第十二話 御所からの呼び出し
2019/11/13修正実施
次の日の朝、嵐山には御所から急な使者が訪れ、正装で参内するよう命じられた。
帝からの呼び出しは、たまにあったが正装とは珍しかった。
龍之介は気がついていた。何用であるかを。
急ぎ支度をし、衣冠束帯、三上家家宝の金太刀『金胴鳳凰宝相華文兵庫鎖太刀』を帯剣し、牛車で御所へと参内をした。
帝に拝謁する部屋に向うと、すでに多数の公家が慌ただしく参内していた。
龍之介は帝の話し相手や、行事事で参内することはたまにあり、中納言の身分からそれなりの着座位置となるわけだが、いつもは遠慮して末席に座っていたが、今回は着座位置が指定されており上座から2番目となっていた。
周りの公家達も不思議がったが、さらに織田信長も参内し龍之介の真向かいに座る形となった。
右大臣を辞任していた織田信長には身分不相応であり、帝への拝謁が許される身分ではない。
しかし、これは帝、自らの指示であったため、他の公家達も大きな声で批判ができなかった。
この着座位置からこの場に居る者、皆、今日呼び出しされたのか見当はついていた。
織田信長が何かしらの役職に任命されることは明白。
しかし、世捨人の権中納言龍之介が上座にいるのが不思議であった。
「帝の御成りである、静粛に」
帝が簾一枚隔てた上座に座る。
「本日は帝からの直接の御言葉である、静粛に聞くように」
側近が述べたあと帝の言葉が発せられた。
帝が直接命じるのは異例中の異例である。
一同は土下座をし帝の御言葉に耳を傾けた。
「織田上総介信長を従一位関白兼征夷大将軍に任じる」
関白と征夷大将軍の兼任は異例中の異例であり公家達がざわめく、
「静粛にせよ、帝の御前であるぞ」
その側近の一言で、また静けさを取り戻した。
さらに帝の言葉は続き、
「従三位権中納言藤原朝臣三上龍之介正圀を正二位左大臣と任じる。この度の任官は異例ではあるが、先例にとらわれていては、乱れている国はいつまでも平定されぬ。朕は民の平和を築くよう願い任命する。
両名は国家平定に尽力するよう命じる。よって、関白織田信長には錦御旗の使用を許可し、敵対する者は朝敵とし討伐せよ。これは勅命である」
ここに織田信長は、天下布武の大義名分に朝廷の御墨付がついた。
「あとのことは、関白と左大臣に任せる」
帝は席を立ち、退室していったくと、列席していた者は顔を上げ、公家達は驚き、ざわめいた。
「あの世捨人がなぜに?」
と、の声が多数あがった。
織田信長より龍之介の出世に驚きを隠せずにいた。
いくら龍之介の父が帝であっても、世捨て人として有名だった龍之介を左大臣に任命する意図がわからなかったからだ。
すると関白・征夷大将軍となった織田信長から言葉が発せられた。
「左大臣となった三上龍之介正圀殿は、この度、我が娘と祝言をあげることとなりもうした」
ますます、公家達の驚きがあがり妬みが生まれた。
織田信長は気にせず続ける。
「左大臣龍之介殿と協力し、天下統一を急ぎたいと思いますうえ、皆様の協力をよろしくお願い申し上げます」
との言葉で織田信長は早々と退室した。
すると、公家達は龍之介の側に寄り、
「左大臣殿、帝になにを吹き込んだか?政治に関心のなかった世捨人だったあなた様が何故に、このような事に?」
公家達から質問を受けた。
「世捨人のふりは終わりです。これからは、この腕で国家平定の邪魔者を切り捨てて行く所存、眠りから覚めた龍と思われよ」
今までとは違う鋭い牙を立てたような眼光の龍之介の言葉に誰もが絶句した。
青ざめ鳥肌が立った者もいた。
そして、誰もが敵にはなりたくないと思った。
正二位左大臣藤原朝臣三上龍之介正圀の腕前は誰もが知るところであったからだ。
そして、世捨て人から目覚めた龍の眼光は鋭かった。
敵になれば一刀両断されてしまう、そう感じた公家は多かった。
この時代、公家達も自らを守る為や帝を守るために精進していた者もいたが、龍之介の剣には到底及ぶものではない。
鹿島神道流の開祖塚原卜伝から秘剣「一之太刀」を授けられ、さらに諸国修行を行っている龍之介の
噂は皆が知っていたからである。
こうして、異例中の異例のなか関白・征夷大将軍織田信長と左大臣藤原朝臣三上龍之介、二人は天下布武の動きを天下統一をの動きを早めるのであった。
織田信長の征夷大将軍就任は正式に、足利幕府が終わった事を意味していた。
足利義昭は織田信長によって京の都を追放され毛利家に身を寄せていたが、朝廷から征夷大将軍を剥奪されたわけではなかった。
しかし、織田信長が征夷大将軍に任じられる事によって足利義昭は征夷大将軍を剥奪を意味していた。
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