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ラブカクテルス その25
作:風 雷人


いらっしゃいませ。
どうぞこちらへ。
本日はいかがなさいますか?
甘い香りのバイオレットフィズ?
それとも、危険な香りのテキーラサンライズ?
はたまた、大人の香りのマティーニ?

わかりました。本日のスペシャルですね。
少々お待ちください。
本日のカクテルの名前はバブルダンスでございます。

ごゆっくりどうぞ。


私は音楽を聞くと踊りたくなる。
体が勝手に動き出し、踊りだす。
それは子供の頃かららしく、町などで音楽というものが流れてくる度に私は踊っていた。
ある程度の歳になっても学に励むことへの興味は浅かったが、いざ音楽や体を動かすことになると心から学ぶことに集中できたのだった。
しかし私の家はこれといって裕福ではなかった。
踊りは好きだし、親もそれを知ってはいたが、習い事をさせてくれる訳でもなく、その結果全ては自分のオリジナルとなった。
しかし、体が感じるがままに踊ったダンスは私には普通の事であったが、他の人から見ると、とても抵抗感がある踊りだったらしい。
そう気が付かされたのは、ある日たまたま町に買い物に家族で行ったときに、店先で心地よいリズムが聞こえてきたので、私は体に任せて踊り出すと、母が私に止めろと言った。
私はどうしてか抗議しようとすると、周りからの視線が私に集中し、しかもそれがとてもうっとうしいと言っているように感じ、両親が困った顔をしているのを見て気が付くこととなった。
私が小さかった頃は、町行く皆が温かい目をして私の踊りを見て笑顔を浮かべていたのに。
なぜだろうか。私には理解できなかった。

それから私は人前、とくに両親の前では音楽を聞いても踊らなくなった。
でも心の中では体を抑えつけても、リズムは頭の中を何回も繰り返し私に踊れと指令を飛ばし、耳を塞ぐクセがついてしまったほどだった。
そしてそんな事がある度に、私はあまり人が来ない裏山の神社の空き地へ行き、頭の中で狂ったように渦巻いていたリズムを体に乗せて吐き出ししたのだった。
そしていつもその儀式は倒れるまでやらないと満足できずに、いつも汗だくになって地面に大の字を描いた。

その日もいつもみたいに私は裏山の神社で人知れずダンスを全身で震わしながら吐き出していた。
そして満足して倒れ込んだ瞬間、後ろから手を叩く音が聞こえてきたので驚いた。
だるい体を起こして振り返ると、そこにはあまりこの辺では見かけないお坊さんがいた。
私は少し恥ずかしくなり、軽く頭を下げて走ってそこから逃げ出した。
私はそれ以来、裏山の神社には行けずに、踊るのに違う場所を探してみたが、なかなか都合に合う場所はなかった。

そんな状況が長く続くと私は多分ストレスのせいもあってか、寝込んでしまった。
親は訳が分からず心配し、町のお医者さんを呼んでくれた。
そして、訪ねてきたお医者さんは頭に髪の毛がない、あの時に裏山にいたお坊さんだった。いや、私の勘違いだったらしい。
私があまりの恥ずかしさに布団に潜ると、お医者さんは驚く様子もなく、私に診察をさせてほしいと優しく呟き、また元気になって踊りを見せてくれるようにと私に頼んできたのだった。
私にはその理解してくれた心が何よりの薬になり、あまりの嬉しさに布団の中で泣いてしまったのだった。
お医者さんは私の背中をさすりながら、しばらく側にいてくれた。

私は次の日、なまった体を引きずって、裏山の神社を登った。
そして大きく深呼吸すると体に一言声を掛けた。
いいよ。
私の体は魚だった。水を得た魚。
そうかと思うと鳥になった。天高く翔ぶ鳥。
そして、草原を駆ける馬、力強い獅子、風に舞う花、光の織りなす虹、春に浮かれる緑。
ありとあらゆるものが体を通して、私に何かを伝えてくるようだった。
そして私は倒れ込んだ。
するとまた拍手が聞こえたのでそこに顔をやると、あのお坊さん、いや、お医者さんがいた。
彼は微笑んで立ち上がり、私に手を差し延べてきた。
私も微笑み、少し照れながらその手をとった。
握った手は温かかった。

お医者さんは私を見ると元気が湧いてくると言ってくれた。
しかし、素晴らしいダンスだが、何かが欠けていると思うと言う。
彼にはそれを言葉にして説明出来ないが、見せることは出来るかも知れないと言った。
そして、それは町で時々行われているダンス場の事を指していたのだった。
お医者さんは私に、踊りを見せてくれたお礼だと、親に話してそこへ連れて行ってくれると約束してくれた。
私はワクワクして、その日を待った。

それほど時間が経つ間もなく、その日は訪れた。
私はお医者さんに連れられて、町の一角に行ったが、そこの中はお店とは違い、
何も買わないのに、中に入るだけでお金を払う奇妙なところだった。
私はとても緊張と期待で、体が震えているのに気付くまでに時間がかかった。
中には大勢のお洒落な服を着た人たちが、とてもゆっくりと、優雅に踊っていた。
私は初めて人が踊るのを見て、自分との違いに驚いた。
お医者さんは私に、優しく踊りを教えてくれた。
そして私は、初めて人と一緒に踊ることを知った。
こんなダンスもあるのかと。
それは今までの私を、少しためらわせた。
自分がまるでこの世界から見ると、間違っていたのかと思えてきたからだった。
少し元気がない私を見てお医者さんは踊りながら教えてくれた。
この踊りがなぜゆっくりで優雅に見えるかを。

元々この踊りは好きな男女が少しでも近づき、長く一緒にいたいと思うところから始まり、それが一つの流行りになって、皆が真似したがり、踊り方というお手本が出来た。
それを今度はいかに上手く真似られるかを競い、競技になる。
それだからこのダンスは磨かれ、形を整えた。
そして、お医者さんは私に落ち込まずに、何か感じるものがあれば取り込みなさい。必要なければ捨てればいいと軽く笑いながら言った。
私は頷き、気持ちを切り替えたのだった。
私はお医者さんに頼んで、知りうる限りのダンスを教えてもらった。
そして、覚えると同時に私に何が足りないかがわかってきた。
それは知識ではなく感情。愛だった。

言葉は知っていたが、何なのかはわからなかった。
でもこのダンスが私に流れ込む度に、少しずつ心に感じる温かさや、ときめきがそれなんだと気付くかせるのだった。
そして、その優しさの元が私にはお医者さんだった。
私は初めて人を、男の人を愛したのだった。
そしてそれからは、私の世界は彼と会う時間が中心となったのだった。
しかし、彼には医者としての仕事がある。
それはわかっているのだが、会えない時間はやはり辛かった。

しかし、その愛は長続きはしなかったのだった。なぜなら彼は既婚者だった事がわかったからだ。
私が母に頼まれて町に買い物に行くと、彼を見かけた。
嬉しさのあまりに声を掛けた私に、彼は優しく微笑んで横にいる女性を妻だと言い、その女性が手を繋いでいた子供を娘だと言った。
私は軽い挨拶をして、早足でその場を去った。
きっと涙は見られなかったと思い、少しホッとした。
それから裏山で大声で泣いたのである。

それ以来、裏山に私は行かなくなった。
でもダンスは止められずに、自分で仕事を始めたお金で、少し離れたダンスホールに通うようになった。しかしそこはまた、変わった踊りが見られる所だった。
私はドンドンその刺激に巻き込まれて行った。

ダンスには、色々な形があったが、それはまさに心の声であり、自然な表現だった。
そして、そこにどんなスパイスを入れるかで名前が着いた。
それがその時々の時代に合えばその形が流行りになる。
そんな中で私は色々なものを取り込み、恋の痛手を忘れ、あるコンテストに出場し、そして、なんと優勝したのだった。
皆は私を祝福してくれ、それから周りからの反応が変わり、いつの間にか私は有名でカリスマ的な存在になって、そして踊る目的が楽しむものから競うものへと変わって行った。
それからの私は優勝の二文字が全てとなったのだった。

しばらく私はその世界で闘い、ライバルが生まれ、仲間が出来て、恋人、パートナー、そして出会いと別れが繰り返された。
踊り自体も、その時代の流れに応じてスタイルを変えては、吸収や否定、そしてオリジナル性の確立などの自分のものにする欲に狂った。
ジャンルなどからの束縛や、非難。そういったものとの闘いも必然だった。
そんな中で、ある時は一人で踊るスタイル。かと思えば集団で行う流行り。
それが交互にやって来ては無くなり、繰り返されて歴史となった。
そして私はそのウネる波の中で、次第に何の為に踊っているのかが、分からなくなっていった。
気付けば心も体もくたくただった。
スランプ、そしてノイローゼになり、悩んだ挙句に私は今の全てを捨てて、原点に戻ることにしたのだった。

私は久しぶりに、あの裏山の神社へ行った。
お宮は荒れ果ててはいたが、静寂さはあの頃のままだった。
私は境内の裏に回り、懐かしの空き地にいくとそこは時間が止まっていた。
私は頭にリズムを刻み、体に言った。
さぁいいよ。
体は動き出す。あの頃みたいにルールもスタイルもない私の心の中の声を出して。

私が倒れていると、どこからか、三人の少女が寄って来て拍手をしてくれた。
私は少し体を起こして礼を言うと、そのうちの一人が私に踊りを教えてほしいと言ってきた。
私が踊りが好きなのか聞くと、三人は揃って頷いた。
私は笑って承諾した。

明くる日から、私は裏山の神社で三人に踊りを教え始めた。
三人はまるで素人だったが、いい目をしていた。
私は誰でも出来るような簡単な振り付けを考えて三人に教えると、皆は面白いと気に入っり、すぐに覚えた。
そして、しばらくするとその踊りは町の方まで知れ渡り、子供の誰もがあちこちで踊るのを見掛けるようになった。
だが、大人たちはそれを見て、みっともないとか、恥ずかしから止めるようにと子供たちに言った。
だが、その踊りは流行りに敏感な若者にまで飛び火し、町中のあちこちで踊られ、結局大人たちはそれを認めることとなったのだった。
しかし、正直なところ、大人たちもこの踊りを踊ってみると心の底の方から自然にリズムが湧いてきて、踊らずにはいれなくなることに気付くのだった。
大人をも巻き込んだこの踊りはやがて町を飲み込み、国をも飲み込んだ。
そして。時代をも


えらやっちゃ、えらやっちゃ、ヨイヨイヨイヨイっ!
さぁ、皆さん。今年もやってまいりました。長年に渡って続けられてきた伝統の阿波踊り祭りの開催です。
さあっ、えらやっちゃ、えらやっちゃ、ヨイヨイヨイヨイっ!


おしまい。


いかがでしたか?
今日のオススメのカクテルの味は。
またのご来店、心よりお待ち申し上げております。では。















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