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超絶隣人ツノガーZ(カッコカリ)

作者: カオスフレア型MMShir

その日、私は一人の男と再会を果たした。

 

角田博人だな?

「違います」

 

その日、一人の男は私と初めて出会った。

 

兵装展開。照準。ロック。

「危ないですよ」

危ないのは貴様だ。死ね。

右腕が変じた砲を放――

ピギャー!?

真横から大きな衝撃。なんだ!?ダンプトラック!?不覚……あまりに興奮しすぎてうっかり轢かれてしまった。よっこいしょ。

「大丈夫ですか!?……うわあ!?」

なんだ。たかがダンプトラックを持ち上げただけでそこまで驚くか。ほれほれ。

「化け物や」

黙れ、我らが仇敵め。貴様を殺すため、この1万2千年待ちに待ったのだ!

「いや知らないですし。というかそんな昔に生まれてないですし」

お前は知らなくても私は知ってるんだ!

「そんな理不尽な」

お前の存在の方が理不尽だ!なんでこんな奴のせいで、我らは……

「あー。純粋に好奇心から聞くんですけど、一体何が」

何が、か。長くなるぞ。

「じゃあとりあえずそのダンプ置いといて、近くの喫茶店でお茶しません?もちろんあなたのおごりで」

いいだろう。……なんで私のおごりなんだ!?

「いいからいいから」

いいのかなあ。

 

うむ。メロンソーダは美味い。

「あー。頭痛くなってきた」

なんでだ。私は可能な限り簡略化して話したぞ。

「いや内容は分かりましたけど。なんですかその出来の悪い最近のラノベみたいな話」

せめてSFみたいと言えんのか。

「だって。僕が1万2千年前の世界に飛ばされて、当時宇宙を席巻しかけていたあなた方機械生命体を絶滅の危機に追いやった?いやいや、無茶言わないでくださいよ」

無茶かなあ?

「あなたが機械生命体なのはまあ、さっきの見てたから百歩譲ってアリとしますよ。でも、僕に貴方みたいな凄い力を持った相手を倒す能力なんてありませんよ。ね?」

当時は我らもそこまで科学力が優れていたわけではない。恒星間航行能力こそ有していたとはいえ、今の地球人でも工夫次第で倒せる程度の能力しかなかった。私の知る歴史では、お前の最初の武器は棍棒と工業用の爆薬と産業用ロボット、宇宙航行用の排障レーザーだ。

「詳しいですね」

社史にあった。

「社史?」

お前の会社のだ。ホームページ調べたらちゃんと載ってたぞ。

「えー!?」

お前は分かりやすく言うと民間軍事会社を作ったのだ。当時、戦闘に長けた知的種族は1種たりとも宇宙に存在していなかったからな。

「戦闘に長けたって……」

これだけ同族同士で殺し合って自滅していない種族は地球人だけだよ。

「え、そうなん?」

そうなんです。

言い換えれば、同族同士で戦い慣れているが故に、地球人は種族レベルで戦闘に長けているのだ。

「なるほど」

私も、お前が作り出した兵器を解析して建造されたのだ。

「兵器って金と時間と人手がいると思うんだけど」

科学技術の基盤そのものはあったのだ。兵器に必要な裾野が。お前はそれを組み合わせる能力が優れていたという事だな。結果として私のような最強の兵器が生まれたのだから!

「自画自賛……いや褒められてるの僕です?」

さあ?

「……あ、お姉さーん。チョコレートパフェもう一個追加で」

お前人の金だと思って好き勝手してるな。

「いやだって。僕を殺したら歴史変わりますよね?」

変わるな。それが目的だ。

「その場合1万2千年前のあなた方、地球を放っておいてくれます?」

まあ滅ぼすだろうな。

「そのお金も無くなっちゃうじゃないですか。使い切らないと損ですよ」

言われてみればその通りだ。人間に化けて暮らしてる間に稼いだ金だし。勿体ない。

何か大事なことを忘れてる気がするがまあいいか。大したことじゃあるまい。

「僕を殺す前に持ってるお金使い切っちゃいましょうよ。ね?」

うむ。そうするか。

「わあい助かった」

寿命が延びただけだぞ。勘違いするなよ?

 

「次は何を見よう?」

お前まだ映画見る気か。

「もっと見たくない?」

戦車戦見て、ラブストーリー見て、宇宙探査見て、白いケアロボット見て、潜水艦バトルアニメ見て、これ以上何を見る気だお前。

「いやヘブライ人がエジプトから逃げ出す話を」

あーあれか。当時、生で見たからなあ……

ってもうこんな時間か。レイトショーになるじゃねーか。

「ロボットなのに時間気にするんです?」

ロボットじゃなくてれっきとした金属主体の生命体だ!ええいこのタンパク質の膜のおかげで辛うじて崩れずに済んでる液状生命体め!

「あ、宇宙人から見るとそう見えるんだ」

同じ姿だからって同じメンタリティだと思うなよ?

「その割に人間ぽいですよね」

ふっ。これでもこの一万二千年、ずっと人間に混ざって観察していたからな。

「何でそんなに」

お前をこの時代で殺さないと意味がない。惑星レベルで見た時、生命は途方もなく強靭だ。中途半端な時期に人類を根絶しても、何千万年かかるかは分からんが、生態系で同じニッチを満たす種族が誕生してしまうだろう。その中からお前と同じ役割を果たせる個体が選定され、過去に送られる。

「送られる…僕は誰かにタイムトラベルさせられるの?」

ああ。だから私は、お前がタイムトラベルさせられる瞬間を狙って殺すつもりだった。過去と現代の時空が連結するからな。

「じゃあさっきのって先走り?」

はっ!しまった!?

「なぁんだ。どっちにしても今すぐは殺されないのか」

なんだその目は!?はぅ、痛い、なんかめっちゃ痛いぞ視線が!?

「まあいいか。映画タダで見られたし」

む、ムカつく!?

「……うち、泊まる?」

いいのか?

「どうせ母さんは『あらあらまあまあ。博人ちゃんが女の子を連れて帰ってくるだなんて!お赤飯炊かなきゃ!』って言い出すに決まってるし」

どんな親なのか気になるな。よし。泊まろう。

「やった」

なんでそんな嬉しそうなんだ。

 

「あらあらまあまあ。

 博人ちゃんが女の子を連れて帰ってくるだなんて!お赤飯炊かなきゃ!」

本当に言うとは。この私の演算能力をもってしても見抜けなかったわ。というかこの場合お赤飯ちゃうやろ。

「さあ、上がってちょうだい」

うむ。

「ねえねえ博人ちゃん。あなたも隅に置けないわねえ」

「うーん。そんなんじゃないんだけどね」

「またまたあ」

ついていけない雰囲気だ。いや憑いてるかもしれない。この母親。

「ねえ貴方。お名前は?」

名前?名前は―――角禍と呼べ。

「ツノカちゃん?素敵なお名前ね。あ、お魚焦げちゃう!ぴーんち」

……なんかドタバタした女だなおい。

「天然なんだよ」

確かに自然発生ではあるだろうが。

「いやそういう意味じゃなくて天然ボケなんだけど……」

冗談だ。

「分かりにくいなあもう。ところで名前、あったんだね。人間には発音できないとかそういうのだとばっかり思った」

昔、他の種族に付けられた呼び名の、略称だ。

「そうなの?」

禍いの角……そういう意味の言葉だ。

「ふうん。角あるんだ」

みたいか?私の角。

「え?いや別に」

そんなことはないだろ?見たいだろ?

「いいよ。無理しなくて」

なあ頼むよ。見たいって言ってくれよ。

「なんでそんな哀れっぽいの!?」

だって誰も褒めてくれないんだ……しくしく

「1万2千年も生きてる機械生命体なんだろ!?かつて宇宙を征服しかけた種族の末裔だろ!?泣かないでよ!?」

じゃあ……

「見たい、見たいよ、今度見せてよ!これでいいだろ……ぜいぜい」

うむ。

「うわぁ……なんかにぱぁってしてるこの人」

ふっ。なんとでもいうがいい。承認欲求を満たすためなら私はなんでもやるぞ。

「しょ、承認欲求……」

我が種族は集合知性体でな。だが、過去の敗北により、私はスタンドアロンで活動せざるを得なかった。アイデンティティを喪失せずに済んだのは人間を参考に自我の構築に成功したからだ。

「だから人間っぽいのか……あれ?外見が同じだからといってどうとかって言ってませんでしたっけ?」

細かい事は気にするな。

まあそういうわけなので寂しくなると死んでしまうのだ。どうだ、恐れ入ったか。

「なんで偉そうなの」

年寄りは敬え。

「ふたりともー。ごはんできたわよー」

おう、今行く!

「すっかりくつろいでるね」

 

ふう。食った食った。

「ほんと何なんだろうこの人」

居候?

「おーい」

まあ冗談だ。

「じゃあ、お風呂先にどうぞ」

うむ。来るのを待ってるぞ。

「いやいいってば。出たら教えてね?」

うむ。とてとてと階段を上っていく姿も可愛いなあ。

おっと。風呂は……先に誰かいる?と思う間もなく、ガラガラと曇りガラスの引き戸が開く。

ほう。

「……ああ。お客さん?」

美しい。

先ほど顔を合わせた母親も美しかった。そして10代にしか見えないほど若々しかった。が、目の前にいる少女はそれ以上だ。なんなんだこの一家。

機械のように整った容姿。凛々しさと艶やかさが同居しているような。

「母さんにも困ったものね。知り合ったばっかりの人をすぐ連れてくるんだもの」

いや。私は博人にくっついて来たのだが。

「あら。そうなの?」

うむ。ところでお前は?

「私?博人の姉ね。……血は繋がってないけど」

ほう。

「私も母さんが連れてきたのよ」

なるほどな。妙なものが惹かれるようだ。

「あなたも含めて?」

ああ。私が最も妙だろうな。

「……弟に何かあったら、許さないから。心しておきなさい」

それは無理だ。私は彼を殺すために来た。

「その時は、先に私があなたを殺すわ」

ほう?それは楽しみだ。ふふふ。

 

というわけで……お楽しみタイムだ。

「あのー。なんで僕の布団に」

うむ。添い寝するためだが。

「僕を殺しに来たんですよね?」

勿論だ。

でもせっかくだし楽しまないとな?

「何を楽しむっていうんですかぁ!?」

いやせっかく初物のショタがおるし。

さぁて観音様の御開帳だぁ!ひゃっはー!!

「ひぃっ!?やぁ~めぇ~てぇ~!?」

おお。かわいいな。ほれほれ。

「やぁ~!?」

 

結論だけ言う。

ちっちゃかった。

 

……夢を見ている。

眼下に巨大な―惑星サイズに達する、鋼の瞳。

頭上には無数のきらめく戦船。

私自身、高層建築に匹敵する巨体を晒して宇宙を駆ける。

戦いだ。途方もない規模の戦いだ。

我らの種族が滅んだ時の記憶。

1万と2千年前。

銀河系の諸種族連合と我が種族は激突。

戦いは我々に有利だった。いくつもの戦船が沈み、無数の残骸が真空を漂っていく。

私自身、何機もの戦闘機械を破壊してきた。

そして今も。

突如として広がる空間の悲鳴。特異点が莫大なエネルギーを吐き出す。

巨大な重力井戸が、真空中から負の粒子をはぎ取る事で起こる膨大な熱量の放出。すなわちブラックホールの蒸発である。

みっつが後方。ひとつが私の前方で爆発。吸収しきれない電磁波と熱が私から反射される。恐ろしい話だが、これはただのレーダー代わりに過ぎない。

弾着観測射撃。

レーダーの高性能化にもっとも有効かつ単純な方法は、その高出力化である。奴らは、挟み込むように撃ちこんだ、むき出しのブラックホールを蒸発させて対象の正確な位置を割り出す。

対象の後方で爆発すれば影ができるし、前方で炸裂すれば吸収しきれないエネルギーが反射されてやはり位置が割れる。耐えられてすらそれだ。そして大抵の場合―耐えられずに破壊される。

考えた奴は天才―――いや、狂っている。

前方を見据える。

直径数十キロにも及ぶ、アンテナと放熱膜を兼ねた巨大な華。その中心に、ほんの35mほどの小型艦が鎮座している。

4基の特異点砲と、上部に小型の副砲を備えた宇宙戦艦は人型のようにも見える。

距離は12光秒。現在の私の速度をもってしても、12秒以上かかる、ということだ。

突撃する。

4秒が経過した時点で次弾が放たれた。その4秒後にマイクロブラックホールが最接近。爆発。輝きが装甲を焼く。アラート。アラート。アラート。放熱が追い付かない。些細なダメージ。無視。自己修復開始。

そして――戦艦が目の前にいる。奴の頭部――実際には副砲だが――が自由電子レーザーを放つが、私の防御磁場は完璧に仕事をした。

反撃。

私の衝角が、物質波構造を打ち消して奴の腹部にめり込む。

一瞬。

両断された戦艦が、小爆発を起こしながら上下に吹き飛んでいく。

次の獲物を探し――見つけた。

通信量が他と段違いの艦艇。旗艦か。

周辺の小型艦から砲撃が殺到するが間に合わない。

伸長した衝角により敵艦を大破。その断面へと私は身を突き入れた。

……ああ、そうだ。

これが、彼と――角田博人と、私との出会いだったのだ。


そこにいたのは、見たこともないちっぽけな炭素生命が1人。

気密が破れ、大気が流出する中、奴は私をじっと見つめていた。

「禍の角。そうか。……君だったか。君が私の死か」

指揮官――角田博人!

私は頭部の衝角を突き出し―――

衝撃。

角が彼を殺す事はなかった。

横殴りの一撃が、私を壁に叩きつける。

私を押さえつけているのは、巨大な蛇腹状の腕。

その腕の主は巨大な円環――いや、光背を背負い、3対の異形の腕を備えながらも、柔らかな曲線に包まれたその体は女性的な美にあふれていた。

―――空間転移システムを装備した突撃型ユニットだ。

私は奴を知っていた。

名は確か――"未来"

今にして思えば何故このような名がつけられているのかよくわかる。

押さえつける腕を振り払い変形すると、私は尾から変じた脚で"未来"にケリを入れた。

一瞬の隙。敵指揮官へ、頭部レーザーを放つ。

半身を焼かれても、奴は表情一つ変えなかった。軸線が狂っている。今の一撃で本来なら丸焼きに出来たはずなのに。

「君に会うのは久しぶりだ。本当に久しぶりだ。だが、君は私と初対面なのだろう?」

ああ。そうだ。お前はついさっき、そう、こんな過去ではなく、ほんの半日前にようやっと、私と初対面を果たしたよ。今思い返している40過ぎの超絶美中年じゃなくて、超可愛いショタだけどな!

……夢で何興奮してんだ私は。

だが、思い出の中の彼は、そんな私にお構いなく語る。

「君に救われた命だ。ここで殺されてもいいか――とも思ったが。背負っているものが大きすぎる」

わけのわからない事を――

「私は――僕は、生き延びる。そして君を――う。必ずだ」

その瞳は、狂気と理性。相反するものを宿し―――

再度、私はレーザーを放つ。

…レーザー・ディフレクター。

高電圧をかけられたイオン膜の鏡。それに遮られた私の光は、彼には届かない。

『させぬ!』

ちぃっ!邪魔をするな!?

私と――"未来"は泥沼の格闘戦へともつれ込んだ。

無駄な事を。どうせ大勢はこちらの勝利だというのに。

愚かにも、当時の私はそんなことを信じて疑わなかった。何故、諸種族連合が、我らの本拠をせめ落とすにはあまりにも足りない戦力で決戦を挑んだのか。

宇宙に、華が咲いた。

―――何っ!?

外へ目をやった私は、信じがたいものを見た。

変貌している。

そこにあったはずの、何の変哲もない小惑星が。

変貌しつつある。

200kmは軽く超えるはずの小惑星が、瞬きするほどの間もなく機械に覆われ、無数の尖塔を突き出し、大きな華――アンテナを展開していく。

私は必死に相手を抑えながら、その光景を見ていた。

機動要塞――何故!?

「あれが我々の切り札さ」

何!?

「墨俣城を知って――るわけはないな。まあ簡単に言えば、あれは高速築城ユニットの仕業だ。もちろん一つじゃない。たくさん用意したよ。そりゃあたくさん。君たちが我々の方に熱中してくれたおかげで、築城の時間を稼げた。感謝する」

角田博人の言葉の間にも、無数の小惑星が機動要塞へと変じて行く。

―――負けた。

あれだけの数の要塞だ。丸ごと機械化された我が母星と言えども、破壊するのにさほどの時間はかかるまい。

「いいのかね?ここで遊んでいる時間はないと思うが」

言われるまでもない。

こうなったからには、可能な者だけでも逃げ延び、再起を図るしかない。

腰部のサブアームで"未来"を殴りつけ、私は真空間へと飛び出した。

自らに集中する砲火を必死に躱し、私はただ遠くへ逃げ延びる。再起に繋がると信じて―――

 

ぷに

ほへ?

目を覚ました私のほっぺたをつねる手が一本。

「……むにゃ」

……このショタはああああ!?

可愛い!かわいすぎるぅぅぅっ!?

なんというハイスペック生物なんだこれは。

……はっ!?これは敵!これは敵!!

夢に見たばかりだろ!!こいつは私たちの母星を焼き払ったんだぞ!?

でもショタだしなあ。可愛いしなあ……

……夜風に当たろ。

 

……ベランダには先客がいた。

「先ほどはお楽しみでしたね」

やかましい。

ベランダの手すりに座っているのは平凡な顔立ちの少年。

私のこの人間体同様、遠隔操作されるサイバネティクス連結体。つまり分身だ。なお名前はない。私はナナシと呼んでいるが。

「いや、失礼。そうですね。せっかく最後なのだから楽しまなければ、という気持ちは分かります。そういう感情がある事はね」

悪かったな。人間にどっぷり染まって。

「いえいえ。仕事さえしていただけるのであれば。どのような経過をたどろうが関係ありません」

分かり切った事だ。私は同胞を裏切る事はしない。

「信頼しておりますよ」

行ったか。

ふん。慇懃無礼な奴め。同胞でなければぶっ殺してるところだ。

……私たちの種族が、個々の意志を持つように進化したのはいつの頃からだったのだろう。

今では、我々のような上位個体はほぼ明確な自我がある。それは、すべてを導く標を失ったからには当然の進化だ。

そうだ。

そのはずなのに……

ええい。悩むなんてアホらしい。どうせ明日にはすべて終わる。寝よ。

 

繁華街を練り歩く私と博人の姿は、どう周りからは見えているのだろうか。

しっかし、楽しそうだなこいつ。

……お前なあ。今日死ぬんだぞ?自覚あるか?

「だって楽しいんだもの!とっても!!」

学校サボって遊び歩いてるだけだろ。

「学校行かなくていいって素敵じゃないかな?」

いやでも死ぬんだってば。

「どうせいつかは人間死ぬし……学校いても死にたくなるし」

何?死にたいなんて軽々しく言うんじゃない。

「あれ?なんで僕を殺すって言ってるのにそんなこと言うの?」

死にたくないというのは生物としては正常だが、死にたいなんて異常だろ!?

「うっ。……ごめん」

なんでか理由を言ってみ?おねーさんが話くらいは聞いてやるから。

「僕…学校でいじめられてるんだ」

いじめ?…家族はどうした。確かにあの母親は頼りなさそうではあるが。

「母さんは……前に家族に相談したら、姉さんが殴り込んで相手を半殺し、いや、本当に殺しかけて……」

あー。確かにやりそうだなあの女。

「空手の道場に殴り込んで、居合わせた屈強な空手家34人を素手で……」

人間業じゃねぇ!?未来から来た殺人マシーンじゃなかろうな。あの姉。

「僕はどうなってもいいけど、姉さんが殺人犯になっちゃうなんてやだよ」

確かに、いじめごときで人生棒に振るのは割に合わんなあ。だからって黙ってるってのはいただけないが。

「僕が我慢して、眼球を切られたり喉を刺されたりマットで簀巻きにされるくらいで済むなら……」

待てや。死ぬってそれ。

うん。犯人全殺ししていいわ。お前の姉は正しい。こんな可愛らしいショタを傷つける奴はぶっ殺そう。

「えっ」

驚かれてもなあ。

「でも」

いやどうせ私宇宙人だし。というか私一人で現状の地球の全戦力を敵に回しても余裕だし。

お前を殺す前に、そいつらぶっ殺そうか?

「……いや、いいよ。どうせ消えるんでしょ?」

まあな。

「なら十分だよ。他人が痛がってるのも見るのやだよ」

お前がそう言うのなら。

「……ねえ」

なんだ。

「痛くしないでね?」

それは安心しろ。痛みを感じる暇もなく殺してやる。

それから。

私たちは他愛もない会話をしたり、ウィンドウショッピングをしたり。

……そうだな。私たちは歳の離れた恋人のように見えるのかもしれない。

 

そして。

「時間?」

ああ。

街の広場。

中央にある時計の真下で、博人の体から、銀色の輝きがうっすらと。

繋がりつつある。1万2千年前と。

この輝きが極限にまで強まった時、彼は消え歴史は確定する。

今殺せば、歴史は変わる。―――否。改変された歴史が元に戻る。

「ねえ角禍」

なんだ?

「―――ありがとう」

馬鹿。

何で感謝の言葉なんだ。

「だって――友達だし」

友達?

「付き合ってくれた。色々お願いを聞いてくれた。話をしてくれた。楽しかった。これって何かな?」

友達だな…

「そう。友達だよ。僕だって、本当は死にたくないよ。でもどうせ死ぬんでしょ?角禍にはあんな力があるんだ。僕が逃げられるわけないよ。――なら、どうせ殺されるなら、おびえて死ぬより、笑って死にたい。だから僕も、最後に友達のためになる事をするんだ」

……

やだなあ。殺したくないなあ。こんな可愛いショタ殺したら全宇宙の損失だよなあ……

「……角禍?」

でも待ったんだよなあ……1万2千年も……待っちゃったんだよなあ……

「角禍……」

ぬがぁ!どーすりゃいいんだ!?

と。

私が人生最大の自問自答をしているところへ、邪魔がやってきた。

「何をぐずぐずしているのです?」

お前か。ナナシ。

「え……誰?」

仲間だ。

おびえる博人にこたえる。

「じゃあ、僕を?」

ああ。殺しに来た。

「いいえ、貴女に発破をかけに来ただけですよ。殺すのは貴女のお仕事でしょう?角禍」

……今忙しいんだ。

「……いまさら何が忙しいのですか?するべきことは明確で、簡単だ」

このショタをぶっ殺していいのかどうか悩むのに、だ。

「……冗談も大概にしていただきたいですね。人間の物まねも、そこまで行くと度が過ぎます」

やかましい。

人間の猿真似が嫌と言う割には、お前、人間そっくりだよ?特にその、イラついてるところとかな。

「……私だけではない。今この星にいる、否。全宇宙にいる同胞すべてが、その男を殺す事を切望してやまないのです。貴女にはそれに応える義務がある」

ますます人間くせぇよ?ナナシ。義務だぁ?それこそ人間の概念だろうが。おい。

まぁいい。それより問題は、このショタをぶっ殺すと私たちも皆消えてしまう、ということだ。

残存する中でもっとも古い指揮個体の私ですら、こいつが作った兵器のカウンターとして建造されたんだからな。

「何をおっしゃいます。そんなこと、織り込み済みでしょう?その代償に我が種族が復活するのです。安い犠牲ではないですか」

まぁ、復活はするだろうな。だがその中に、私はいない。もちろんお前も。いや、今ここにいる全員がだな。

おい、出て来いよ!

―――あちこちで悲鳴が上がった。

私の呼びかけに応え、まぁ出てくるわ出てくるわ。

地上へとせり上がり、あるいは熱光学迷彩を解き、あるいは空間を飛び越えて現れる、数十メートルの巨人たち。

ギラギラと太陽光を反射する生きた機械人形が、数百体はいるだろう。

滅びかけた種族とは思えない数だ。

「……これ、全部」

もうおびえなくていいぞ。博人。今から彼らと話をつける。

「話?」

決めたから。

「何を?」

……約束だったな。角を見せてやると。

―――地面が盛り上がる。

否。地面を透過して、私の本体がせり上がってくる。

この期に及んで隠蔽している意味はない。

「……格好いい!」

博人の叫び。

そらそうだろうそうだろう。

全高35m。黒いフェイスカバーに覆われた顔。後頭部から髪のように長大な尾を垂らし、細く長い四肢と、それに比して頑強な腰のサブアーム。

白と赤に彩られたその巨体を覆うのは、黄金のレーザー・ディフレクター。

これが、私だ。

私の本体。それはどこからどう見ても、巨大ロボそのものだ。

「格好いいけど……角は?」

がくっ。

そこかよ。あとで見せてやる。いや、見せる機会が来ないのが一番なんだが。

「……どういうつもりなのですか?」

怖い顔できるようになったんだな、ナナシ。いいよ。お前それ、とてもいい。

「答えて頂けますか?」

分からないか?察しの悪い。

―――このショタを殺すの、やめよう?

ざわっ

仲間たちの雰囲気が、確かに変わった。

まあ、そりゃあそうだ。生涯をかけた願いを諦めるというのだから。

「……本気なのですね?」

冗談でこんなこと言わんよ。

「そうか。そうか!あはははははっ!!」

狂気の笑みを浮かべ、ナナシは己の顔を叩き、狂乱する。

「いい!こいつはいい!!愉快だ!!我が同胞から裏切り者が出るとは!」

裏切るつもりなら、このショタを連れてとっとと逃げてるよ。私は、お前らに言いたい。

「何を?何を言いたいというのですか?」

違う生き方を、だ。

……皆が聞き入っている。私の言葉にはその重みがある。そのはずだ。

「違う……?何をおっしゃっているのか分かりませんねえ。こんなふうにおびえて生きる暮らしを続けろと?」

違う。

降伏しよう。我らの敵に。諸種族連合に。

「何を……正気ですか?我らの種族を滅ぼした敵に!?」

お前こそ冷静な判断ができていないのではないか?

もはや我々は彼らの脅威たりえない。そして、かつての戦争を体験した世代の大半はもう死んでいる。

世代交代した有機生命体の社会がどうなるか、この地球で飽きるほど見てきただろう?

「……話になりませんね。そんな事を今この場で言い出しますか?」

確かに話にならんな。お前は昔からそうだった。この話を持ち出すたびに冗談と言って笑い飛ばした。

「だってそうでしょう?何を寝言を言っているのですか!?そんな恐ろしい事を……っ!?」

恐ろしい?

確かにそうだ。我々は恐怖に突き動かされて生きてきた。いつか誰かに滅ぼされるかもしれない。その恐怖から逃れるために、他の全種族を滅亡させる道を選んだ。そして、実際に我々は滅びの道を歩んだ。

「ならば!」

そりゃそうだ。あらゆる知的種族を滅亡に追い込む狂戦士の群れ。そんなもんが攻めてくれば、そりゃあ滅ぼそうとするさ。私たちの滅びを招いたのは、私たち自身だ。

「……っ!」

恐怖を捨てる事を恐怖するな。恐怖に頼るな。恐怖を信仰するな。

「わたしは……っ!私たちはっ!!」

な?もうやめよう。

これ以上言い争っても無駄だ。

「……貴様ああああああああ!」

博人を狙うナナシの一撃。

激情に端を発したものだろう。だが。

反射的に、私は――博人を抱きしめている分身ではなく、本体が――奴を踏み潰す。

その瞬間、すべては動き出した。

同胞たちのほぼすべてが、一斉に武器を構える。―――こちらに。

 

…………

 

……やっちまったぁぁぁぁっ!?

いやだってな?こんな可愛い生き物殺せるか?しかも将来あんなダンディなオジサマになるんだぞ?一粒で二度おいしい。

死なせたら全宇宙の損失だろ?な?な??

……あー。死ぬな。私。まぁいいか。このショタの魂に私の姿を焼き付けられるだけでよしとしよう。幾らなんでもこんな体験すりゃ生涯忘れやしまい。

私の存在はこうして永遠となるのだ!

なんて現実逃避してる場合じゃないいいい!

分身は博人を抱きかかえて跳躍。

同時に本体は無慣性機動開始。

私の体を、何発もの砲弾が掠めて行く。

ええい。光速の99.98%に達しているというのに、忌々しいほどいい腕だ!

質量中立化領域に分身と博人を取り込み、手でつかみ上げると同時に光子ロケットをワンショット。

物質透過しきれない空気の原子が私と博人の肉体を突き抜け、摩擦で青白い光を発する。

加熱が無視できないほどになる。亜光速機動はいつまでも続けてはいられない。解除と同時に放熱。目前に歪な人型の同胞――いや、もはや敵だ。

「角禍……!」

心配するな。こうなった以上は守ってやる。絶対にだ!

敵手の鉤爪が私の左腕を切り落とす。動きが止まる。その頭上から私の尾が襲い掛かる。頭を粉砕。胴体までめり込む。

これらの事が一瞬で起きた。

破片が、通常モードになった私と、そしてその保護下にある博人の肉体を透過していく。

ひと固まりの波としての性質を強化された物質は、さらしている面積に対して一定以下のサイズの物質を透過する事ができる。前方投影面積の大きい人間型兵器が宇宙で主流になった一因である。大気中を亜光速で移動できるのもこれを応用した技術のおかげだ。

と、真横のビルが蒸発し、私の上半身に荷電粒子ビームが直撃。――する寸前、防御磁場で真上にねじ曲がる。

飛び道具が必要だ。

移動しながら別のビルに腕の断面を突っ込み、引き抜くとそこには新たな腕が再生。

手を握り、開く。快調。

おもむろに掌を敵へ向ける。発砲。

膨大な排熱。せっかく復元した腕が周囲100mと無数の命を巻き込んで蒸発するが、その甲斐はあった。

放たれたレーザーを受けた敵が爆散。

生半可な威力で攻撃してはならない。やるなら防ぎようのない威力でだ。

ほとんど這うような低姿勢で走りつつ、地面に腕を突き込む。腕の断面が、内部に透過した地面の原子を取り込む。量子機械がトンネル効果を制御する。原子が転換され、腕が修復される。

四肢で地面を押し出すように跳躍。腰部スカート状のパーツが展開。巨大な副腕と化し、上空から襲い掛かってきた狼型の2機を掴むと、そのままコアごと握りつぶす。

――形態転換開始。

後頭部の尾が縮まり、まっすぐな一本の衝角と化す。真上に伸びる。一方カウンターウェイトとして、主脚が繋がり、新たな尾となる。腰部副腕が移動。脚としての機能を確立。

ほんの一瞬で、私の姿は巨大な角と尾を持つ竜と化した。

再度無慣性機動開始。ヒッグス粒子を遮断した領域で身を包み、限りなく質量を低下させることで私たちは亜光速に達する。

今度は敵も。

亜光速を出せると言っても、制御系の反応速度が増えるわけではない。各部神経系が実時間零で反応し、私の自我はそれの調整と追認を行うだけだ。

それは肉体に技を覚え込ませるのにも似る。

故に、亜光速戦闘の結果は技量が露骨に反映される。

ひとつ。ふたつ。……七つ。

私の衝角は、7体の敵を粉砕した。

約束は果たしたぞ、博人。

「角禍……」

これが私の、角だ。

「角禍……僕は……どうやったら、君に報いられるの……?」

それは……

答えようとした矢先。

私のレーザー・ディフレクターは完璧な仕事をした。だが問題はその先にあった。

「うわあああああああ!?」

地面に叩きつけられながらも博人を守りきれたのは奇跡に近い。

無慣性状態を解除。レーザー・ディフレクターでも防ぎきれないほどの膨大な輻射熱。周囲は太陽の中にいるかのような灼熱地獄だ。

必死に首をもたげ、上空から私にレーザーを照射する敵手を見つける。

―――ナナシ。

巨大なセンサーを翼のように広げ、両腕で保持した大型のレーザー砲をこちらへ向けている。

その間にも周囲は蒸発していく。半径数キロが。

―――この街はもう駄目だな。

そんなことを思いながら、不思議とおかしさがこみ上げる。

一体今までに幾人殺してきた?こんなことを気にするだなんて。

そうだなあ。ひどいなあ。こんなことを私等はしていたんだなあ。殺されて当然だなあ。―――死にたくない。ああ、なんてばかだったんだろう、私たちは。

因果応報、とはこういう事だったんだな。

……だが最後に一つだけいい事をしたぞ。それだけは。それだけは。信じて欲しい。

……誰に?

「角禍!」

そうだ。彼にだ。

「ああ……助けて……誰か……」

私はもう駄目だ。だがお前が飛ぶまでの時間は稼げただろう。

「やだよ……角禍……死なないでよ……」

無理だ。だから……だからお前が助けに来い。

「え?」

お前が飛ぶのは過去だ。そして今この瞬間までが、確定する事実だ。

だから―――博人。お前が過去に飛ぶまで私は死なない。だから、なんとかしろ。幸い時間はたっぷりある。

「……うん……うんっ!」

約束だ。

「うん、約束する、するから……あぁ…」

「声が……声が聞こえる……」

そいつだ。そいつが、お前を過去に飛ばす張本人だ。

こんなイカれた世界を作った、《偉大なる意志》ってやつだ。

いいか。銀河の中央にあるブラックホールへ行け。そこに、《偉大なる意志》はいる。

「……《グレート・オーダー》」

最後にもうひとつだけ。

「何……?」

キスしてほしい。

「分かった」

……

キスは、いつまでたっても来なかった。

私が愛したショタの姿は、もうこの時間軸から消えていた。

 

……勝ったぜ!

だが嬉しくねええええ!

状況は依然として大ピンチ。というかもう駄目だ。頭を抑えられ、無数の敵に囲まれて絶体絶命。というか死ぬ。死んだ。

『……よくも。よくもおおおおおおおお!?』

上空から入る通信。ナナシからだ。

……いいぞ。やるならさっさとやれ。

熱でもう動く事すら不可能だ。

『裏切り者め……消す!跡形もなく消してくれる!!』

やかましい。

……最後に目に焼き付けるのが、奴の姿というのも哀しいもんだ。

とすっ。

……ほへ?

私は呆然としていた。奴らも呆然としていた。なんだ。何が起こった?

周囲を見回し――なんだありゃ?

無数の石柱が生えている。

いや。変形し、木の枝のように枝分かれしつつ高速で伸長。一瞬で上空にいる敵の1体を貫通。爆破。

逃げ惑う多くの敵。

その1体1体に追いつき、貫通。

「―――弟を殺さなかった事、感謝するわ」

その声は。

私は、眼前に現れた人間の姿にあっけにとられていた。

お前は。お前は―――

「準備しろと弟に言ったのはあなたでしょう?」

―――博人の姉。

こいつ、私が使っていたのと同じサイバネティクス連結体か。

となれば、その本体は―――

「我が名は"永遠"。角田永遠」

トワ、か。本名はなんという?

「失礼ね。戸籍上本当に角田永遠よ」

ああ、なるほどな。そりゃあ確かにそうだろうな。

「けど、しいて言うならば……拠点防御ユニット、第三世代型"永遠"タイプのフラグシップモデルよ」

第三世代……1万2千年前に建造された旧式中の旧式じゃねーか。

「重ね重ね失礼ねアンタ。人の事言える?ちゃんと最新データを使って自己改良してるわ」

そうか。確かに私たちがここに来る前から埋まっていれば、気づく事はないのか……

拠点防御ユニットは、惑星と同化し自己修復システムやジェネレーター、武装、防御システム等を構築する事で星自体を要塞化するシステムだ。こんなもん相手では、たかが数百では手も足も出ない。

そして。

丸ごと蒸発した街が、復元を始めていた。

大地が戻り、ビルが建ち、人が無から再生される。その記憶や人格までも。

惑星全土のデータを取得し、再生システムを持つ拠点防御ユニットにはたやすい作業だ。

『何が……何故………っ!?』

逃げ惑いながら、枝分かれする石柱を撃つナナシ。

分かってないのか分かりたくないのか。

一つ言えるのは、私たちは博人にハメられたってことだな。

「ええ。あの子は最高だもの」

同感だ。

ところで、この騒ぎなのにあいつは来ないのか?

「そろそろ来ると思うわ」

天空に光。

空間を捻じ曲げて、1機の突撃型ユニットが出現する。

―――"未来"

あの時の機体か。こうなっては何もかも懐かしいな。

「ああ。……まったくだね。角禍」

その声を聴いて初めて、"未来"の掌の上に人間が乗っている事に気付いた。

若い。若すぎる。

……ショタだぁ!?ダンディなおじさまじゃねええええええええ!?

「いや突っ込むところそこ?」

せっかくの再会なんだからナイスミドルを期待してたのに……しくしく。

「だって…おっさんの姿で母さんと顔合わせたら流石に倒れるよ」

そうかもしれないが!しれないが!?

一瞬でも期待した私が馬鹿だった……

と、そこへ。

『ふざけるな、ふざけるなああああああああ!?』

ナナシがレーザーをぶっ放す。"未来"へ向けて。

……

"未来"が無造作に突き出した掌の先。歪曲した空間により著しく変化した空間の光速度は、その屈折率によって光を全反射。破壊的なエネルギーは届きすらもしない。

愚かな事を。

そして、無造作に突き出される"未来"の第三の腕。

それは空間にこじ開けられた門を通り、ナナシのコアを突き破って背中から伸びる。

『ば……馬鹿な…………』

馬鹿はお前だ。

いや私も馬鹿だけど。馬鹿だけど。

……残存する同胞が掃討されるのも時間の問題か。

だが。

なあ。

「なあに?」

降伏勧告してくれね?

「……OK」

 

結論だけ言おう。

私の種族は、生き残る事ができた。

 

そして今。

約束、覚えてるか?

「うん」

ちゅっ。

誰だ。キスは甘酸っぱいとか言ってた奴は。

「さあ?」

あははっ。……なあ。

「うん」

ずっと、一緒にいてくれるか?

「うんっ!」

 

こうして、長い永い私と博人の2日間あるいは1万2千年は終わりを告げた。



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[良い点] 軽快でコミカルで前向きな、疾走感あふれるところ。 コミックボンボン臭が濃厚でした。 [一言] うわショタコンつよい(今日の一句) 不条理ギャグかと思われた無敵の姉などがちゃんと伏線で吃驚し…
[一言] 初めまして、大本営と言います。 末席ながら灰鉄杯に参加させてもらっていますので、皆様の作品を拝見しています。 主人公が無個性に描かれることで、結果としてツノカが徐々に人間的になっていく、あ…
[一言] 初めまして、タオ・タシと申します。灰鉄杯絡みで拝見しました。 キャラと世界観について。  異星から投入された侵略兵器……なんか灰鉄杯のラインナップにやたら多いキャラですが、流行ってるんです…
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