30.急転
案の定というべきか、やはり慌しくなってきた。
少なくとも、今日の予定は早くも決まりだ。
中村屋の報告は朝の段階では不確定なものだった。だが、正午には既に数人の希望者が出ている旨の連絡があり、夕方には追加の希望者が現れたとの報告も受けた。これは確定されたものだ。
こうなると自然、授業もそこそこに希望者の顔触れを確認する作業を強いられる。下校時まで拘束され、帰宅すればもう次の段階だ。
まずはメンバー募集で集まってくれた人達との顔合わせ。
今日中に会えるのは三人。更に予定次第が二人いる。中村屋は、少し時間をくれればもう少し増えそうだとも言っていた。皆こちらの意を汲み、中村屋が厳選した強者揃いだ。こちらが引くような人物まで含まれている。
仲間を募る際、私が中村屋に出した要望は「私に敵意を持たず、せめて中村屋ぐらいは強く、本気でクリアしたい気持ちを持っていること!」であり、同時に「クリアを目指すが詳細は話せない!」と付け加え「人数は十人前後」というものだった。
この時中村屋に「せめて僕ぐらい……はっきり仰る」と嫌味っぽく返されたが、重要なのはここではない。条件を聞いた彼は私に忠告した。
――方法、つまり手段を伝えない以上乗ってくる人間は限られるだろう。ある程度アナウンスすることになるので、情報の拡散は覚悟して欲しい。そして、自分並に強いとなれば更に限定され、希望の数に満たないかもしれない――
異存も不満もなかった。何よりこれは取り引きだ。元はチームメイトだが、今の中村屋はレアアイテム系を取り扱う道具屋である。
私は取り引きの材料として「瀕死のエメラルドベアー」「叩き折った三角獣の角」に加え、なぜかなつかれてしまった「北極メタボウサギ」を差し出した。
ブランク対策のため、人気のない北の大地に赴いた際手に入れたさっぱり価値の分からない代物だったが、レア物収集家の彼は納得の上これを受け取っている。
この早さで勧誘し話をまとめてくれたところを見ると、それなりに価値ある物だったのかもしれない。素早い対応過ぎて正直困るぐらいなんだから。
早速希望者との顔合わせの場をセッティングし、近藤も同席し挨拶と事情を説明することになった。とはいえ全てを話せるというわけでもない。実力はともかく本心がどこにあり、どんな人物かを見定めるには多少の時間は必要である。
陽の沈んだ真夜中。木々と暗闇に包まれながら、我々は希望者と向かい合った。基本的な説明は私が行い、近藤は補佐に回る。自分が話しても説得力がない、ネームバリューの問題だとは近藤は弁。
相手方は仔細を知りたそうにしていたが、初対面だからか深くは訊いてこなかった。
とにかくこちらが話せることはせいぜいラビーナ、一般的にゾンビ女とか呼ばれている人物と接触する必要があり、その協力を仰ぐことになる程度。
だがここで、急転直下の事態を迎える。
説明を聞いた一人の男性プレーヤーが"もうゾンビ女は追われている"と言ったのだ。彼によれば既に襲撃は始まっており、ラビーナが的にかけられていることに疑いの余地はない……そんなの聞いたことない! これまで検索したり調べはしていたが、ラビーナ襲撃の話題はどこにも転がっていなかった。
しかしその場に居合わせた女性プレーヤーが「聞いたことがある」と証言を裏付けたことにより、我々は想定していた中でも悪い予感が既に形となっていることを思い知る。
近藤の決断は早かった。
希望の人数、また希望者全員と顔を合わせ見定めている余裕はない。出来るだけ早い段階、限られた人間だけで行動に移すと。