緋色の眼シリーズの中でも
本当に最後となるお話です。
皆様本当にありがとうございました。
大学一年からずっと連載してきて、良かったです。
……でも五年生になっちゃいそうな予感もorz
Days to follow:千島光希
一人称が僕から俺に変わったのは、何時からだろうか。
少なくとも小学生の時の一人称は、僕だった。中学一年になる今から思い返してみれば、何故か子供っぽい。
でも、あの頃はそれが普通だった。多分、俺も大人になったのだろうと、一人納得するほかないだろう。
早く大人になりたい。というよりも、俺は彼女に近づきたかった。二つ年上の、数年前に出会った女の子、未希ちゃん。
未希ちゃんは意地悪だ。俺の気持ちにとっくに気づいているくせに、わざと俺の心を乱すような行動をとる。
やはり、からかわれている内はまだ子供だと扱われているに違いない。だから、もっと強くなりたい。
強くなって彼女に頼られるような存在になりたかった。毎日、それを目指して訓練をしてきたのだが──
「はぁ……」
実家の屋根の上でため息をつく。明日から、舞浜学園に編入だ。正直に言えば、かなり心が重い。
ずっと生まれ育ったこの町から離れ、舞浜学園の寮に入る。知っている人間が居ないでもない。
親戚の八神兄弟。姪の四条莉那。彼等は舞浜学園の小等部に在籍している。それでも、不安といえば不安だ。
一つは未希ちゃんとの事。もう一つは、俺の力の事だ。
「……」
両腕にグローブの式神を顕現。その瞬間から、恐ろしいほどの力が俺の中を駆け巡り、闘争本能を刺激する。
今でこそこれだが、訓練する前はもっと酷かった。俺の式神は一度だけ他人の式神を複製する式神。
運がいいのか悪いのか、俺はユニオンの長である自分の兄の式神と、かつて最強の鬼神と呼ばれたご先祖
様の式神を複製してしまっている。そんな式神を自由に使うのに、あの事件後からずっと鍛錬の毎日。
「強く、なったよな」
風が吹く。まだ寒い。
「光希ー。ご飯よー!」
「おおっ!? 今日は焼肉だと!? 」
「皆揃ってからね……って早っ!」
「うははは! 焼肉は早いもの勝ちって……痛い痛いごめんなさい!」
相変わらず、楽しそうな両親だ。だけど、こちらの気分も上がってくるというもの。俺は返事をして、一階に降りた。
リビングへ行くと煙が充満しており、父さん母さんと、現在プチ家出中の姉さんが居た。姉さん何かは既に良い感じに出来上がっている。
「姉さん。まだ居たんだ」
「光っちゃん酷い! そんなお姉ちゃんを邪魔者みたいに扱って!」
「いやだって、いい加減莉那も寂しがってると思うよ。確かに義兄さんの態度も悪かったとは思うけどさ。ここは大人になってね」
姉さんのこのプチ家出は現在一週間を記録している。莉王義兄さんが接待でベロベロに酔っ払ってきたのが原因らしい。
ちなみに、この家は皆莉王義兄さんの味方だ。浮気したわけでもないのに、かまってほしい姉さんがこうして気を引こうとしている。
「うーん。そうだねぇ。莉那も仲直りしてって言ってたからなぁ」
「莉王君も灼汰の世話を一人でやってるんでしょ。いい加減帰ってあげなさいよ」
母さんの追撃も入る。父さんは、
「ぎゃははは! この芸人面白れーな!」
駄目な人だ。
「そうねぇ。莉王さんったら灼汰には甘いんだから。あの子、手がかからないけど、放っておいたら数日部屋から出てこないし」
俺の甥に当たる四条灼汰。若干小学生ながら機械やネットに精通しており、ゲーム分野においては数々の大会を総なめにしている。
ちなみに甥と姪は全部で四人居て、灼汰の姉の四条莉那は人畜無害でとても優しい子。兄さんの娘の千島蒼華は活発で、
父さんにそっくりな性格。今は確か陸上で活躍している。その弟の千島煉次は顔立ちが良い為に、偶に子供服のモデルをやってたりもする。
何気に多彩な親戚達だ。まぁ、この家族を見れば一筋縄ではいかないような子が生まれるのは当然な気もする。
「じゃ、明日は帰ろうかな。あ、そうだ光っちゃん。後で、お姉ちゃんに付き合ってね。ちょっと用事があるから」
「飲酒運転は駄目だよ」
「いやいや、歩いていける場所だから平気だよ」
何故か、姉さんの含みをもった笑顔が気になった。
そして、食事も終わり一旦自室に帰る。俺の部屋はかつて兄が使っていた部屋だ。偶に命義姉さんの私物が残っているのが
多少気になるところ。それでも姉さんの部屋よりはマシだろう。あの独特の甘い匂いは今も取れる事がないからな。
それに悲しいが、この家もそろそろ終わりだ。俺が舞浜の寮生になった後、母さん達も舞浜に住むみたいだし。この家は売ると。
十数年育った家がなくなるのは寂しいが、仕方が無い。そんなこんなで暫く物思いに耽っていると、姉さんがドアを開けて入ってきた。
「ノックぐらいしようよ」
「男の子はいいの。着替え見られたって減るもんじゃないでしょ」
「姉さんは減ったら困るもんね」
拳骨。痛ぇ。流石ユニオンの体長格。かなりのモノだ。そんな姉さんの最近の悩みは肩の発達による
服のサイズの上昇。まぁ、かなり筋肉ついちゃったから仕方ないとはいえ、姉さんも女性ならではの悩みもある。
梨香姉ちゃんも指の皮膚の事かなり気にしてたし(弓を使うだけに)
「さて、そろそろお姉ちゃんとデートに行こうか」
「人妻と夜のデートとは、中学生にはドキドキの展開だよ」
「流石年上好きね」
「姉の影響かな」
今ではこんな軽口が叩けるようになった、俺と姉さん。兄さんとはこうもいかない。あの人、意外と頭固いし。
二人で階段を降りて一階へ。リビングを覗くと父さんが酔いつぶれていびきをかいて寝ていた。我が父ながら自由だ。
家から出ると、先程よりも寒くなっていた。
「ううううう……寒い……」
寒さに震える姉さん。だったら外に出なければいいのに。
しかしそのままふらふらと先に進みだしてしまった。こうなってしまえば、俺はもうついていくしかない。
護衛なわけではない。この人が負けるなら俺だって勝てないさ。ただ、何か愚かなしないように監視というか。そんな感じ。
そのまま暫く歩いていくと、懐かしい場所に来た。家の近くにある丘の上だ。俺が、かつて兄の式神を複製した場所。
広い敷地の中心辺りで姉さんは立ち止まると、携帯端末を取り出して何処かに連絡し始めた。
「光っちゃん。頑張ってね」
ヘラヘラと手を振る姉さん。次の瞬間、空中に紋様が現れてその中から数人が出てきた。全員見知った顔。
ユニオン幹部、榛名神璽さん。棗……ああ、今は榛名由加さん。牧島郁人さん。竜胆さん。運命義姉さん。
兄さん──千島蒼二。最期に出てきたのは、俺の師匠でもある鬼塚二郎さんだった。
「光希。まずは舞浜入学おめでとう」
兄さんが仏頂面でまずはそう切り出した。
「祝うなら、もう少し笑顔で祝ってよ」
「む……。すまん」
兄さんはそう言うと不自然な笑顔を作った。それを見て神璽さん達は爆笑の渦に巻き込まれた。姉さんも腹を抱えて笑っている。
そして兄さんがひとしきり式神を振り回した所で、ようやく笑いは沈下した。ユニオンの代表がこんなに短気でいいのだろうか。
「それで、何の用事かな? これだけの面子が揃ったんだ。ただの祝福だけではないんでしょ?」
「ああ。お前を特別扱いするわけではないんだが……。やはり、現時点でのお前の力は舞浜に来てでも飛びぬけている。
ウチの生徒達の地力もかなり上がってはいるんだが、まずお前は入学した時点で、もう五本の指には入るだろう。
だから、テストをさせてもらう。お前のその力がちゃんと制御できるのかどうか。俺と……二郎の二人でな」
そういう事か。意外と信頼されていない。確かに俺は兄さんと師匠の力を複製した。その力が凄まじい事は認める。
だからといって、何もしてこなかったわけじゃない。あの事件以降、ずっと鍛錬を続けた。師匠が居ても、一人の時でも。
兄さんを見る。不自然な笑顔は消え、殺気すら感じさせる表情。師匠の方も、かなり本気だ。──それに、背筋がぞくっとした。
「わかったよ。兄さん。師匠。テストを受けさせてもらうよ。──ただし、負けても文句は言わないでね!」
式神を発動。両腕にグローブが現れ、更にその中から二振りの剣を顕現させる。氷の式神修羅紅雪。炎の式神レヴァティーン。
ユニオン最強の男と鬼神最強の男の式神だ。兄さんと師匠もゆっくりとお互いの剣を抜いた。それと同時に、神璽さんと由加さん
が結界のようなものを張った。それを合図として、俺と兄さんと師匠は同時に動く。
「流石に、緋眼じゃ勝ち目が無いか」
兄さんと師匠に比べると、やはり俺の緋眼は経験的にも肉体的にもまだ劣る所が多い。速さでは勝てない。更に──
「っふ!」
師匠のレヴァティーンを同じくレヴァティーンで受け止める。手が痺れ、靴が地面にめり込む。力でも勝てない。ならば──
「式神で圧倒するしかないよねぇ!」
修羅紅雪とレヴァティーンの炎を限界まで上げ、周囲を炎と氷で埋め尽くす。それをお互いの式神で対抗する兄さんと師匠。
兄さんは俺の炎を掃い、師匠は俺の氷を山を破壊する。だが、それはブラフだよ。
「いっけぇ!」
氷の山の中に火種を埋め込んでいた。一気に炎が広がり、更に飛び散った破片が兄さんと師匠を襲う手筈になっている。
だが、兄さんと師匠は急に加速した。それだけで何をしたかがわかる。まだ俺が禁止されている緋眼の昇華型を使ったのだろう。
「光希やるなぁ!」
「だが、まだツメが甘い」
炎と氷を引き連れて襲い来る二人。そこで、ふと迷った。テスト状態の技が成功すれば、兄さんと師匠には勝てるだろう。
だが、失敗する確立がまだ高い。失敗すれば暴発し、どんな被害が出るかわからない。俺の入学はなくなるだろう。
未希ちゃんと同じ学校に通えなくなってしまう。それだけは嫌だった。
「正面突破!」
俺も緋眼を再発動させて兄さんと師匠へと突っ込んだ。射程距離に入った瞬間、炎や氷ではなく剣撃で兄さんと師匠を狙う。
向こうもそのつもりのようだ。名だたる二人の相手は厳しい。決して真ん中に入る事はせず、前方に二人を捉える。
兄さんの下段中段を攻撃。その間、片腕ででは修羅紅雪で師匠の攻撃を防ぐ。うっは、容赦ない。大きく後ろに跳躍し、距離をとる。
「いっくぞぉ!」
炎と氷の力を暴発寸前まで一瞬で溜めた。そして斬撃と共に、それを放つ。兄さんと師匠は正面からそれを迎え撃った。
「嘘ぉ!?」
兄さんと師匠が腰を屈め、俺よりも早く力を練り上げるとお互いの式神で俺の放った炎と氷の斬撃を弾き返した。
信じられない。父さんでもこれは返せなかったのに。畜生──。と何とか防御はしたものの、俺の体は氷と炎に削られた。
痛い。熱い。痛い。痛い。裂傷がすぐに焼けどとなり、傷口は塞がるが地獄のような痛みだ。
「はいはい。決着はついたみたいだね」
安全圏で状況を見守っていた姉さんが輪廻転生の力で俺の傷口を再生してくれた。ああ、やっぱり良い姉だ。
兄さんと師匠の方を向くと、驚いたような顔で俺の事を見ていた。どんだけ俺を過小評価してたのって聞いてみたい。
「兄さん、師匠。どうかな?」
「素直に驚いたよ。もう、俺達と殆ど変わらないよな」
「ああ。俺のコーチももう必要ないだろう。光希。後はお前次第だ。お前の意思一つで、全てが決まるぞ」
俺次第──。という事は……
「光希。お前は今日から戦闘においては一人前だ。後は清く正しく学生として、精神を育め、ユニオンはお前を歓迎する」
兄さんはそう言うと、嬉しそうな笑顔を作った。今度は、誰かに笑われるような不自然な笑顔ではなかった。
そして翌朝。何時もの朝が始まる。
「お兄ちゃん! 洗面所早くしてよ。女の子は化粧とか色々あるんだからね!」
「はぁ? もう女の子って年じゃねぇだろ! 男だって髭剃りとか色々あんだよ!」
「お前ら朝からうるせぇ! 二日酔いに響くだろうが! 静かにしやがれ!」
「三人とも。あんまりうるさいと朝ごはん抜きよ」
母さんの一声により、今日も千島家は平和になった。俺は兄さんや姉さんと違って朝は強いので、既に支度は済ませてある。
こういう時は、母さん似で本当に良かったと思うね。それからバタバタと姉さんが洗面所から走っていき、父さんがかったる
そうに俺の目の前で新聞(競馬)を読み始め、兄さんも新聞(経済)を読み始めると共に、母さんが置いていった牛乳を飲む。
そうこうしている内にまたバタバタと姉さんが二階から降りてきて、テレビの占いをチェックし始める。
「光っちゃん今日は占い一位だよ。きっと良い事あるんじゃない?」
「入学式で彼女できるフラグがたったね。それとも、曲がり角でパン咥えた女の子とぶつかったりするのかな」
「灼汰みたいな事言わないでよ……」
落ち込む姉さん。冗談なのに……。
「つかやべぇ。俺、入学式でユニオン代表挨拶しなきゃならねぇんだ。神璽に原稿頼んどいたんだけど、やってくれたかなぁ」
今日の兄さんの挨拶はアドリブ確定しました。
「遥ちゃん。デジカメの充電終わってる? 莉那の勇姿を取らなくては!」
「嘘でもいいから息子の写真とるって言ってよ。しかも莉那初等部だし。ってまさかそっちに行く気!?」
「光希の写真なんざどっかの勢力が腐るほど撮ると思うから、後でそっちから奪うわ」
なんて父親だ。
「ほら光希。そろそろ電車の時間よ。荷物多いんだから、ちょっと早めに出なさいね。後でちゃんと行くから」
流石母親だ。
「うん。じゃあ、そろそろ行こうかな」
今日から寮生なので、荷物は多いといえば多い。それを担いで玄関から外に出る。今日でこの家も見納めだ。
振り返ると、父さん母さん兄さん姉さんの全員が玄関から出てきて手を振っていた。俺もそれに笑顔で手を振り返し、
「いってきます」
というと舞浜に向けて歩き出した。
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