第十一話 初めての自宅屋敷
2019/11/11修正実施
龍之介は本能寺の変を防ぎ、帰路に着くことにした。
信長の娘との婚姻も決まり時代の流れに乗り出していた。
外に出ると日はすっかり上がっている。
夏を臭わせる日差し。
「中納言様、中納言様、お待ちください」
門まで歩くと呼び止められる。
森蘭丸だった。
駆け寄ってくる美少年は、可愛らしく美しい。
龍之介は家臣にしたいと思った。
「何ですかな?蘭丸殿」
「嵐山の御屋敷まで徒歩ですか?」
龍之介は本能寺に来る際は、光秀の軍の馬を利用したが、今はない。
徒歩で帰ろうとしていたが、本能寺から嵐山までは徒歩だと幾分遠い。
電車もなければ、バスもない。
馬がなければ徒歩でしかない。
「御館様から送って差し上げよ。との命があり、馬と失礼ながら腕に覚えのある、この二人を警護に付けさせていただきたい次第に御座います。どうかお使いください」
龍之介には用心棒は洛中では、完全に必要がない。
剣の腕前を知らぬ者はいなく、また、この段階では世捨人と思われてるから、命を狙われる危険は極めて薄い、理由がない。
襲うとしたら物取り強盗くらいだ。
しかしながら、織田信長は今や祝言前とは言え義父、無下に断る理由もなく龍之介はありがたく礼を申して、馬と二人の用心棒とで帰路に着くことにした。
「影鷹はおるか?」
「はっ、ここに」
本能寺を出ると影鷹を呼んだ龍之介。
影鷹は勿論、龍之介が本能寺の中にいる間も天井裏から警護はしていた。
そんな影鷹が馬の前に現れると、二人の用心棒はすぐに抜刀、臨戦態勢になっていた。
「成る程、中々の腕前ですな。いや、しかし、ご安心召されよ。この者はそれがしの忍び、家来であります」
その一言で二人は刀を納め、家臣である影鷹に非礼をわびるかのように一度頭を下げた。
「影鷹、案内頼む」
そう、龍之介は嵐山に自宅はあるのは事実だが異世界転生してまだ帰ってないので、詳しい場所はわからないのであった。
暫く、馬に揺られながら嵐山に向かう。
嵐山、川を望める小高い丘に屋敷はあった。
世捨人には過ぎたる屋敷、何故か瓦葺きで2階建てでありながら、金の鯱が乗っていた。
「閻魔ちゃん、ちょっと可笑しいよ」
しかし、この屋敷、何処と無く龍之介が前世で夢見ていた家に似ていた。
前世でも戸建て住宅を建てた龍之介ではあったが、極々一般的な家だった。
天守閣に住むのが龍之介の夢ではあったもののそこまでの余裕はなく、天守閣に住む事は生涯出来なかった。。
閻魔ちゃんの遊び心で再現され、小天守と言って良い外観の屋敷。
「ただいま帰った」
「お帰り~お兄ちゃん」
「お帰りなさい、お兄様」
・・・・・・この時代にしては、可笑しな感じが・・・・・・。
これまた閻魔ちゃんの遊び心で、現世のアニメに出てくるような妹が二人、千葉●リカ、司●深雪と表現して良いだろう妹だった。
初対面ではありながら異世界転生の段階で脳内記憶も改編され、妹の存在はインプットされていたので問題なく受け入れた。
これが恐るべきライトノベル御都合合わせかと龍之介は内心感じた。
名前は深雪と恵梨香であり、二人は16歳の双子であった。
父親は違うため、こちらは帝の落し胤ではなかった。
双子を忌み嫌う時代ではあったが、藤原三上家では大切に育てられた。
龍之介の母は、御所で働いていた時に帝の子をお腹に宿した。
しかし、出身の身分が大変低かったため、中流公家の藤原三上家に嫁いだ。
藤原三上家的にも落し胤が、世継ぎになるには大きな意味があり、受け入れた次第であった。
藤原三上家の義父と母の間に生まれたのが、深雪と恵梨香であった。
屋敷に到着すると信長が、着けた二人の家来は帰って行った。
馬はご自由に使ってくれとのことで、屋敷に働く下人に任せた。
どうやらこの馬は、明智光秀謀反を防いだ礼であるようで、赤毛の立派な馬、それを礼とした。
馬の良し悪しは、龍之介には流石にわからなかったのだが、実は名のある名馬であった。
屋敷に入り室内着に着替え、一息ついたところで、妹二人を部屋に呼んで信長の娘を娶ると伝えた。
恵梨香が、
「武術ばかりの朴念仁の兄上が!」
深雪が、
「お兄様が!結婚!!」
と、二人は兄が嫁を娶ることに驚いたのと、それが、織田信長の娘であることにさらに驚きを隠せないのでいた。
「何故、兄上が元右大臣織田信長様と・・・・・・?」
「時は来た、世捨人は終わりだ、これから日本国のために働くとき、鍛錬し会得した剣術、武術、陰陽道の力を使わねばならないときが来た。その方たちも心にいたすように。平和な世を作るため、信長殿と縁を結ぶ」
と伝えた。
妹二人は、その一言を発した龍之介の眼光が変わったのを見逃さなかった。
二人はコクリと頷き部屋を出て行った。
話が終わると、龍之介は気になっていた、ウォシュレット付き洋式トイレを探そうと部屋を出る。
記憶にインプットされているのは厠の場所で、トイレその物を思い出そうとすると、脳に浮かぶトイレは霞がかってどのような物かわからないでいた。
廊下を出て奥に進むと、何故か指紋認証の扉があった。
「はい?・・・・・・えっ!」
しかし、閻魔ちゃんの遊び心に気がついた龍之介は、右手人差し指を当ててみた。
自動的に開く扉、中には希望のウォシュレット付き洋式トイレと洗面台が用意されていた。
「ふ~、一安心」
異世界転生で一番に悩むのはトイレ事情。
ウォシュレット付き洋式トイレを希望の品に入れておいて良かったと、龍之介は改めて思っていた。
戦争中野糞など当たり前だったが、それよりもウォシュレット付き洋式トイレに慣れ親しんだ期間が長いため、ウォシュレットの虜になっていた。
一度でもウォシュレットトイレの虜になる者は多く、ハリウッドセレブなどが買っていくのは有名な話だった。
ウォシュレット付き洋式トイレは龍之介の癒しの場、不可欠なものだった。
有名な話で、武田信玄のトイレもこだわりがあったらしく、水洗トイレだった話もある。
もちろん自動ではなく小姓が水を流すシステムだったらしいが、
畳の一室に便器があったとされている。
トイレにこだわりを持つ大名は多く、伊達政宗の仙台青葉城のトイレは書斎のようであったと、
言われている。
風呂も確認すると、屋敷内に時代に合う五右衛門風呂があった。
夕飯は妹と下人が用意してくれ、囲炉裏のある部屋で串刺しの鮎を焼きながら食べた。
嵐山の前を流れる桂川から採った極上の丸々と脂ののった鮎。
お酒は、この頃に流通が始まったばかりの澄んだ清酒であった。
戦国時代末期に現在で言われる透明な清酒の製法が確立される。
それまでは、白く濁った濁酒が、主流であった。
「京の都の酒は美味いなぁ~、佐々木酒造か?」
「何を今さら?毎日飲んでるでしょ?」
「お兄様、もう酔ったのですか?少し控えてください」
と、可愛い妹二人にツッコまれてしまった。
そんな一般的な夕食であった。
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