眠れる森の美少女
結局、ユーリは頭をしばらく冷やした後、部屋にこっそりと戻った。
一応扉にはユーリが通れるくらいの小さな隙間が残されていた。アンジェリカはユーリが戻ってくるのを待ってくれていたのかもしれない。
ぴょこぴょこと跳ねながら先ほどの事を思い浮かべるけれど、いくら考えても、ユーリはなぜ自分が腹を立てたのかよく分からない。
そして、冷静になればなるほど、アンジェリカが一瞬可愛く見えたことの方が腹立たしくなって来る。
――ああ、俺の馬鹿。あんなヤツ、可愛いわけないだろ! 外見に騙されるなよっ! 俺の好みは、もっと、やさしくって、いつもニコニコしててっ……少なくとも、あんなわがままな冷たいヤツじゃない!
アンジェリカに受けた様々な仕打ちを思い出しつつ、自分にそう言い聞かせるようにしながら、寝台に上がり込む。
ユーリが開けっ放しにして来た扉の隙間から流れ込む微かな風に、ベッドの脇の燭台の火が揺らめいている。蝋燭が小さな音を立て、その長さを変えていく。
そんな中、彼女は既に気持ち良さそうにすやすやと寝息を立てていた。
――くそ。いい気なもんだ。幸せそうな顔しやがって。
ユーリは、枕元にしゃがみ込むと、目の前の少女の顔をふと眺める。
ベッドの上にふんわりと波打つように広がる金色の長い髪、くるりとカーブを描いた長い睫毛、少しだけ色づいたやわらかそうな頬、果実のように瑞々しい滑らかな唇。
――これで、中身がまともならな、確かに可愛いんだけどな。
そう思うユーリの前で、ふとアンジェリカが息を呑んだかと思うと、その唇を綻ばせて、可憐に微笑んだ。
ユーリは花が綻んだかのようなその表情にどきりとする。そしてなんだかいけない事をしているような気分になった。
思わず息を止めてその様子を見守るけれど、その瞼がそれ以上動く事は無かった。
どうやら、夢を見ているようだ。
――例のあの男の夢か。
そう気が付いた瞬間、また腹の底から、黒々した嫌な感情が頭をもたげる。
――夢なんか、見なければいい。
思わずアンジェリカを起こそうと、彼女に近づく。
髪でも引っ張ってやろうと思ったのだ。
しかし、彼女の顔が近くに迫ったとき、ユーリの目の前には、その瑞々しい唇があった。
彼の背中を押すように風が吹き、蝋燭の火がふいに消え去る。
ユーリの思考はそこで停止した。
*
――俺は……いったい何をした?
数刻後、ユーリは再び、泉の中に浮いていた。
今度はとてもじゃないが、もう部屋に戻る気にはならなかった。
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