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ただ、疲れた……
次回は雨龍とか万里とか、色々動きはじめます。
First contact:2 更なる闇へ




 閃光と轟音鳴り響くビルの三階。剣菱と暁は休む事無く、走り続け必殺の一撃を繰り出す。
 天照の閃光が障害物を貫くため、暁は常に移動しなくてはならない。
 だが、こちらの霹靂は壁を貫けない分、大体ではあるが矢の軌道を変えることができる。
 条件は殆ど同じ。後は、体力の勝負。

(負けねぇ……この程度、あの時に比べれば……!)

 暁の脳裏に思い起こされたのは、悪鬼の餌にされた時、死に物狂いで逃げた光景。
 迫りくる異形から、泣きながら、怪我の痛みを無視しながらひたすら叫んで走ったあの日。
 一度地獄というもの見た暁には、この程度の事なら何の苦でもない。
 一方の剣菱も、家の者全てが寄生型悪鬼に支配された時に、地獄を見た。
 いつも笑いあっていた人々が、急に異形に取り付かれ、人としての理性を失ってしまった。
 逃げた。逃げた。妹の手を引いて。だが、その妹も──最後には寄生されてしまった。
 
(我は死ぬわけにはいかん。まだ──まだ復讐が!)

 そして、二人が同時に飛び出し、相手に全力の一撃を叩きこもうとした時だった。
 窓ガラスを突き破って、莫大な炎が二人へと迫る。咄嗟に転がり、壁に隠れるも、
 何箇所かは火傷を負ってしまう。その炎はすぐに霧散し、それが晴れると一人の少女が立っていた。
 黒髪で少し肌の焼けている少女。その目は最近どこかで見た事あるような目をしている。
 コツコツとブーツを鳴らし、少女は剣菱と暁から少し離れた場所で止まると、

「報酬、ちょうだい」

 無慈悲な声だった。ただ、要求しているだけの声。その言い草に怒りを覚えた暁は、
 ゆっくりと壁の影から出ると、怒りに顔を歪ませ、

「おいおい、姉ちゃんよ。テメェ、何言ったかわかってんのか?」

「うん。報酬を寄越せと言ってるの」

「チッ……おい、真砂。一旦休戦だ。この女にお仕置きしてから決着と行こうぜ」

「うむ。気をつけろ。只者ではない」

 暁の言葉は強がりという事はわかっていた。それほどまでに、目の前の少女は強力な力を持っている。
 剣菱も背中に冷や汗が伝うのがわかる。そして、二人が同時に式神の力を放とうとした時、
 
「遅いよ」

 足元に既に炎が纏わりついていた。それは一瞬で燃え上がり、暁の体が炎に包まれる。
 剣菱はギリギリのタイミングで緋眼を発動させ、高速で移動しながら少女へと天照を放とうとする。
 だが、背後に回ったときに少女は確かに反応し、振り返った。
 その瞳の色は、自分と同じ緋色。衝撃が剣菱に走る。少女はその動揺を逃さずに攻め込むと、
 剣菱の腹部に強烈な拳。更に一瞬後には荒れ狂う炎が生まれ、腹の中で爆弾が爆発したような錯覚に陥る。

「君、やっぱり緋眼使いか。真砂って言ってたからもしかしたらとは思ってたけど」

「貴様は誰だ? 見た所八神ではないようだが……」

「私は、"秋月"罪歌。もう、これでわかるわよね?」

 秋月は自分達緋眼の一族の本家。だが、何年か前に悪鬼の襲撃を受けて全て死んだと聞く。
 何故、滅んだはずの秋月の名を名乗る少女が、こんな腐った街に居るのだろう。
 次々と疑問が浮かび、剣菱はそれを口にしようとしたが、罪歌のブーツが顔にめり込み、剣菱の意識はそこで絶たれた。
 





 次に剣菱が意識を取り戻したのは、小汚い病院のベッドの上だった。何故、こんな所に。
 という疑問が沸き、そして自分がまだ生きている事に正直、驚きを覚えた。
 秋月罪歌に自分を生かしておく理由なんて無かった筈。なのに、何故殺さなかったのだろう。
 気まぐれか、それとも何か事情があったのか。考えても答えは出ない。仕方が無いので、
 剣菱は起き上がるとベッドの上から降りた。式神で治癒されたのか、痛みは殆ど無い。
 サンダルをペタペタと鳴らしながら、何となく剣菱は病院の屋上へと向かう。
 
「む……」

 屋上へ続くドアを開けると、自分と同じく、病院支給のパジャマを着た御崎暁が居た。
 相変わらず悪い目つきに、猫のプリントがしてあるパジャマはカケラも似合ってなかった。
 そして、ふと自分のパジャマを見てみると、そこにはウサギのプリント。何か、無性に裸になりたい気分になる。

「やっと、起きたか」

「うむ。快眠であった」

「どこが快眠なモンだっつの。仕事の金は取られるわ。変な女に殺されかけるわ。
 あーあ……これで、あのアパートはおんだされんだろな。また野良猫生活に逆戻りだぜ」

「いいではないか。そのパジャマの猫みたいで」

「ぶっ殺すぞテメぇぇェッ!」

 暁自身も猫柄は嫌なようで、声を荒らげて剣菱を睨むと猫のプリント部分を何度も引っかく。

「ふむ……では、我のアパートに来るか? 一人であの家賃を払うのはどうにも厳しい。
 お互い半々の折半で行こう。そうすれば貴様も晴れて野良猫卒業だ。おめでとう」

「は? お前正気かよ? このクソの巣窟みてーな二階堂特区で、よくそんな甘っちょろい事言ってられんな」

「背に腹は変えられん。貴様もそうだろう。それに、貴様は腐ってもあの"御崎"の人間だ。
 それなりの訓練も受けている筈。実力にも不足は無いだろう」

「テメェもあの緋眼の一族だろうが。八神、千島と並ぶ真砂。相当な名家だぜ」

「だが、もう無い」

「……は?」

「真砂は我以外寄生型悪鬼にとりつかれ、千島蒼威と八神正宗に全員殺された。
 父も母も祖父母も、友人や叔父や叔母も。そして、妹も殺されてしまった」

「マジかよ……」

「力が無いのが悔しかった。妹を最後まで守りたかった。可能性はあったんだ。
 あの時奴らが殺さずに監禁でもしていてくれたら、もしかしたら寄生型を祓えるような
 式神使いが居たかもしれない。外科手術で摘出できたのかもしれない。
 その可能性を全て捨てて……奴らは真砂を殺し尽くした。我には、それが一番我慢ならない」

 暁に言うのではなく、独白するように剣菱はブツブツと小さな声で呟いていく。
 流石の暁にもこれには言葉が出ない。寄生型悪鬼の恐ろしさは聞いただけでも悲惨なビジョンしか見えない。
 それを、目の前に居る男は見てきたのだ。それも、家族が寄生されるという最悪な場を。
 同じ地獄を見てきた人間。共通の敵は人と悪鬼。何となく、自分達が似ている事を二人は同時に悟っていた。
 しばらく黙って、お互いそっぽを向いていると、先に折れたのは暁の方だった。

「仕方ねぇから──手ェ組んでやるよ」

「……そうか」

「改めて自己紹介するぜ! 俺は御崎暁。よろしくな!」

「うむ。我は真砂剣菱。よろしく頼むぞ、暁」

 どちらとも無く笑うと、二人は固い握手を交わし一度病室へと戻って帰宅の準備を始める。
 そして、一度剣菱が借りているアパートに暁が今住んでいる場所から引越しの荷物を持ち出そうと二人で話しながら歩いていると、
 眼前で大きな爆発が起きた。咄嗟に反応し、建物の影に隠れてやりすごすと、近くにあったパチンコ屋から数人の男が楽しそうに飛び出してきた。
 式神の気配が二つ。後は銃火器を装備している集団。楽しそうに拳銃を乱射し、周囲に破壊を振りまいている。
 アホだ……と剣菱は思う。雨龍の言っていた犯罪奨励政策の表面しか彼らはわかっていないのだろう。
 確かに、あらゆる犯罪が解禁だ。だが、二階堂特区のマイナスになるような事をしてはいけない。
 今回の騒ぎはどう考えてもマイナスだろう。あの政策の本当の狙いは、こういうアホを早急に、そして合法的に二階堂特区から消す為だとという事は
 よくわかっていた。結局、このまましばらくいけば二階堂特区は今より治安がずっとマシになるだろう。
 二階堂雨龍という男は暴力的な思考の持ち主だと大半は思っているだろう。だが、実際は実に効率よく特区の安定を図る政策を打ち出しているのだ。
 
「どうするよ。このまま二階堂の鎮圧が来るのを待つか? 俺らで殺すか?」
 
 暁もそれには気づいていたらしい。だが、剣菱はそれを聞きながら視線の一番奥を見ていた。
 逃げ惑う人と人の隙間に、黒衣の長身の男が堂々と歩いていた。その姿は、異質。
 どう見ても只者ではない。そして、強盗していた男達もようやく黒衣の男に気がついたようだ。
 だが、笑って武器を向けている。愚かだ。あんな異常な気配を出す人間を前にして、笑っていられる神経が信じられないと二人は息を呑む。

「どうしたよ。おっさん。何か文句でもあるのか?」

「……黙れ。俺は今、機嫌が悪い。貴様等の所為で、ラーメン屋が途中で店を閉めてしまったではないか」

 そう口にすると、男は半分しかスープの入っていない器を取り出し、ぐいっと男に近づけた。
 
「アイツは……!」

 すると、剣菱の背後から様子を伺っていた暁が驚いたような声を上げた。

「知っているのか?」

「ああ……」

 暁の顔には冷や汗が浮かんでいた。その間も男達の言い合いは続いていく。黒衣の男が差し出した器を見て、男達は大笑いしている。
 「こいつ小せぇ」とか明らかに余裕をかましすぎていた。やがて、式神使いの男が奥の方から出てきて、
 黒衣の男に巨大な斧を突きつけた。だが、黒衣の男は動じる事なく、相変わらず器を差し出している。

「マージ、おっさんうぜぇから。殺されてぇの?」

「足りない分の賠償しろと言っている」

「ハッ。舐めやがって! ンなもん知るか!」

「なら貴様の血で贖え」

 黒衣の男が洗練された動作で右手を振った。それと同時に、男の斧を握っていた腕がごとりと音を立てて地面へと落ちる。
 男はそれを他人事のように見た後、顔を引きつらせ悲鳴を上げた。傷口からは夥しい量の出血。
 それを器で受け止めながら黒衣の男は楽しそうに笑った。当然、男の仲間達も動き出した。拳銃を構え、或いは剣の式神を構え、だが──

「アイツは……八神を追放された長男の八神村雨だ。あの八神正宗の兄貴だよ。
ウチは八神と仲悪かったから顔を覚えさせられたんだ。何でだよ……何であの戦闘狂がこんな場所に……!」
 
 暁の声は震えていた。その気持ちは剣菱にも良くわかる。黒衣の男──八神村雨からは濃密な死の匂いがした。
 現に今も眼を緋色に染めて、刀の式神を使い、凄まじい速さで男達の体を切り刻んでいる。剣の技術だけみても、凄まじい。
 アレが──八神の直系。自分がこれから復讐しようとしている家を追放された人間。正直、背筋が寒くなった。

「ありゃりゃ、村雨さん。またこんな所で力使っちゃってもー!」

 突然、剣菱と暁の背後から幼い声が響く。振り向くと、そこには数日前に剣菱に話しかけてきて白髪の少年が居た。
 
「はろ。おにーさん。また会ったね」 

「お前は……あの時の!」

 驚く剣菱の間をすり抜け、白髪の少年は村雨へと向かってゆっくりと歩いていく。そして、

「村雨さーん! もー終わりー!」

「む……」

 少年の声によって、村雨の動きが止まった。男達は既に息絶えてしまったようで、ピクリとも動かない。
 疲れたように、血が並々と注がれた器を投げ捨て、ついでといわんばかりに、持っていた刀をも投げ捨てる。
 器は音を立てて割れ、刀はすぐにこの世から消えてしまった。それを見届けると、

「つまらんな。クソ野郎の癖にクソ見たいな式神でクソみたいな応戦しやがって、余計にクソ腹が立ったではないか。
 ナナシ。一回でいいから貴様を殺させろ、そうすればこのクソみたいな気持ちもクソ晴れるかもしれん」

「嫌だよ。どうせなら、あっちのおにーさん達とやり合った方が楽しいかもよ」

「……ほぉ」

 ナナシと呼ばれた少年の指が剣菱と暁の方を指差した。それを見ると、村雨の顔に獰猛な笑みが張り付いた。
 肉食獣が獲物を見つけた時のような表情。そして村雨は、ゆっくりと 二人へと向かって歩を進めた。
 当然、剣菱と暁は応戦体勢を取った。その身のこなしに少しは楽しめそうだと感じだ村雨は、再び式神を召還。

「ほほぉ。ガキにしては中々の気配を出すじゃないか」

 そして、村雨の目が緋色に染まった瞬間。剣菱と暁は、はじけるようにして村雨へと突進した。
 剣菱は家に伝わる秘伝の薬を口に含み、緋眼を発動させて暁よりも前へ。暁は手に雷を纏わせて剣菱のやや後ろを走る。
 先制攻撃。剣菱の周囲から熱線が飛び出し、村雨を襲うがそれは難なく回避されてしまう。そして、刀を振り下ろす一撃。
 
「っ──!」

 それを懐から取り出したナイフで何とか矛先だけは変えた。豪快な一撃がアスファルトを砕いた瞬間、
 今度は暁が雷の弓と矢を形成し、村雨が防御体勢を取れない体勢の時に一斉に矢を放つ。確実に、これは避けれない筈。
 だが、村雨は緋眼使い。ギリギリで反応し、何とか矢を避けた。

「ナイスだ、暁」

 バランスを大きく崩した村雨の背後に剣菱が迫る。天照の熱を拳に集中させ、膨大な熱を持つ拳を形成。
 防御が出来ないと悟った村雨は何故か、持っていた刀を地面に突き刺し、剣菱へと向き直る。
 だが、同じ緋眼使いでも流石にこのタイミングでは剣菱の方が圧倒的に有利。未だ防御体勢を取れていない村雨の
 顔面に拳を叩き込もうとした時だった。突如として先程の男達が流した鮮血がボコボコと泡を立て、剣菱の顔へとかかった。

「ぬぅ!」

 目を潰されてしまった所為か、剣菱の拳は空振りし、その腕を逆に村雨へと取られてしまう。
 そして、腹部で爆弾が爆発したかのような凄まじい衝撃。殴られたとわかった時には更に、顔面に一撃。
 そのまま暁目掛けて村雨は剣菱を投げつけた。そして、刀を再び地面から引き抜き、剣菱達に突きつけると、

「及第点という所か。喜ぶがいい、貴様等を今日から俺達の組織の一員にしてやる」

 最初村雨が何を言っているのか理解できなかった。組織の一員? 何だそれはといった感じで
 剣菱と暁が目の前に居る村雨を見つめていると、白髪の少年がニヤニヤ笑いながら近づき、

「じゃあ、案内するよ。僕らのボス達の場所にね。そっちのバビューンのお兄さんには前に場所言ったと思うけど」

「うむ。それでは腹も減ったし帰るとしよう。ほれ、くびり殺されたくなけりゃさっさと立て」

 村雨に強引に立ち上がらされ、痛む体の部分を押さえながら剣菱と暁は村雨と白髪の少年に並んで歩き出す。
 これからどうなるかわからない事が気がかりなのか、二人は終始俯いている。──否。笑っていた。
 この男達についていけば絶対に強くなれる。そんな確信が二人にはあった。そう、自分達は力を求めてこの街に
 来たのだ。随分と遠まわりしてしまったが、再び復讐の道を歩める。剣菱は家族の仇を討つため。暁は家族に復讐する為。
 正反対の理由を持つ、二人の式神使いの少年は低く笑いながら、更なる闇の中へと進む。その先に、何があるのかも知らずに──


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