スマホ探偵 指先一つで事件を解決!
数々の短編6
名探偵と呼ばれる探偵たちは、時代に取り残されてないだろうか?
証拠は足で探す、探偵の勘、今時ガラケー……。そんなのはもう古い!
インターネット犯罪が多発する世の中、アナログでは解決できない事件がある。デジタルを使いこなす新しい名探偵。スマホ探偵「安藤林檎!」
今日も彼女は指先一つで事件を解決する。
――スッスッスースースッス――
俺は、通報を受けて現場へとやって来た。町外れにある古い倉庫だ。被害者は、ここで首を吊って亡くなったらしい。まだ若い、少し派手めな女性だった。
やっかいなことに本人が持って来なかったのか、それとも犯人が持ち去ったのか、所持品が何もないのだ。携帯電話すら持っていなかった。
残されたのはプリントアウトされた遺書だけ……。こんな物はいくらでも偽造できるだろう。自殺とは断定できなかった。
『先立つ不幸をお許し下さい。 金崎 羽罵祢』
「お待たせしました」
30分程たってから、長身の女性が現場へとやってきた。このショートボブの彼女の名は、安藤林檎。何度も難事件の解決に協力してくれた名探偵だ。
外見からは、とてもそうは見えない。チューリップハットや、よれよれコートなどの、名探偵にありがちな野暮ったい姿ではないのだ。キレイめの服にスカート、流行ってそうなアクセサリー……。ファッションにうとい俺でも、オシャレである事だけはわかった。
たまたま近くに居た彼女を部下が見つけ、協力を要請したのだ。さっそく、事件のあらましを説明した。とは言っても、ほとんどわかっていないのだが……。
まずは、被害者の身元から割り出す必要がある。そのための免許書や保険証などの身分証が無い。先の長い事件になりそうだな。
――スッスッスースースッス――
「被害者の羽罵祢さん。28才で職業は看護師さんですね」
彼女は、こともなげに被害者の年齢、職業を宣言した。かの有名な名探偵ホームズは、その鋭い洞察力で、服装や仕草だけで全て当てて見せたという。彼女の洞察力はホームズに匹敵するというのか?
「名前で調べたら【フェイスブック】にありました。プロフィール画像から間違いないですね。他の個人情報も載ってますよ」
……これで被害者の身元は判明した。あとは足取りだが……。
――スッスッスースースッス――
「【インスタ】で被害者の足取りがつかめました。2時間前まで、近くのスタバに居たようです」
……死体が発見されたのは1時間前だ。これで死亡推定時刻は絞られる。さらなる問題は、彼女は自殺か他殺か? これは鑑定結果を待つしか無いだろう。
「彼女は自殺ではありませんね」
俺には、まったく判断がつかないが、彼女は簡単に断定した。ここは名探偵の推理を聞かせていただこう。
「自殺を考えている人間が、こんな笑顔で新作フラペチーノ飲みながら自撮りしますか?」
彼女が見せてくれたスマホには、はしゃいでいる被害者が写っていた。確かに自殺しそうな悲壮感は、まったくないが……。仮に他殺だとすると容疑者は誰だろうか?
――スッスッスッースッースッス――
「被害者の【ツイッター】のフォロワーに怪しい男がいます。しつこく彼女に付きまとっていて、ストーカーみたいですね」
……その男を探すとしても、匿名のネット情報だけでは難航しそうだ。
――スッスースースッ――
「男は個人情報を頻繁にツイートしてますね。この近くでアクセサリー店を経営しているようです」
その男と連絡を取り、現場まで呼び出した。
男の名前は福田裕二、アクセサリー店オーナー兼職人らしい。小汚い、女受けが悪そうな男で、思っていたアクセサリー職人のイメージとは違っていた。
事件のことを話しても全く動揺せず、かえって怪しく思える。福田は、被害者とは面識がなく深い関係ではないと主張した。こいつを洗う必要がありそうだ。
――スッスッスースースースッ――
「福田さん。羽罵祢さんが【メルカリ】に出品しているアクセ。これ、あなたが送った品ですね?」
福田は、被害者に付きまとっていたのを認めた。プレゼントを売り払われて恨んでいたこともだ。だが、この容疑者にはアリバイがあった。まずは裏取りだ。
――スッスースッスースースッ――
「彼のアリバイ、裏が取れました。その時間に【ユーチューブ】で生配信してますね」
……俺には、いまいち理解できなかったが、容疑者は遠い場所のイベントに参加していたようだ。そこから戻ってくるのに4時間かかる。……まさか、アリバイ崩しも終わらないよな?
――スッスッスースースッスー――
「【グーグルマップ】でも最短4時間になってますね……聞き込みしますか」
よし! そうなんでもかんでもスマホで解決されてたまるか。地道な捜査が実を結ぶ事もあるんだ。ここからは足で調べる時間だ。
――スッスッスースースッス――
「【ヤフー知恵袋】で聞いてみました。上手くやれば3時間で可能らしいです」
――「あの女が悪いんだ!」
その事を告げると容疑者は簡単に落ちた。そして、犯行動機をつらつらと語りだしたのだが、彼女はまるで興味がなさそうにスマホをいじっていた。
――スッスッスースッスー――
「すいません。ベストアンサー認定してたので」――
「さて、私は帰ります。【アマゾン】で頼んだ商品が届く時間ですから」
そう言って彼女は去っていった。
俺は、普通の名探偵がスマホを使わない理由がわかった。だって、彼女が事件を解決した気がまるでしない。犯人捕まえたのはスマホだよな。
――スッスースッスースースッ――