第20話 堺に買い出し!
九州討伐も近づいたある日、龍之介は愛刀が童子切安綱だけでは心許ないため
刀剣やその他武具を買いに堺に行くことにした。
金太刀の家宝は実戦的ではないため含まれていない。
龍之介が望めば商人などいくらでも嵐山に呼ぶことができたが
龍之介自ら堺に足を運ぶことに意味があった。
この頃、龍之介の進言により京の都と堺は運河で結ばれ船で
往来出来るようになっていた。
龍之介はさほど立派ではなく動きやすい服装にて、家臣二名を連れ堺に向かった。
冴えない貧乏公家にも見える身形であった。
向かった先は、千宗易の店である。
堺は京の都に負けない繁栄を見せていた。
千宗易のの店の暖簾をくぐると、まずは名乗らず店先で刀を見せて貰っうが、
あまり良い品物ではなかった。
身なりから判断され足元を見られているようであった。
業を煮やした龍之介は、
「龍之介正圀と申す、店主・千宗易を呼んで頂きたい」
番頭は龍之介の事を知らなかった。
「失礼ですが、店主とは顔見知りかなにかでございましょうか?」
まあまあ当然の返答である。
龍之介はいつもは家臣に買い出しを任せていたので、
直接面識はなかったが商いの取引はいつもこの店を通していたので、
「千宗易に面識はないが、龍之介正圀が来たと言えばわかるはずだが」
と、告げる。
番頭は渋々、奥にいた店主・千宗易に取り次ぐ。
「店先に龍之介正圀と言う者が店主に会わせろと、申しておりますが追い返しますか?」
千宗易はしばし考える。
「馬鹿者、大馬鹿者、すぐに客間に案内せよ、左大臣様だ!」
「は?左大臣様が自ら買い出しに来ますかね?」
「左大臣様はそういった御方じゃ、急ぎ失礼無きように案内せよ」
と、番頭に告げると番頭は、急ぎ店先に行き龍之介の面前に現れると
地べたに頭を擦り付けるようにして謝ったのであった。
周りにいた客も「何事!」と思ったが、番頭が
「左大臣龍之介正圀様とは知らずの無礼、お許しください」
と、大きな声で言ってしまい周りの客も驚き土下座をしてしまったのである。
龍之介はこのようになるのを嫌っていたのだがと、内心思ったが
すぐに奥の客間に通されるのであった。
「お初に御目にかかります、店主・千宗易にございます。番頭の無礼をお許しください」
「いやいや、本日は忍んで参った次第、気にしないでくだされ
それより、いつも無理な注文に答えて頂きたいありがとうございます」
「いえいえ、とんでございません。
左大臣様のおかげで店は大きく潤いました。
本日は刀剣ですか?堺中の銘刀を集めますのでしばらくお待ちください」
と、申し堺の名だたる店主達に銘刀を欲しがっている大事な客がいるので
持ってきて欲しいと使いを走らせた。
刀剣はすぐに集まり、胴田貫・菊一文字則宗・村正等ありとあらゆる名刀がかき集められた。
実戦用が欲しかったので自分用には胴田貫を選び、また鎖帷子を買い求めた。
また、影鷹や宗矩達にも刀剣武具を選び集められた銘刀のほとんどを買い占める形となる。
嫁や妹に側室達に艶やかな反物と西洋服を買い求めた。
堺にな西洋人が多く、西洋の物も手に入りやすかったので龍之介は、
「メイド服はないか?」
と尋ねた。
千宗易は、
「冥土の服?死装束にございますか?」
「いやいや、西洋人の給仕係りの服の事なのだが」
「お~っと、これは失礼しました。
西洋人の知り合いの商人がおりますゆえ、手に入り次第すぐに京の嵐山へお届けします」
との、返事を貰った。
「側室にメイド服・・・・・・楽しみが増えた」
と、一人言を呟いていた。
龍之介は茶器を薦められ、前世で博物館で目にしたようなのが何点かあったので
購入することとした。
番頭はあまりの購入代金に驚いていたが、龍之介の倉にはまだまだ金子の余裕があったのである。
龍之介は満足し帰路に着こうと店を出て歩きだしたときである。
「シクシクシクシク」
泣いている娘子達が小屋に閉じ込められているのを目撃した。
「ん?あれは?あの娘たちは?」
龍之介は舟乗り場まで見送ると言う千宗易に訪ねる。
「あれは人売りにございます。
年貢や借金のかたに売られる娘達、異国に売られたり、遊廓に売られたりでございます」
「そうか、なら全員私が買おう」
「左大臣様には不釣り合いな身分の者達ですございます、
それにあそこにだけでも30人はおりましょう。
毎日抱いていても一月はかかりますぞ」
「いやいや、そうではない。働き手にするのじゃ、機織りを覚えさせ、
絹織物を我が領地の産業にしようと思う、上手く行けばあのように泣く娘達も減るではないか」
「・・・・・・・成る程、でしたら出来た反物は異国に売りましょう」
「これから戦が無くなれば、産業の時代が来るぞ、またあのような娘子達がいたら嵐山まで
連れてきてくれぬか?」
「はい、かしこまりましてございます」
千宗易は龍之介の予言とも取れる言葉を耳にして商人の血が騒ぐのであった。
茶人・千利休は誕生しないルートになってしまった時である。
龍之介は娘子達をとりあえず嵐山に連れ帰った。
歩美や妹達・側室達が怒り絶句したのは言うまでもない。
「お兄ちゃんの人でなし!」
「お兄様!いくらなんでもこれは!」
「旦那様・・・・・・私達だけではご不満でしたか?」
龍之介は説明すると、歩美達はわかってくれてしばらくは嵐山にて静養したあと領地、
近江八幡に向かうこととなったのである。
また、龍之介は信長に新しい産業にも力をいれ人身売買が無くなる世を作りたいと
進言したのである。信長もこれに賛同してくれた。
今回、買われた娘子達は龍之介に感謝し大いに働き、領地を潤したのは言うまでもないだろう。
さらに龍之介は農業改革にも着手する。
農民が潤えば泣く娘たちが減る、国力が上がるそう考えた。
冷害・飢饉に備えサツマイモの種芋を輸入し・蕎麦・麦などの生産にも力を入れ始めるのである。
この時代の農業は偏っていた。
直接的収入になる米の生産に専念させるため、二毛作を禁じている領主がおおいなか
龍之介の領地では二毛作・多毛作が推奨されたのである。
余っている土地には果実がなる木の植え付けを奨励したのだ。
米だけに頼る農業から脱却を考えたのである。
このながれは全国に広まり、その後に来るであろうマウンダー極小期にも大飢饉による被害を減らす
結果となったのであった。