ルーツィエの呪い
ハインリヒは、城に連行された後、すぐにリュンベルク王に目通りを許されていた。
怯えたハインリヒが兵によくよく話を聞くと、王の方が彼を探していたようだった。
目の前の立派な紳士は優しい瞳をしてハインリヒを出迎えた。
先日の晩餐会ではユーリが不在だったため、遠くから見かけるだけだったけれど、あの時も彼が居るだけで周りの空気が和むのが見えていた。カストック王とは別の魅力に溢れていて、近くで見るとその穏やかな人格が外見に滲み出ているのがよく分かった。
「街の噂を聞いてね。もしかして、と思ったのだよ。……カストックからわざわざカエルを探しにいらしたとか」
「はい。実は……このカエルと同じようなカエルを探しているのです」
ハインリヒはそう言うと、肩の上に乗っていたカエルをテーブルの上に降ろす。
カエルはおとなしく喉を膨らまして、低く鳴き始める。
「お見かけになったことは」
王は、カエルを一瞥したかと思うと、すぐに頷いた。
「我が娘、アンジェリカの友人だ」
「……ゆうじん?」
ハインリヒは耳を疑った。
リュンベルク王は目を白黒させるハインリヒに、今までのいきさつを簡単に説明した。
「はあ……」
――なんとも……なんだかうらやましい話が混じっていたような。
ハインリヒは頭を掻いてユーリの生活を思い浮かべる。
可愛い王女さまと、同じ皿から食事をとり、一緒に風呂に入り、一緒の寝台で寝る……
それだけ聞くと、夫婦生活よりももっと濃厚な気がした。新婚さんでもそこまでべったりではないだろう。
もし自分だったら……ハインリヒがそう夢想していると、リュンベルク王がこほん、と咳払いをして尋ねる。
「それで、なぜ、カエルをお探しに?」
ハインリヒは慌てて居住まいを正した。
「え、ええ。それについては、この書状を見て頂けると………あれ?」
書状を手に取った時、妙な違和感を感じた。ハインリヒは不思議に思いながら、王にそれを差し出した。
リュンベルク王がそれを開いた時に、その違和感が何か、ようやく分かる。
「あ!」
書状から、ユーリに関する記述、呪いに関する記述が、いっさい消えていた。
――な、なんという呪い………相当怒ってたんだな、ルーツィエ殿は……。あぁ、こ、これは一体どう説明すればいいんだ!
ハインリヒは、せっかくの切り札が一気にただの紙くずになった事に焦り、冷や汗をかいた。
「あ、あの、……王。申し訳ありません……なんと説明していいやら」
「……これは、呪いかな。しかもかなり強力な」
「はい」
「もしかして……あのカエルは……カストックのフェルディナント王子では」
――大当たり!!
ユーリの正式名は『フェルディナント・ユーリ・カストック』。
対外的には、フェルディナント王子で通っていた。リュンベルク王はその名を覚えていたのかもしれない。
ハインリヒは狂喜乱舞して頷こうとしたけれど、なぜか首が縦に振れない。
「あ、あの……」
『そうです』とも『はい』とも肯定の言葉を吐くことも出来ず、ハインリヒは焦った。
首を縦に振ろうとすると、首が引き攣れた。無理をすればもげそうだ。
それでも頑張っていると、次第にハインリヒは息が詰まって真っ赤になって来た。
脂汗が額からこめかみを伝って流れ落ちる。
「うぐぐぐ」
「も、もうよい。なんとなく分かった」
リュンベルク王には、一応伝わったようだった。
ハインリヒは肩で息をする。
「ずいぶん手の込んだ呪いのようだ……。人の口からは教えられないようになっている。状況から推測するしか方法はないようだ」
「そ、そのようです……」
ようやくハインリヒの首を縛っていた力が弱まり、口も思うように動くようになる。
「それで、どうすれば、その呪いが解けるのだ?」
「それが……」
ハインリヒは迷った。ここで話してしまう事がこの状況を良い方向に変えるのかどうか、ハインリヒには分からなかったのだ。けれど、結局は王の協力無しには乗り越えられないものも多そうだった。――現に彼らは既に王の厚意に甘えて城に居候させてもらっている。
――やっぱり協力をお願いしよう
意を決すると、ハインリヒは王にその方法を教えたのだった。
*
そんなやり取りがあったあと、ハインリヒは朝食の席でアンジェリカ王女と対面した。
そして、可憐で優しげな外見を一目見て舞い上がった後、内面のそのあまりの違いに……ひどくがっかりした。
――女の子って……見かけ通りではないんだな。
あれでは、ユーリの相手はとても無理だろう。ともに子供だと目も当てられない。ハインリヒは二人が並んだ様子を想像してため息をついた。
窓の外を見れば、美しい裏庭でいくつもの泉が夏の日の光に輝いていた。
――さてと。とりあえずユーリ様を探さねば。ああ……あの中のどこかにいらっしゃればいいけれど
ハインリヒはそう気持ちを切り替えると、ユーリ捜索を開始したのだった。
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