今回は命です。彼女については神々で色々書こうと思ってます。
命を書く時によく聞いた曲はさくらんぼですね。
次回は正宗、そして時雨の二本続きとなります。
Days3:天美命
夕方の千島家のリビング、私と蒼ちゃんといもーとは一つの机で勉強をしている。
明日は編入試験、とりあえず筆記と面接があるらしい……全くめんどくさい。
ふと、時計を見ると時刻は午後六時、どうやらもう二時間も勉強してしまったようだ。
(ねむぅ……)
自慢じゃないが、私は勉強なんて殆どした事が無い。
ぶっちゃけ、小学校と中学校すらまともに行ってなかった気がする、今思えばその記憶も全く無い。
私はとある事情により、五年以上前のほとんどの記憶を封じられている。
その前の自分はどうだったのか気になるけど、今は気にしない。うん、気にしない。
そう───今はただ眠い、それが私にのこった最後の感情・・・・・・とか言って見たり。
うー! うー! うー! うー!
目の前に、並ぶのは見た事のない複雑怪奇な文様、私の圧倒的な頭脳を以てしてもちっとも理解できない。
大体、何故編入に試験が必要なのかもわからない、学校行きたい人は行かせてあげればいいじゃない。
……そんな事を考え出して早十五分、さっきから全く進展していない。
そして、私は民望書房刊『これから学ぶ、中学数学の基礎』著岩瀬純也値段750円を睨む。
大体高校生の編入試験を受ける私が何で中学数学を勉強しなきゃなーらーなーいーのー!しかも隣ではさぁ!
「ああ、ここはこの式を代入してね」
「ん……サンキュ」
蒼ちゃんといもーとが仲睦まじそうに勉強している。お前ら思春期の兄妹なんだからもっと離れろよ。
何て思うが、無論口に出せるわけも無く、私はシコシコと問題集に取り掛かった。
…………しかーし、五分でざせーつ! 世の中足し算割り算掛け算引き算が出来りゃ何とかなるのー!
「命ちゃんは出来た?」
「私の事はお義姉ちゃんと呼べー!」
「やだ」
うわ、このいもーと私のありがたきお言葉を一刀の下に切り捨てやがった。とても蒼ちゃんの妹とは……思えるね、うん。
この兄妹ってもしかして……結構似たもの同士? だってありえないほど強いし、お互い何か根暗っぽいし。
それでも蒼ちゃんは顔とかかっこいいからいいんだけどねー……って双子だから似たような顔つきじゃん!
「何を悩んでるの? そこの問題はさっき解き方教えたでしょ?」
「わからないもんはわからなーい!」
「命ちゃん……編入試験は明日だよ?」
「わ、わかってるけどさぁ……私が落ちるなら蒼ちゃんも落ちると思うよ? なんたって中学二年から勉強してないんでしょ?」
私は蒼ちゃんに聞こえないように小声で言う、チラリと蒼ちゃんの方を横目で伺うと何やら黙々とやっていた。
するといもーとも私に顔を寄せてきて小声で何かを喋りはじめた。
「言っておくけど……お兄ちゃんはありえないほど、頭がいいんだよ?」
「ええっ!? 全然そうは見えない……」
蒼ちゃんは、私の中のイメージでは勉強が出来なくてドロップアウトしたヤクザ。
だって初めて会ったときが・・・桐生の家の人をばっさばっさと切り捨ててからねぇ……
確かに怖かったけど、あの時の私はほとんど感情なんて持ってなかったからなぁ。
お姉ちゃんと空我と大和が私の記憶を封じて、桐生の家に閉じ込めた真意はわからない。
あの日は凄く悲しかった気がする、ずっと泣いて、泣いて、泣いて、泣いて・・・お姉ちゃん達を困らせて…………
(痛っ・・・)
────頭の中に鈍い痛みが奔る、まだ思いだせないか……
「ああ見えて、中学の時は学年トップだったわ」
「信じられない……」
「人は見かけによらず、いい教訓だったでしょ? じゃあ続きをどうぞ」
いもーとの無慈悲な宣告、いつか義姉になった時にはいびり倒してやる。
そう決意し、私は再び問題集へ向かう、すると家の電話が鳴り響き、私と蒼ちゃんは目でいもーとに出ろと合図をする。
「もしもし、千島ですけど……ああ、お父さんか」
どうやら蒼威さんからの電話のようである。そういえば珍しく廊下に飛び出してないと思ったら出かけてたのか。
遥ママも見てないって事はどうやら二人で出かけたようだね、この家って本当に放任主義だなぁ……
私がここで暮らし始めて、約半月。主の蒼威さんは今まで働いた金でダラダラと生きており、遥ママはそれを容認しつつも
たまに嫌味を言ったりしている、そして子供の蒼ちゃんといもーとは毎日私と遊んだり、それぞれの暮らしをしている。
つまりは、平和って事、悪鬼討伐も全然していない、普通の子と全く変わらない生活。
「お父さんとお母さん今日は飲み会行くってー」
いもーとが私と蒼ちゃんに告げる、流石蒼威さんと遥ママ、まだ高校生の子供を置いて二人で飲み会とは……
すると、私は蒼ちゃんの顔が固くなっているのがわかった・・・この顔は何かに警戒しているような顔だ。
その表情が浮かんだのは一瞬であり、数秒後にはいつも通りの無表情に戻っている。あ、そういえば…………
「ねー、いもーと」
「ん?」
「私達の晩御飯はどうするのー?」
「何かテキトーに食料集めて食ってろって言われたけど……」
「じゃあ、いもーとが何か晩御飯つくってよー」
「私がぁ?」
「この中で唯一の暇人じゃん」
「……まぁ、いいけど」
そう言うと、いもーとはキッチンの方に向かって冷蔵庫を漁り始めた。
私は満足顔で勉強に戻ると、ふと視線を感じる……横を見ると蒼ちゃんが無言で私を睨んでいる。何故?
……もしかしたら勉強が進んでない私に怒っているのかもしれない、やん、もうそんなに私と一緒の高校に通いたいのね。
よっしゃぁ! 頑張って勉強するぞー。私は脳細胞をフル稼働させて、すべての持てる知識を使い問題を解いていく。
…………そんな時間が一時間半ぐらい経っただろうか?キッチンからはほんのりとした良い匂いが漂ってくる。
すると蒼ちゃんはいきなり立ち上がって、
「おい、命」
「なぁに?」
「……俺、ちょっと用事思い出したからコンビニ行って来るわ」
「ん、いってらっしゃい」
「……ガンバレよ」
そう言い残し、蒼ちゃんはリビングから出て行った。 フフ……頑張っちゃおうかな!
ってーか、蒼ちゃんが私を励ましてくれるなんて凄く久しぶり、何かすっごく嬉しい!
いもーとの晩御飯も楽しみだ、遥ママの料理があそこまで美味しい以上娘であるいもーとにもかなり期待がもてる。
「命ちゃん、お兄ちゃん、出来たよー」
私は全速力で駆け出すと、キッチンの方へと向かう。
そこには真っ白な液体が置いてあり、中々に美味しそうなシチューがある。
いもーとはエプロンを外すと、怪訝そうな顔で私へ問う。
「あれ? お兄ちゃんは?」
「んー? 用事があるからコンビニへ行くって」
「ふぅん……何かお兄ちゃんって昔から私が料理作る日は居ないんだよねー、突然遊びに行ったりさ」
「え……?」
いもーとの不思議そうな言葉に私はそれとなく不安を覚える、確か蒼ちゃんは食べる事が好きだったはず。
死罪六神時代は、ご飯の時間の五分前にはもう席についているという徹底っぷりだった。
その蒼ちゃんが…………
「まぁ、冷めちゃうから早く食べよ、今回のはいつもより甘みが多くて美味しいはず」
甘みっ!?……天美じゃなくて甘みっ!?とか思ってしまうほど私は動転しているようだ。
確かにシチューには甘みは必要である、ただそれは野菜の甘みとかルーの自体のまろやかな甘みの事を言う。
でも、いもーとは幸せそうな顔をしてシチューを口に運んでいる、うん……あの反応なら大丈夫そうだ。
「あー、甘くて美味しい。やっぱ私は天才かも」
甘くて……?普通シチューの美味しさを表す時は他の表現ではないだろうか?
よくよく見てみると、私のスプーンを持つ手は震えていた。
「命ちゃん? どうしたの? 早く食べなよ」
「う、うん……」
いざ決心をして一口。
…………、メーーーールーーーーヘーーーーンーーーっ!な味がした、すなわちあ、あままままま、甘い……。
五十倍に濃縮された味のチーズケーキと、三キロはある生クリームを水と一緒にミキサーにかけて飲んだ感じ。
非っっっっっっっっっっっっっっ常に甘い。もう甘い、甘い、甘い、あまーーーーーーい!
「この料理は甘いから、あんまり食べると太っちゃうのが難点なんだよねー」
幸せそうな顔のいもーと、しかし私はそれどころではない、兎に角水が欲しい。
だが、あまりの甘さに声を出す気力すら起きない。「なんじゃこの料理はぁ! ただの食物レイプじゃねーか」と言いたい。
しかし、天使のような笑顔でシチューを食べるいもーとの顔を見ているとそんな事は言えなかった。
「な……中々特徴的な味だね」
「お、命ちゃんはわかってくれる? 時雨ちゃんとかママは生まれる時代が100年早かったとか言うんだよー?」
……時雨さん、遥ママ。多分この料理は100年経っても受け入れられないと思います。
私は意を決して再びスプーンをとり、シチューという名の暴力を胃の中に収めていく。
肝心なのは舌で味合わない事、普通に噛んで飲み込むだけならば味は感じない…………私の長い戦いが始まった。
30分後、何とか完食した私は、ソファーで横になっていた。
いもーとがあんなに甘党だとは知らなかった……今になれば蒼ちゃんが私を睨んだ理由が分かる。
あのガンバレよ、は…………そういう意味だったのかチクショウ。
すると、ドアが開く音がして、蒼ちゃんがリビングへと入ってくる。そして、部屋の中に漂う匂いを嗅いで一瞬顔をしかめると、
「……生きてるか?」
「ぼちぼち」
「あいつは大の甘党だ、もう半端ないぐらいな」
「体と心に刻み込み……いや、刻み込まれました」
「ま、ドンマイ」
そう言うと蒼ちゃんは私の頭を優しく撫でてくれた。うわ、よっぽど後ろめたいんだな。
でも……凄く幸せ。こうやって撫でてもらえるならいもーとの殺人料理万々歳なような気もしてくる。
これはちょーーーっとだけ、いもーとに感謝しなきゃいけないかもね。だが体の調子は相変わらずよくないのが現実。
すると……
「あ、お兄ちゃん帰ってきたんだ」
「おう」
「お腹すいてるでしょ? 私の作ったシチューあるけど食べる?」
「あ……いや、俺は途中クラスメイトに会ってちょっとラーメンを一緒にな」
「何でクラスメイト? 学校にもまだ通ってないくせに」
蒼ちゃんの顔に冷や汗。どうやら珍しく言い訳をミスったらしい。
少し取り乱しつつも、蒼ちゃんは慌てて言いなおす。
「いや、絹柄と会ったんだよ」
「志穂? あの子は今海外行ってるんだけど?」
「じゃ……じゃあ大野さん」
「じゃあって何よ?」
「い、いや……あのな、落ち着いてよく聞け」
「?」
本当に珍しい事に蒼ちゃんが慌てている。それを見ていて私は一つの事を思いついた。
フフフ……愛しの彼女を見捨ててラーメン食べてきた罪は重いわよ。
「いもーと、蒼ちゃんはね。いもーとの料理を食べたいんだけど照れて上手く言えないからそんな言い訳してるんだよ」
「お、おい……命ぉ!」
「何だ、兄妹なんだから遠慮しなくていいのにさ。んじゃこっち着て」
いもーとが蒼ちゃんを引きずってキッチンへと連れて行く。蒼ちゃんは多少の抵抗を試みてはいるが、
だが、いもーとは意に介さない、というよりも聞いてないんだと思う。恐るべし、千島遥緋。
そして壁越しにこんな声が聞こえた。
「ほら、いつまでも照れてないの」
「照れてねぇっての!」
「ママからお兄ちゃんには優しくするようにって言われてるんだから、ほらほら遠慮しないで」
「うっ…………ぶほっ」
「ちょ、ちょっと汚ーいっ!! 何でいきなり噴出すのよぉ!?」
壁の向こうから聞こえる騒ぎ声、蒼ちゃん、大好きだったよ……安らかに…………
余談だが、次の日の編入試験はズタボロの体で行われた。
それでも一応合格ラインには達していたようで、私達二人は九月から高校生になれる。
ちなみに、蒼ちゃんと私のテストの結果はほとんど変わらなかったらしい。(試験後、蒼ちゃんはしばらくショックで寝込んだ)
そして私は改めて思った、千島遥緋、料理式神共に凶悪と認識。これから気をつけようと思う。
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