私は都内にあるパチンコ店の店長をしている。
店長といっても雇われだから、決して世間が思ってるほど収入が良いわけでもない。
店の売り上げによって給料が変わるいわゆる歩合制だ。
金持ちの在日オーナーからは「売り上げをあげろ」と会うたびに言われる。
そしてもっと「頭を使え」とも言われる。
雇われだから文句も言えない。
店の方の儲けは赤字ではないが、ここ三ヶ月ほど横ばい状態で伸び悩んでいた。
原因は複数あった。
メーカーから矢継ぎ早に投入される新台、アルバイトの高騰する人件費、派手な店のネオンに使われる電気代に、客を寄せるための広告費等。数えだしたらきりがないが……
そのうちの最大の原因が半年前に導入したホルコンシステムの設備投資のためだった。
今では大型店ならどこでもいれている。
私の店のホルコンシステムとは、店にある全ての遊戯台をパソコンで管理できる優れたものである。
台の大当たり回数、大当たりまでに客が要したいわゆる”はまり”回転数、
客が使った金等が瞬時にパソコンのモニターでグラフ化されて一目瞭然である。
それと……
オーナーが導入したホルコンシステムにはもう一つの顔があった。
それは、違法なのでオーナーと私しか知らない秘密であるが、大当たり数を自由にコントロールすることが出来るのである。
普通、パチンコをしたことがある人なら分かるだろうが、台に付いているスタートチャッカーに球が入ると台の内部コンピューターが大当たりか外れかの抽選を行う。
これを完全確率抽選方式という。
私の店においている機種はだいたい300〜500分の1の確率である。その確率を毎回、玉がスタートチャッカーに入るたびに抽選するのである。
だから、客の方は少しでも抽選をする試行回数をあげるためスタートチャッカーに、釘の甘い入りやすい台を探して遊戯する。
私の店の釘調整は千円あたり22〜25といったところだった。
例えば大当たり確率が300分の1の台で1000円当たり25回まわる台があったとしたら、300回試行するのにかかる金は12000円かかる計算になる。
そして仮に12000円使って大当たりしたとして客が換金した場合、私の店では6000円といったところである。普通ならば、12000円使って6000円しか返ってこなかったら誰も貴重な時間を使ってまでパチンコなんかしないだろうが、そこは完全確率抽選方式、1回転で大当たりすることもある。
逆に1000回転抽選しても当たらないこともままある。
パチンコ台の方は客に抽選している時、少しでも飽きさせないようにと、様々な光と映像を使って台を演出させる。
そうして客は数時間で数万円負けるリスクを背負ってるのにかかわらず、数十万儲かるんじゃないかと自分の強運と淡い夢を見て、毎日せっせと完全確立を信じて、私の店にアホ面をさげて来店してくれる。
しかし、客の方も馬鹿ではない。いつも負けてばかりだと、さすがに来なくなる。
そこで役に立つのがホルコンの闇の顔”遠隔操作”であった。
あとは、店長のいかに客を飛ばさず、客から金を巻き上げるという生かさず殺さずという事を”遠隔操作”によって演出してやる私の腕にかかっていた。
そうして私は今日も朝から店のあちこちに設置されている監視カメラを見ながら、パソコンモニターの前に座りせっせと遠隔操作に励んでいた。
今日は多大な広告をはったイベントの日だった。目玉は最近躍進してきているメーカーが満を持して投入してきた時代劇をモチーフにした台である。台の名前は必殺!剣客仕事人、世の中に蔓延る悪を依頼人の金によって成敗すというもの。メーカーがテレビのCMをガンガン流してくれているので、お馴染みの方も多いことだろう。一台あたり30万円もする代物である。それを50台メーカーから買っていた。
もちろん私はこの台に関しては派手に出す気はなかった。
人気機種は最初は放っておいても客つきがいいからだ。
ある程度客には、はまってもらって膨大な設備投資にかかった金を回収しないといけない。
しかし、全台渋ちんにしてしまうとさすがに客が飛んでしまっては困るので、10台ほどは派手に出すよう設定してやった。操作は簡単――パソコンモニターにある大当たりと書かれているボタンを押せばいいだけだ。あとは回数を押せばその分だけ大当たりする。
私は店が出してるように見せるため目立つ場所の台を中心に大当たりを演出してやった。目立つ場所とは、店の入り口付近の台だ。入り口付近にドル箱が山積みしていたら、欲にかられた客は「出している」と錯覚する。それ以外の台は全てはまり台だ。
私が大当たりを演出している以外の台は、ほとんどが午前中だけで1000回以上はまっていた。
あまり当たりがこないと客に怪しまれてしまうので、はまってる台は頃合を見て、スイッチをいれてやるが、連荘はしない。このへんの駆け引きが腕の見せ所である。
しかし、この台さすがメーカーの営業が言っていただけあって、いくら客が負けてもひっきりなしに台は埋まり空き台がでない。午後五時になってあっさりと本日の売り上げがでてしまった。
パチンコの台の売り上げとは……1台あたり3万円利益がでたら御の字である。
売り上げがあがったので、私はここから自分の嗜好によって当たりを演出することにした。
この遠隔装置はじつにすばらしく面白い。
私の大当たりをさせてやる基準とは…… まずは、一見の客。
最初勝たせてやって、味をしめてまた来るように常連客にしてから回収してやる。
その次が女性客。私自身の好みの女だったら勝たせてやる。
おばはんにも適度にだしてやる。おばはんは、昼間の貴重な収益元だからだ。
あとは私のその時の気分だったが、常連客にはほとんど勝たせないでいた。
私は防犯用と銘うった監視カメラの映像を見ながら客はほんと「馬鹿だな」と思っていた。
私の演出とは露知れず、台にどっぷりはまり、一喜一憂している。
客を見ているとほんとにおもしろい。
「あの店は女性だとよくでるぞ」と噂になれば、女装してくる変装バレバレのおっさんがいた。
その時はさすがに度肝を抜かれておもしろかったので派手に勝たせてやった。
私は腹を抱えて大笑いしたものだった。
そして、今も興味深い客を偶然カメラで見つけた。
それは、はまっている台が二台空きが出たときに起こった。
若い青年は台が空くのをずっと待っていたのか、台が空くと二台ともにタバコと携帯電話を置いて場所取りをしてから、どこかにいった。
しばらくしてから、青年が、激しく腰の曲がった杖をついたよぼよぼのおばぁーちゃんの手をひいて戻ってきた。その青年と、おばぁーちゃんは始めて見る顔だった。
そうして台の1台におばぁーちゃんを座らせると、青年は、おばぁーちゃんに遊び方を説明してやってるようだった。
それから青年は自分の財布から1万円をだすとおばぁーちゃんの台に入れてやった。
青年も自分の台にいって遊戯しだした。
初顔なのでスイッチ入れてやろうかと思ったとき、青年の台が大当たりした。
そうすると、青年はおばぁーちゃんのところに行って台を代わってやった。
私は感動した。「なんてぇ、おばぁーちゃん孝行な青年なんだ!」
おばぁーちゃんはシワクチャな顔をくしゃくしゃさせて大喜びしていた。
私も人の子であるからして、こうゆう孝行青年には大いに勝たせてやることにした。
時間を見ると午後7時を少しまわったところ、閉店まで残りあと4時間弱、
そうして、私は二人に閉店まで続く大当たりをプレゼントしてやった。
瞬くまに積み上げられていくドル箱……
閉店10分前には二人とも20連荘していた。
恐らく換金したら二人とも10万にはなるだろう。
私は二人の喜んだ様子を間近で見たいためホール内にむかった。
時々店内に顔をだすのも店長の務めである。
アルバイトに閉店準備の指示を与えると、さすがに客がまばらになった人気看板台のしまにいった。そして、ありえない連荘に歓喜している二人のところに行って声をかけた。
「いやぁ、凄い連荘でしたね。私も長くこの仕事してますがこんなに出たのひさしぶりですよ!」
と笑みを浮かべて言った。
おばぁーちゃんはシワクチャの笑顔で
「長く生きていてほんとによかった、よかった」
と、もげるのではないかと思うぐらい首をうんうん振っている。
「もうじき閉店になるので、換金してお気をつけてお帰りくださいませ」
アルバイトに玉をジェットカウンターに流すように指示すると、
私は頭を下げて二人のもとを後にした。
私は「良い事したなぁ」と自己満足していた。
そうして二人は店に入ってきたときと同じように、青年が手をひいて店外にある換金所にむかっていった。
あれだけの換金、おいはぎに遭われては心配になったので、
普段では絶対にしないが、駐車場の車の陰に隠れて二人の様子を観察した。
換金を終えて駐車場に向かっている二人……
しかし、私は見ないでいいものを見てしまった!
あろうことか! さっきまで腰の曲がったヨボヨボのおばぁーちゃんが一瞬にして背筋がピンと伸び、勝った喜びのあまりか、スキップしてるではないか!
そして青年がおばぁーちゃんの顔に手をやると、バリバリと顔の皮膚を剥がしていた。
現れたもう一人の青年。
そう、おばぁーちゃんは特殊メイクされていたのだ!
そうして聞こえてくる二人の会話
「うまくいったなぁ、やっぱりあの店遠隔だったな」
「あぁ、バカな店だぜ!噂どうり遠隔ばりばりだな」
私はすっかりやられてしまった。
正に彼等は…… 仕事人だった。
早々に二人は車に乗り込むと夜のとばりに消えていった。
それから三ヶ月後……
店に警察の捜査が入った。容疑は風俗営業法違反、違法な遠隔操作がばれた瞬間だった。
押収されたホルコンから全てが明るみに出た。店はそれから間もなくして潰れ、
私は無職になった。そして、私は生活していくためパチンコ店に客として来ている。
あきらかに、バレバレな女装をして……
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