その6
6.耳無し芳一
その類い希なる琵琶の演奏に
落ち武者どもの迷える魂をも引き寄せてしまった耳無し芳一
その怪談は語らずとも有名だろう
彼は僕の存在を芳一の琵琶に例えた
ただ耳を傾けずにはいられなかった芳一の琵琶の音色
「貴方の声は琵琶の音にも勝るとも劣らない 特に艶を含んだ吐息など・・・」
「んんっ・・・・はぁっ・・あんっ・・・」
「存分に啼かせたくなる貴方の見事なこの肢体・・・」
「っく・・・うっ・・」
「こうして 触れるだけで琴線が震えるような見事な音色が響く」
彼は 僕の身体に触れる
髪をすき 頬を撫で 唇をなぞり うなじに口づける
そしてその美しい指で僕の胸の尖りを弾き弄ぶ
僕は堪えきれず 自分の耳にも甘く響く喘ぎを零す
彼の手は 僕の昂ぶりを包み
彼の口づけで僕の昂ぶりは高みに登り詰めてはじける
密やかにその入り口を閉ざした蕾にも彼の指は辿り着く
「あっ・・・そ・・そんなとこ・・や・・やっ・・んんっ・・・」
つっぷりと滑らかな何かに濡れた指先が 僕の蕾に押し入ってくる
柔らかな動きに解されて くちゅくちゅと淫猥な艶めいた音色が響く
存分に解されて挿入された彼の指が僕の内奥を探り
それ に狙いを定めて擦りあげられる
僕の腰は跳ねるように感じてしまう
生まれてこのかた 知らずに生きてきた愉悦の波にのまれる
幾度となく押し寄せる絶頂の快感に頭の中に白い靄がかかる
彼は
僕の吐き出す白い蜜を一滴残さず舐め取ってゆく
僕は彼の昂ぶりに触れたい衝動に駆られるが許されない
彼は 己の昂ぶりを慰める事をしない
ただ僕の蜜を貪欲に飲み干すだけ
そして僕は
存分に解された内奥に満たされる事のない疼きを残したまま放置される
もう 昂ぶりから熱を吐き出すだけでは満たされない
僕の身体は蕾を貫く力を欲しているのに
彼がそれを与えてくれる事はない
ただ 疲れ果てて乱れた姿を顧みる力さえ残っていない僕は眠りに落ちる
そうしてまた その記憶のほとんどを手放して
朝日の眩しさに目を細めて目を覚ます
僕は
一体 どちらの時間に本当に生きているのだろうか
撮影は終盤を迎えていた
役作りの為 と言えば周囲の反応は少し友好的にかわった
僕の体重は随分と減っていた
それでも 鏡の中の自分は驚くほど艶やかに健やかに見える
自分でも気づく程に 何かが薄く僕を包んでいる
いうならそれはオスの中にまぎれた一匹のメスがふりまくフェロモンのようなもの
肌はしっとりと艶を持ち 瞳は濡れたように潤んで淡い焦点が危うい儚さを纏っている
そんな僕に 周囲の人間たちは遠巻きに ただ僕を見つめている
彼のように触れてくれたらいいのに
そんな勇気は誰にもないのか
あれ程熱心に僕に執着を見せていたディレクターの男さえ
今では僕を眩しげに 頬を赤らめて見つめるだけだ
あからさまな誘いも 口説き文句の一つもない
今の僕はそれ程に妖しく淫猥な存在になり果てているというのだろうか
鏡の中に 何も見出す事はできない
僕は 答えを求めるように
今日もまた 星空の下 彼の屋敷を訪れる
「貴方の蜜が私を生かしてくれるのです 貴方の全てを飲み干したい」
耳朶をねぶられて囁かれる彼の声に僕の身体は芯を失う
失った芯を補って欲しい
彼の熱くこごった熱棒で貫いて欲しい
求める僕をはぐらかすように彼はそのしなやかな指で僕を翻弄する
僕は啼かされ 躍らされ そして蜜を吐き出し 吸い取られる
僕が痩せてゆくのは
もしかして この毎夜の逢瀬のせいなのか
今更ながらの思いが胸によぎる
それでもよい
そんな思いもまたここにある
僕はもう 彼の指なしにいられない 彼の吐息とその甘い囁きに溺れている
「・・・僕を 抱いてください・・・・」
「私に・・・・全てを差し出すというのですか?」
「・・・もう・・・もぉ・・・焦らさないでください・・・おねがい・・・です」
僕の消え入りそうな吐息混じりの嬌声に彼の目がキラリと光った
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