロットマシーンから吐き出されるコインの様に槿さんと梓ちゃんの名前がコロリと出てくるが、実は今回の騒がしさの原因には梧さんもしっかり含まれていた。と言っても声で騒がしいのではなくその手に持つ物の所為である。幾つもの鍋を調理台に並べ、沢山の調理器具をせっせと洗い、水切り籠に放り投げる様に置いていたのだった。ガシャン、シャリンと、陶器と金属の音が鳴り響く。
「尼土様をお連れしました」
 椚ちゃんは大きな籠に入った沢山の食べ物を見ていろいろ議論していた残り二名に声をかける。
 槿さんは私を見つけるといきなり椚ちゃんに抱きつき、そのお腹をさすった。
「な~いす、椚ちゃん。うりうり~」
 うりうりという言葉の通りに、うりうりと椚ちゃんの体のあちこちを撫でまわす。椚ちゃんは顔を赤に染めて小さく抵抗するがそんな物お構いなしに槿さんは椚ちゃんを弄くりまわす。
 槿さんのセクハラ疑惑なスキンシップが数十秒たっても終わらないので好い加減声をかけようとすると、こちらに背を向けたままの梧さんが大きな咳払いを一つした。それでピタリと槿さんは止まり、私に顔を向けてニカリと笑った。
「はい、今思いついた料理を呟いてくださいまし」
「へ?」
 余りの唐突ぶりに考える前に脳の他の所が反応してしまった。
「思いついたメニューを何でもいいから言ってくださいな」
 いきなり言われても、と言いそうになる口を押さえ梓ちゃんが弄っている食材の数々を確認する。きっと今晩のメニューを私の思いつきにしようって計画なんだろう。そう推測した私は今ある材料でできる物を脳内検索して口にした。
「青椒肉絲とかどうでしょう?」
 しかし私の意見を聞いた槿さんは口を尖らせる。
「駄目です、ピーマンは人を幸せにしません!」
 そんな農家の人が聞いたら憤慨しそうな言葉を堂々と言う。梓ちゃんの教育に悪いのでは? ちなみに梓ちゃんはピーマンを頭に乗っけて遊んでいる。
「それに尼土様、今材料を見てから言ったでしょう。それじゃ不純なんです」
 一本指を立てて優しく叱る様に言う。その仕草口調がお姉さん風で、なんだか心が温かくなる。つい頬をかいて照れ隠しに笑ってしまった。
「むむー。こうなったら他の人に頼みましょう。そうだ尼土様、よかったらアイシス様に訊いて来てくださいな」
「いいですよ。何処にいるか分かりますか?」
 私以外の三人はお互いの顔を合わせるが誰一人答えを出せなかった。しかし相変わらず背を向けたままの梧さんが水を止めて手を拭きながら答えてくれた。
「アイシス様なら恐らく(えんじゅ)姉様の部屋かと」
 意外な所にいるんだなと内心思いながら梧さんに礼を言って台所を後にする。梓ちゃんが付いてきたそうな目をしていたが、手に持った人参に一度視線を落とすと自分の仕事を優先すべきと判断したのか、寂しそうに手を振ってその場に立ったままでいた。





「さて困った。よくよく考えるまでもなく私は槐さんの部屋の位置を知らないんだった」
 長い廊下で独り言を呟いても誰も応えてはくれず、ただ自分への呆れを増幅させるだけであった。
「朱水の部屋なら分かるんだけどなぁ」
 一度も入った事はないけれども、どの部屋が朱水のかという事だけはしっかりと覚えていた。きっと目を瞑っていてもあの部屋に壁伝いに辿り着く事が出来るくらいだ。しかしそれ以外の部屋、特に個人の部屋は私自身のを除いては全く分からないと言うのが正直なところである。と言うのもそれぞれの扉において外見上に一切差が見受けられないからだった。ネームプレートなり何なりつけていてくれてもいいのにと何度思った事か。
 廊下の一面を飾っている大きな窓ガラスから覗く空にはやはり雲が流れていた。
「朱水、今どこにいるのかな……」

 今朱水はこの屋敷にいない。詳細は教えてくれなかったが数日前に事件があったらしく、その事について話し合う領主会とやらに出席するために屋敷を離れている。
 領主会と言うのはその名が示す通り全国の魔の領主が集まる会合の事で、何処で開かれるかは一般の魔には教える事は出来ないとの事だ。少なくとも今回の頭首会が開かれる場所は泊りがけでないといけないらしく、私は朱水がこの町から離れている間だけ朱水の家に厄介になっていた。その理由として朱水不在のための守護力不足がある。未だ実感はないのだが私はどうやら普通ではないらしく、私という存在を奪おうとする人がいる可能性があるため、常に守護者が周りを囲っている状況でありたいと朱水は考えている。そういう訳で最大の守護力である朱水自身の不在は彼女にとって大変な悩みの種らしく、悩みに悩んだ結果がこの状況である。
 今この館にいるのは椒ちゃん等使い魔さん達、アイシス、そして私と由音ちゃんだ。朱水と執事さんはいない。悩みに悩んだと言うのは主に由音ちゃんの扱いである。彼女はあくまで削強班、最終的には敵であるはずだ。そんな彼女を屋敷に数日間だけといっても泊める事は、朱水の心を曇らせるだけでなく頭首としての面子にも影響するらしい。しかしそれでも私を守るためなら仕方ないと言う事で由音ちゃんも朱水の屋敷に泊まる事を許された。私なんかの為に色々迷惑をかけてしまっているが、私が出来る事などその言葉に甘えることしかないと言うのが悔しい。私にそんな価値があるのだろうか。


 窓に映る自分の薄らとした像を見ているとふと朱水と槐さんの事を思い出す。思いだした理由はきっと二人が似ているからだろう。鏡でなく、曖昧な鏡像を作るガラスの様な物で互いを対としている、そう思える程に二人は似ていた。双児の相似とまではいかないが、他人とは思えない、そんな感じであったから。
 そう言えば朱水の身の回りの世話は槐さんがやっていると聞いていた。ならもしかすると朱水の部屋の近くに槐さんの部屋があるのではと考えつく。朱水の部屋なら分かるためとりあえず足を動かす。このまま呆けているよりかは正解に近づくだろう。

 朱水の部屋の前に立つ。今ここに朱水はいないという事実が私の中で寂しさという感情を生みだすが、いつまでもくよくよとしている訳にはいかず、槐さんの部屋を探す。とりあえず左右の部屋の扉をノックしてみたが何ら反応がなかった。それでも一応という事で中を覗こうとするとドアの鍵に断られてしまう。仕方がないのでその隣の扉も同様に確認してみるがやはり鍵がかかっていた。しかし朱水の部屋から三つ隣の部屋のドアがちょっぴり開いている事に気づく。その隙間から中を覗くなどという卑しい行為はせず、ちゃんとドアをノックした。しかし期待していた返事は無かったため、ゆっくりとドアを押し開いた。
 想像していた内部とはあまりに違っていて暫し呆然と立ち尽くす。中は完全に和室であったのだ。私に用意されている部屋がこの館と同調した洋室であったから何処も同じなのだろうと言う考えが崩れ去る。入口には段差がありそこで靴を脱ぐらしい。行儀良く脱がれた小さな靴がそこにはあった。それは間違いなくアイシスのだった。流石この屋敷によく出入りしているだけはある、しっかりと靴を脱ぐという習慣が身についているみたいだ。
「アイシス?」
 私が入っても何の反応が無いと言う事はもしかしたら寝ているのかもしれないと思い、擦れ声で名を呼んでみる。しかしやはり呼び声に応える音は無かった。
「いないの?」
 体を大きく動かして可能な限り靴を脱がずに覗ける範囲全てに目を向けると、入口から中を隠そうとして置かれている屏風と小さな箪笥との隙間に二つの細い足を見つける。肌の白さにそれがアイシスの物であると確信する。ここまで声をかけて反応しないと言う事はやはり寝ているのか、はたまたイヤホンかヘッドホンで音楽でも聞いているのだろう。私は靴を脱ぎ、行儀良く置かれた小さな靴の横に、こちらも真似て行儀良く並べた。
「アイシス、ここにいたんだね」
 屏風と箪笥で作られた壁を迂回して越えると、そこにはぱっちりと目を開けて耳に何もつけていないアイシスが、座ったまま壁に寄り掛かって足を放り出していた。始め、ショートパンツから生える一対の足の美しさに目を惹かれるが、それよりも彼女が熱中している物が何であるか分かるとそれについての興味が増幅していく。
「何読んでるの?」
 未だ私に気付かないアイシスの目の前に腰を下ろし、その顔を覗く。本に視線を送らないのはせめてものマナーだ。私自身読んでいる本のカバーや中をいきなり見られるのには抵抗があるから。
 アイシスはそこでやっと私の存在を知る事になり、驚きのあまり右頭部と右半身をくっつけていた壁で頭を擦ってしまい慌てて手で押さえた。何とも痛そうな行為だった。
「うわ、ごめん」
「びっくりしましたよ」
 まだ痛いのか擦った部位を揉む様に手で覆いつつ、片手で本を閉じる。見ないと決めていたのだが動揺した所為もあってついチラリと表紙を見てしまう。
「あや、意外な物読んでるね」
 アイシスは私の言葉にクスリとする。
「よく言われます。しかしボクくらいの年齢ならこういう小説こそ読むと聞いていますが」
 そう言って表紙だけで恋愛小説と分かる本を、口を隠すように両手で掲げる。学生をターゲットにした、それも女子をメインに置いたレーベルだった。表紙に漫画調のキャラが描かれているので電車とかで読むならブックカバーが是非とも欲しいタイプだ。しかし待って欲しい。確かこれは女子同士の恋愛物しか出さないと言う何とも尖ったレーベルとして有名なはずだ。

 脳裏にチラリと朱水の顔が浮かぶ。嗚呼『アイシスよ、お前もか』

「そうだね。でもアイシスが随分熱中しているもんだからてっきり難しい解析書とかかと思った」
 そこでアイシスは一層唇端を上げる。
「それもよく言われます」
「あやー」
 アイシスは閉じた本を壁と自分のお尻の間に隠し、両手を顔の前で広げる。その仕草の可愛さにドキリとしたりしなかったり。
「して、何用で?」
「ん~っとね、今すぐ食べたい物を言ってみて」
「食べたい物ですか?」
 暫らくアイシスはヒントを探して槐さんの物であろう今いる部屋を見渡すが何も思いつかない様で眉を曲げてしまう。しかし横にある、大きくて丸い手鏡を立てられる古風な鏡台に目を止めると、その上にあるべっ甲の櫛を指差す。
「日本ではクシに鶏肉を刺して炙る料理があり、それが大変美味と聞いています」
「おお、焼き鳥の事か。ただしクシ違いだわさ」
 これまた渋いチョイスだ。しかしたまには焼き鳥みたいな味の濃い物を食べたくなるよね。
「そっかそっか。うん、じゃあ私交渉してくるよ!」
「はぁ、質問の意図すら教えてもらえないのですか。まあ粗方分かりますが」
 アイシスは入口のすぐ横、しかし屏風等によって入口から一番遠くに位置する本棚に読みかけの本を置く。本の合間に入れるでなく、単に棚の残り板へ横に置いただけだった。
「そういやどうして槐さんの部屋にいたの?」
「見て分かりませんか?」
 そう言って本棚を顎で示す。

 槐さんよ、お前もか……





 諸々の器具を洗う音が消えている台所に戻ると、梓ちゃんが大きな鍋の周りを布で拭いている所だった。小さな体が横にあると一層鍋の大きさが際立つ。
「聞いてきましたよ」
 籠の中の食材を全て野菜と肉類、魚介類、調味料とに分ける一仕事を終えて椅子にてくつろいでいる槿さんに成果を報告する。
「御苦労さまです~」
 ぺこりと座ったまま上半身を傾けて丁寧にお辞儀をする。
「それでアイシス様は何て?」
「焼き鳥、だそうです」
 自信満々食う気満々食欲満点な私は力強く答えた。しかしその答えによって槿さんは固まってしまう。
「……尼土様」
「……はい、何でしょう」
「焼き鳥に必要な食材を挙げてみてくださいな」
 笑顔に隠れる威圧的な気配に逃げたくなるが、料理係の梧さんがそれとなく私の背後に立ち、退路を断っている事実に気付くと白旗を上げつつ恐る恐る口を開く。
「えっと、鳥……鳥肉です」
「他には?」
 槿さんは指を一本立てる。
「んっと、長葱?」
「他には?」
 今度は後ろから聞こえてくる。振り向くと梧さんがいつも通りの表情で立っている。救いなのは彼女が平常運転だと言う事か。
「ん……醤油とか?」
「…………はぁ」
 両者から同時に溜息が漏れる。

 ううぅ、なんだかひどく傷ついたんですけど。

 彼女達にとって私とアイシスが用意した答えは意味を成さないらしい。確かにこれだけの食材があるのに焼き鳥というリクエストでは空気を読めていなかったみたいだ。猛省。

 しかし次には梧さんは一度逸らした目を再び私に向けて、
「塩ダレと醤油ダレ、どちらがよろしいでしょうか?」と、平然と訊いてきたのだった。

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