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1624年第六回偕楽園世界水戸の梅祭り・世界異臭食品珍味祭りの悲劇

1624年三月三日

第六回偕楽園世界水戸の梅祭りと世界異臭食品珍味祭りが開催された。

この祭りは平和維持連合の世界各国大使の会議前の懇親の場であった為、龍之介がいなかろうと開催される。

準備は正月があけると、幕府大老の指揮のもと行われた。

この日は、茨城には珍しく三月の雪が降る中で開催された。

梅はすでに八割がた咲いており、赤白の花に雪が積もる雪見・花見の会になり、梅林では、熱燗が人気となっていた。体が冷えるためお酒の弱い人向けに甘酒も用意された。

この時代、甘酒は栄養ドリンク、冬は勿論温めて飲むし夏場は冷やして夏バテにならないように飲んでいた。

平成でも、最近栄養価が見直され健康志向で年中ス-パ-で売られるようになっていた。

そんな、雪降る梅祭り・・・・・・今年もまた暗黒の霧を出しているような一画があった。

千波湖湖畔に建てられた世界異臭食品珍味堂。

今年は、密閉性が高くなり臭いが漏れるのは最低限となっていた。

と、なると中では異臭が逃げ場を無くし溜まりこんでいるわけである。

それは、火山帯地域で硫化水素などのガスが溜まりこんでしまう盆地のようであった。

世界異臭食品珍味を持ち込んだ各国の大使の料理人は慣れてはいたが、密閉された中でにありとあらゆる異臭珍味で混ざりあった中ではすでに嗅覚は麻痺。

涙を流している者が多数いた。

中に入る者は初めて、世界梅祭りに参加した者が知らずに扉を開けるのだが、開けてはすぐに閉め逃げ出したのであった。

そんな中、越後から戻っていた上杉貞勝がその扉を開け足を踏み入れたのであった。

入った瞬間に嗅覚は麻痺し、目はシバシバしており涙をこらえたのだ。


「噂には聞いていたがこのような異臭が・・・・・・関白殿下こだわりの珍味なら味わないわけにはいかないだろう」


「殿、おやめにうっ、なられたうっ、ほうがうっ」


「父、景勝は関白殿下に弓引いたが、私は、この乱世を終わらした関白殿下に忠誠を尽くしたい、忠誠心を見せるには関白殿下肝いりのこの珍味を味わうのが良いはず」


「しかし、関白殿下はうっ、今年はうっ、参加していませんう~」


「そちのほうが倒れそうではないか、しかし、この中では絶対に吐き戻すなよ、もしも、粗相をしたなら切腹である」


「申し訳ございませんうっ、退室の御許可をうっ~・・・・・・限界」


バタッ


貞勝の側近は気を失い倒れた。

倒れると、白衣に身を包み、まるで中世ヨ-ロッパでペスト対策で医師がしていた鳥のようなマスクをした者が現れ担架に乗せて運んでいた。

柳生宗矩が準備していた救護係であった。

貞勝はそんな家臣を見送りながらも、座席に腰を掛ける。

すると、異国の給仕係の服、メイド服を着た女性が貞勝に注文を取りに来た。


「何をお持ちいたしましょうか?」


「すまぬが、私は今年が初めて、阿波の田舎者ゆえ何もわからぬ、なにか見繕って持ってきてはくれぬか?」


「では、関白殿下の好物をパンに挟みましたものと、今年新出品された酒が御座いますから、そちらをお持ちいたします」


「ん、よろしく頼んだ」


そうして持ってこられたサンドイッチは臭いなど見えないはずであったのだが、なぜか黒い霧がもやもやと陽炎のように見えていた。

酒は、ビ-ドロの器に並々に注がれていた。

パンは龍之介農業政策で米だけでなく麦の栽培も奨励され、海外交易と、龍之介の異国の側室達から製法が伝えられ一般的な食べ物になっていた。

笠間焼の平たい皿に盛られたサンドイッチに恐る恐る手をかけ口に運ぶ貞勝。

サンドイッチが顔に近づくと、麻痺していたはずの鼻に、突き抜ける異臭・・・・・・

真夏の男子便所の臭いをさらに強烈にした臭い。

口に運ぼうとするが、腕が顔に近づけようとするのを拒否していた。

体と心が同期するのをやめたかのようであった。

しかし、貞勝は気合を入れなおし、


「えいっ、や-、ぱくっ」


口の中に広がった臭いは鼻を突き抜け、強烈なアンモニアで口・鼻はス-ス-していた。

そして、その食べ物を体が飲み込むのを拒否ししていた。

飲み込めない、しかし、咀嚼もしたくない、口から出すわけにもいかず貞勝のとった手段は酒で流し込むしかなかった。

ビ-ドロに入った酒で流し込む。

しかし、その酒も強烈だった。

『蛇酒』、コブラとサソリがライスワインに漬けこまれた物であった。

今回、『蛇酒』東南アジアの国の大使が世界梅祭りに合わせて献上したしなであった。

滋養強壮の薬として古くから用いられていた『蛇酒』それを、薬として単体として飲むには良かったのだろうが世界異臭食品珍味サンドイッチには合わなかったのだろう。

今回開発された、サンドイッチの中身は、シュールストレミング・ホンオホェ・エピキュア-チ-ズ・キビヤック内臓ソ-スであった。

単体でも強烈な臭いを放つ食べ物であったのにそれをすべて入れてサンドイッチにしてしまったのだから、最早食べ物の域を通り越しているのは想像できた。

しかし、貞勝は目にも沁み体が吸収を拒否する中、食べきったのであった。

そして、座ったまま気絶した。

その表情は、すべての事をやり終え満足して静かな最後を迎えたような表情であった。

気絶が確認されると、すぐに鳥のようなマスクをした医師たちにより救出された。

貞勝が、目を覚ましたのは世界梅祭りが終わった後、東御所水戸城の一室であった。


「貞勝、世界異臭珍味堂は無理することはなかったのだぞ、あれは、世界各国の異臭を食べてみたい関白殿下の趣向で作られた物、忠誠心を試すような目的ではなかったのだから、しかし、その心意気、関白殿下にはご報告する」


「はい、ありがとうございます。」


「今宵は、水戸城で休むと良い」


この年の世界異臭珍味堂は密閉性の弊害により、入室すると気絶する者が多かった。

異臭サンドイッチと、蛇酒を口にした者は一口、口に入れると外に走り出し、外に積もった雪で口の中の異臭をどうにかしようとする者が後を絶たず、完食した者は上杉貞勝だけであった。

被害者を多く出してしまったため、この年は世界異臭珍味堂の一般開放は中止され、世界異臭食品珍味祭りの悲劇は伝説となった。


「宗矩、密閉性を高めたのは失敗であったな、来年に向けて研究し直し対策するように」


「わかりました。異臭をどうにかして対策し、通気性の良い建物へ改修いたします」


こうして、多数の被害者を出した祭りは閉幕した。


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