少女とカエルの奇妙な同居生活
そうして、アンジェリカとカエルの奇妙な同居生活が始まることとなった。
カエルが言った「メシも、風呂も、寝床も一緒」。アンジェリカは父に言われた通りに、忠実にそれを守ろうとした。
アンジェリカにとっては、ただのカエルだ。慣れてしまえば大したことでは無いように思えた。
――ああ、でもやっぱり……食欲は落ちちゃうわね……
アンジェリカは目の前のカエルを見つめながらため息をつく。あのあと、カエルはそのままアンジェリカの隣に居着いてしまっていた。
金の皿の前にちゃっかり陣取って、アンジェリカの食事を虎視眈々と狙っている。さっきカエルはアンジェリカの好物であるフルーツのゼリーに直接その手を伸ばそうとしたのだ。アンジェリカはとっさにナイフで威嚇した。
「私が食べないものだけ食べればいいわ」
アンジェリカは小さな声で冷たく言い放ち、カエルはナイフの切っ先に脅されて渋々頷いた。
彼女はカエルの態度に満足して、剥いでおいた鶏の皮と、嫌いなチーズのソースがかけられたサラダを皿の端に置く。
実はアンジェリカは好き嫌いが多いのだ。その後も父の目を盗んでこっそりと嫌いなものを残すと、カエルは文句も言わずガツガツとそれを食べてくれた。そんな事を続けて食事を終えた頃には、アンジェリカは、意外にこれは便利だと感じ始めていた。
夕刻になり、湯殿が準備された。アンジェリカのとても好きな時間の一つだった。彼女は鼻歌まじりに立ち上がると、カエルを一瞥した。――そうだったわ。コレを連れて行かなければいけないのね。
「お風呂よ」
カエルがなぜかびくりと身体を硬直させる。
「た、たのむ。風呂だけは……勘弁してくれ!!」
突然カエルは必死になって頭を下げる。その姿に、アンジェリカの憂鬱が一気に吹き飛んだ。悲鳴を上げるカエルをハンカチで覆うと、たちまち包み込んで彼の自由を奪う。
そうして、ゆっくりと意地悪く微笑んだ。
「だめよ、あんたが言い出したんでしょう! 変な約束させる方が悪いのよ」
アンジェリカはカエルが騒ぐ訳を理解していなかったし、あまりに嫌がるので、逆に嫌がらせをしたい気分になっていたのだ。
――こいつのせいで、お父様に怒られちゃったんだから、ちょっとくらい仕返ししてやらないと気が済まないわ。
父親のリュンベルク王は、アンジェリカがもっとも大事にしていたものだった。幼い頃からそれは変わらない。父親のような男性に嫁ぎたいと真剣に願っていた。
その父親に叱られたことで、彼女はカエルに逆恨みをしていたのだった。
*
数刻後。
カエルは見事に茹だっていた。
――変ね。湯はほとんど使っていないのに。
カエルはアンジェリカの侍女が湯をかけるなり、「お れ を 殺 す 気 か !!」と大げさに叫んで、侍女の手元から逃げ出すと、傍にあった水桶に飛び込んだのだ。おかげで一緒の湯を使う事が無く、アンジェリカはカエルの出汁の出た湯を使わずに済んだわ、とご機嫌だった。――仕方ないわよね、本人が嫌がってるのだし。
しかし――。アンジェリカは茹だったカエルを見つめて首を傾げる。
――湯につかってない割に、……しっかりとのぼせているわ。なんでかしら?
アンジェリカは不思議に思ったけれど、結局はあまり深く考えず、ベッドに潜り込んだ。
カエルはいつの間にか彼女の寝台の端にそっと縮まって眠っていた。
そうして、最初の夜は何事も無く更けていったかに見えた。
*
アンジェリカはその夜ふと何かの気配に目を覚ました。ふわり、と柑橘系のさわやかな香りが鼻に届く。
暖かな気配に視線を動かし、直後、彼女は目を見開いた。
――だ、れ、これ……?
アンジェリカの隣には、とんでもない美少年が横たわっていた。
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