怪談・痩せてゆく事(5/10)縦書き表示RDF


怪談・痩せてゆく事
作:tensuke



その5


5.雪女
その人は漆黒の艶髪と透き通る白い肌をしていた
その瞳は闇に煌めく黒い宝石のようだった
彼は僕の耳元で囁いた
「私に会った事を 誰にも話してはいけませんよ」
もちろん 誰にも話すつもりなどない
僕は彼の屋敷で過ごす時間の為に生きているとさえ思い始めていた
昼間の太陽が眩しすぎるのだ
夜空に輝く星たちの明かりが心地よい
僕は
千の星に抱かれるように彼の腕に抱かれた

「貴方の身体は甘い甘い蜜で満ちている
だから 私のようなものを引き寄せてしまうのですよ」
「・・・・蜜?」
「貴方はご自分の魅力を全く判っていないのですね」
彼は僕をその腕に抱き寄せながら耳元で囁いた
耳朶に柔らかく歯を立てられて
全身の肌が粟立つようなぞわりとした快感が背中を走った
今日もまた
僕は一人歩いて宿へと戻る途中で彼の屋敷の門をくぐっていた
もうすっかりとその場所も
彼が僕をもてなしてくれる手順も覚えてしまった
初めて彼に会ってから
いったい何度この星空を見上げただろう

「冷たくてひんやりと吸い付くような肌が段々に淡い紅色に染まっていく
そうしてそれはたまらなく情熱的に私の身体を煽るのですよ」
「・・・・っはぁ・・・んっ・・」
胸元をさぐる彼の手が 僕のささやかな突起を弾いた
背中を彼の胸に預ける形で抱き込まれた僕は
無防備な姿で着ている物を次々と剥ぎ取られてゆく
胸の突起を弄んでいた優しい指が
もうその刺激を待ちかねて頭をもたげている僕の昂ぶりへと辿られてゆく
「んんっ・・・・っふぁ・・」
僕の口からは 自分のものとは思えない甘い吐息が吐き出される
その全てを捕らえられるような口づけに唇を塞がれて息がつまる

今の僕は今の僕
明日の朝 また目覚める僕は別の僕
私の耳は貝の殻 ただ潮騒を聴く そんな詩が頭をよぎった
今の僕の耳は一体何だ
彼の囁きと甘い睦言だけを期待に震えて待ち焦がれている
耳にそそがれ流れ込んでくる言葉と吐息たちに全身の力が失せてゆく

彼の手は 僕の身体を軽々とその重力から引き離す
ふわふわと心地よいおももちに意識が薄れてゆく
首筋にチりっと走るわずかな痛み
その跡を楽しむように強く噛み付くような口づけに肌が桜色に染まる

握りこまれた僕自身は彼の言う甘い蜜を流し
その先端をまるで愛しむようにかれの舌が這い蜜を舐め取ってゆく
チロチロと見え隠れする彼の舌は真っ赤に燃える炎のように紅い
その口腔に含まれた僕自身は激しく脈打ち
与えられる刺激に耐えきれず
噛み締めた唇から甘い甘い声が漏れる
「もっと聴かせて 貴方のその声を・・・・」彼の言葉に胸の奥がずきりと疼く
与えられる刺激はそのまま耐え難い快感だ
僕の背は逃げるように強く反り返る
抱き戻され 引き戻される腰にまわされた彼の白い腕
何もかもが艶めかしくも妖しい魅力で僕を惑わす

男に抱かれるなんて
今まで どんなに執拗な誘いを受けても
脅迫まがいの口説きにも
甘い誘惑と報酬を提示された誘いでも
断固として首を縦にはふらなかった 片っ端からそれらの誘いを一蹴した
僕は男に抱かれるつもりなどカケラもなかった 考えもしなかった
誘われる事が不思議でならなかった

まるで
この世界に「女性」という存在が一人たりとも存在しないかのように
僕 という存在に執着を見せる男達の胸の内が
どうにも理解できずにいた

鯉という生き物は普段メスしかいない という話を彼がしてくれた
産卵の時期が近づくと メスの中の一匹がオスに変化するのだそうだ
さしづめ
僕はこの反対の立場なのか などと考えてしまう

オスの中からメスに変化した個体
それはオスたちを惹き付けてやまない何かを持っている
彼は 僕がそういった存在なのだと教えてくれた
僕に満ちている蜜について
彼が初めて 僕にちゃんと説明してくれた

そして その蜜はちゃんと舐め取ってやらないと
いつまでもその甘い香りを漂わせ続けてしまう
それは いつまでも男達を狂わせ迷わせ引き寄せてしまうのだ と

「私に会ったこと 私にされたこと 私の言ったこと
どれひとつ 誰にも話してはなりません その時は貴方をもう帰せなくなる」
彼は真剣な瞳で僕を見つめた

「はっ・・・んん・・・・」
彼の手に扱かれて僕の昂ぶりは白い飛沫を放つ
彼の唇がその白濁をチロチロと舐め取ってゆく
脱力した身体の全てを彼に委ね
僕は差し伸べられた睡魔の手をとった












ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう