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時雨と律の話は、これで一応の纏まりがつきました。
次回の陸人だいありーは今までと少し違った、
浅葱陸人の日記形式になってます。
とりあえず、それで神々から新作までに何があったのかが少しわかると思います。
Days17:八神時雨の困惑
 困った事になった。僕──八神時雨は今、人生の岐路に立たされている。
 部屋に飾ってある母親の写真に目をむけ、母さん、僕はどうしたらいいのでしょう?と問いかけるも、
 母親はいつもと変わらず微笑んでいるだけ。そう、わかっていたんだ。助けは無いんだと。
 これは僕自身の過去の償いであり、僕自身の存在の責任であると思う。
 僕の無駄に広い私室に次から次へと運ばれる荷物。それを見て、僕はため息をつくと、

「どうしてこんな事に……」

 とつぶやいた。







 全ての始まりは、昨日の仕事が終わった時。僕は、全ての神々の黄昏事件の事後処理を終えた事に一人感動し、
 これから最近少しハマっている、遥緋から教えてもらったサイトへとアクセスしようとした。
 オンラインゲームという少しお金のかかるゲームなのだが、これが何気に面白い。
 最近では睡眠時間を削ってまで一日一回はログインしている。ちなみに一番強いのが蒼威さん。
 流石にニートには勝てない。だが、この前遥さんにメチャメチャ怒られたらしくあまりログインしなくなっていた。ざまぁみろ。
 ネットと現実。両方で蒼威さんにイジめられた僕としてはニヤニヤ笑いが止らない。
 この隙を突いて蒼威さんよりもレベルを高くして、後で散々いじめてやろうと思っている。
 そんな事を思っていると、不意に父さんが僕の執務室に現れた。

「少しいいかな?」

「なんですか?」

「頭首命令だ。時雨、お前に明日から約一年。お前に休暇を出そう」

「……は?」

「僕もずっと考えてたんだ。お前みたいな若い者が朝から晩まで休み無しで働いててどうする。
 お前は高校の頃からロクに友達も作らず、遊びにも行かずに八神の仕事をしてきたよね。
 そこで僕は思いついたわけだ。これを僕の八神の最後の一年とし、来年からお前に頭首を譲ろうと思う」

「いや、でも僕は仕事が楽しいですし……」

「つべこべ言うな。いいか、これは頭首命令だ。明日から一切の仕事につく事を禁じる!」

 そう言うと。父さんは満足そうにして部屋から出ていった。拍子抜けしてしまった僕は、
 そのまま二時間ほど椅子に座りっぱなしで、何時の間にか寝てしまっていた。
 翌朝目覚めて、皆で食事をとっている最中、父さんが全員の前で昨日の事を発表した。
 皆の顔は明るい。そうか、そんなに僕が居ないのが嬉しいのか。

「時雨様。一年間私達にお任せ下さい」

「日本を離れて、海外旅行などされてきては如何ですか?」

「いやいや、まずはお疲れを癒しに温泉などは……」

 皆に様様なパンフレットや雑誌を渡され、僕は困惑しながらそれを持って自室へと入った。
 執務室とは違い、僕の自室には特に何もない。パソコンとベッドと本棚。
 壁には蒼二や遥緋と写っている写真。それ以外は何もない。簡素で無駄に広い部屋。
 とりあえず、パソコンをつけてネットゲームへとログインする。すると、早速誰かがチャットで話し掛けてきた。


掃除「よぉ。お前が昼間から居るなんて珍しいな」

 相手は戦士の掃除。すなわち、僕の弟分の千島蒼二である。名前は変換をミスしたらしい。
 ちなみに遥緋は☆ハル☆で蒼威さんはタイガー。陸人さんは翡翠。全く芸がない。
 由加は何故か亜矢子という名前でやっていた。理由は秘密とのこと。意味がわからない。

シグレ「一年間休暇を出された」

掃除「うぉwwwwwお前もついに親父の仲間入りかwww」

シグレ「勘弁してくれ。それと、その無駄な英字はなんだい? 皆使ってるようだが」

掃除「笑いって意味だwとりあえず、暇できたらこっちにこいよ」

シグレ「わかった。久しぶりに皆にも会いたいしね。そっちは元気なのかい?」

掃除「母さんは親父と病院。あの駄目人間。やっと車買ってさー。これで、母さんも楽になるだろうよ」

 二ヶ月前の謎の車両運搬具の計上はこれが原因だったのかもしれない。全くもう。

掃除「んで、遥緋は四条の奴とどっか遊びに行った。命は運命の家」

シグレ「何!?  何故、莉王と遥緋が遊びに行くんだい!」

掃除「何か、九我山のねーちゃんの紹介らしいぜ。あいつの強さに一目惚れだとよ」

 あの十名家最強の変人め。僕の大事な妹分に手を出しやがって、いや。遥緋も来年は18歳だ。
 そろそろ僕が口出しするような年じゃないだろう。あの子も立派に成長したもんだ。胸以外。
 遥さんはあんなに豊満なのに、何故伝わらないのだろうね。ああ、蒼威さんの影響か。
 可哀想に。そして、莉王には釘をさしておこう。無論、体に。

掃除「あ、そーいや。お前もついに九我山のねーちゃんと同棲始めンだよな?」

シグレ「は?」

掃除「親父とか正宗さんがそう言ってたぜwww おめでとう!!!!」

 嫌な予感がした。自慢じゃないが、僕の悪い予感というのはほぼ確実に当たる。
 幼い頃から非常識二人組と一緒に居た所為か、こんな悲しい能力が身についてしまった。
 すると外の方でトラックの音。珍しい、戦闘も無いのにトラックが来るなんて。

シグレ「すまない。少し怖くなってきたから、一回落ちる」

掃除「ういー お疲れノシ」

 ノシとは何なんだろう、と思いつつ僕はパソコンの電源を切った。そして早足で外へと向かおうとし、
 ドアを開けた瞬間、信じ難い光景が広がっていた。そこに在ったのは中型のトラック。
 運転手の姿を見てみると、まだ若い高校生ぐらいの女の子だ。どう考えても似合ってない。
 そして──助手席から降りてきたのはきっちりと着物をきた、律の姿。

「やぁ、時雨。花嫁修業に来たよ!」

 その瞬間、僕の背筋が凍りついたのは言うまでも無い。というか、意識を失いかけた。
 そして、現在。僕の何も無かった私室が物凄い勢いで蹂躙されていく。荷物運びの女の子は
 本人曰く「律ねーさんの舎弟の鳴神紫っす。よろしゅうお願いします」だそうな。
 その子は良く働く子で、律を部屋に通して十五分で全ての荷物を運び終えると、
 僕らに手を振って再びトラックに乗って帰ってしまった。正に疾風迅雷。
 すると、律が一本のDVDを僕へと渡す。部屋のパソコンで早速再生してみると、
 そこに映っていたのは九我山の直系。それも、律の家族の父と母と弟らしい。

「おねーちゃんを、よろしくお願いします」

 と弟。律の弟にしてはかなりの常識人だ。

「八神さん。この子をどうかよろしくお願いします。律ちゃんはこう見えても、尽くすタイプでして。
 女性としての嗜みもほぼ完璧に叩き込んであります。どうぞ、味見でもなさってくださいな」

 とお母さん。天使のような笑顔でそんな事を言われても困ります。
 律も隣で「お母様ったら」とか赤くならないで欲しい。困ります。困ります。
 そして、中心に居た大柄な男性──律のお父さんが一歩前に出てきて、

「よろしく!」

 とお父さん。絶対律はこの人似だ! それが終わると、映像は途切れた。
 なんとも気まずい沈黙が流れる。律は妄想の世界に逝ってるしね。ああ、気が狂いそうだ。

「……花嫁修業って一体何をする気なんだい?」

「ん? まぁ、時雨の事がよく知りたいんだ。」

「それを、何故家で……」

「だって、将来の旦那様の好みの味付けとか知っておきたいじゃないか」

「……そうかい」

 そう言われては何も言い返せない。それに、僕と律は本当に結婚してしまうのだろうか。
 律は僕の事が好きらしい。でも、僕はわからない。そもそも、本気で好きになったのは
 昔一回だけ。高校の頃に三人付とき合ったが、全員に「人間の屑」と罵られ、あえなく終了。
 そんな僕が、人に好かれる資格があるのだろうかね。 
  




 次の日から僕と律の共同生活が始まった。しかも、初日から寝不足という最悪なスタートで。
 律はとんでもない格好で寝る女だ。僕がいくら注意しても寝にくいと言ってそのまま寝てしまう。
 僕だって男なんだ。性欲だってある。仕方が無いので僕は自身の式神【重場】を使って
 自分を一晩中布団に固定してひたすら円周率の暗記をしていた。
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 8301194912……
 朝日がこれほど待ち遠しかった日は無い。やがて、律が目覚めて着替えを終えると
 僕はホッと一息つき、式神を解除した。

「やぁ、時雨! 良い朝だね」

「この二十年間で最低の目覚めだよ。ああ駄目だ……頭の中に数字が溢れて覚醒状態だ」

「……? まぁいいや。とりあえず、僕が君の朝ごはんを作ってやるから少し待ってろ」

「ちょ! 勝手に家の中を」

 はい、律は僕を黙殺──というか耳に入ってないのだろう。そのまま部屋を出て行った。
 それから約一時間と少し。僕が必死に円周率を頭から叩き出そうと努力していると、
 ドタドタと音を立て、部屋の障子を破壊せんばかりの勢いで開けて律が帰ってきた。
 その手には朝だというのに、一晩中寝てないというのに、何故かハンバーグ。

「僕の全てを込めて作ったハンバーグだ。食ってみてくれ」

「うう……わかった」

 …………美味いぞ、これ。久しぶりに、美味しいと言う物を食べた気がする。
 律はそんな僕の表情を見て、満足したのかニコニコ笑っている。何か凄く負けた気分だった。
 
「美味しいだろ?」

「ああ、認める。美味しいよ」

 正直、遥さん級に美味しかった。口には出さないけど。
 



 それから、僕と律は殆ど同棲と言っても言い位の生活を始めた。と言っても、毎日遊んでいるだけ。
 律は九我山のお嬢様な筈なのに、僕よりも俗っぽい人間だった。まさかラーメン屋に替え玉なんてシステムがあるとは……
 それから服のセンスがなってないと駄目だしまでされた。仕方ないじゃん。年中スーツなんだから。
 一番律が驚いていたのが、僕の無趣味さ。正直「時雨、人生楽しいか?」と聞かれた時には泣きそうになったね。
 律は車が趣味らしい。後日届いた煌びやかなスポーツカーは彼女の宝物らしく、毎日掃除をしている。
 僕も手伝わされた。車を掃除するなんて初めてで、半ば悪戦苦闘しながらも最後には綺麗になった。

「どうだ。こういうのも楽しいだろう?」

 ……認めるよ。楽しかった。今までこんな事は経験したことが無い。
 その後も、僕は色々と教わった。九我山家の新年は大麻雀大会が開かれるらしく、僕もルールを叩き込まれる羽目に。
 しかし、こういうのは得意だ。一ヶ月が経つ頃には僕はもう負けが無い。八神が廃業したら雀荘にでも就職しようと思う。
 


 そんな日々が半年ほど経っただろうか。時に喧嘩し、時に笑いあった僕と律。
 …………本当に、認めたくは無いのだが、僕は律に次第に惹かれて行ったんだ。
 律は何時も本気だった。僕に対して、何に対しても。それが、とても僕には嬉しく、羨ましい。
 律は僕に足りないものを沢山教えてくれた気がする。
 そして、ある日僕は庭でで律と向かい合い、一つ真剣な話を振る事にした。

「律。僕は、八神の跡継ぎだ。だから、何時かは誰かと結婚して子孫を残さなくてはいけない」

「……うん」

「でも、僕らは混血同士。君も知っているだろ? 混血と混血で子供を作った場合の事を。
 僕ら八神ではずっと前から純血の子をもらって、子孫を作っていた。 
 勿論、僕の母さんもそう。僕らは、八神の緋眼を絶えずに後世へと残す義務がある」

「わかってるよ。確か、混血と混血で子を作ると力の強い方が引き継がれるんだったよね。
 しかも、それについては何ら科学的根拠も示されていない。正に運次第というやつだ。
 後、極稀だが二つの力が合わさって、新しい力となる場合もあるらしいね」

「うん。正直、緋眼と鬼憑はほぼ互角だろうと思う。だから、どちらがくるかわからない。
 もし、鬼憑が生まれたらその子は八神を継げない。きっと辛い思いをしてしまうだろう。
 それに、もし君が子を産めなくなったり、緋眼使いが生まれなかったら、僕は君と別れて他の誰かと子を作るしかないんだ」

「…………」

「それが嫌なら、ここではっきりと別れよう。それが、九我山律と八神時雨が生まれた時に
 背負った宿命なんだ。混血同士の結婚は難しい。千島みたいな家なら別だが、
 僕ら八神や九我山は違う。下手をすれば、家族まで敵に回してしまうかもしれない結婚なんだ」

「……時雨は、僕の事好きか?」

「……正直に言うと、好きだよ。少し前までは苦手だったけどね」

「じゃあ、"私"はそれだけで十分。全ての犠牲を背負ってでも、私は君と結婚したい。
 子供だってちゃんと私が育てる。一人でも、たとえ君が居なくなろうとも」

「君がそうなら僕は──律、君を絶対に幸せにすると約束するよ」

 ああ、恥ずかしい。だけど、きっとこれが僕の本音。半年間一緒に居た律は、僕に色々な事を教えてくれた。
 それは、昔の僕だったらどうでもいいと切り捨てたような事が多い。
 でも、今では全てが大切な思い出。僕は律を抱きしめた。生まれて初めて、本当に好きな女の子を抱きしめた──






 翌日、僕らは一緒に目を覚ますと律曰く「漫画でよくあるおはようの儀式」をして、食堂へと向かった。
 昨日あれだけしたというのに、鬼憑使いの体力は底なしか。と思いつつも、実は僕もしたかったというのは一生の秘密。
 蒼威さん達に知られでもしてみろ。死ぬ寸前までその事で僕をからかうに違いない。
 二人でこっそり手を繋いで、食堂へと行って見るとおかしな事に人の姿が無い。
 それどころか、給仕の係までいない。そして──裏手の方から聞こえる妙な歓声。
 僕らがその方向へと向かうと、想像を絶する光景。何故、何故、宴会が行われてるの!?

「おお、時雨様がお目覚めになられたぞぉぉぉぉっ!」

 八神でも調子の良い人柄の宗助が僕らに気づいて声を張り上げた。何だ、何だ、何なんだ?
 何時も使われる宴会場のステージを見ると、何か変な事が看板に書いてある。

「き、み、が、そうなら僕は──律、君を絶対に幸せにすると約束するよ?」

 ……ま、まさかと思い、その下に視線をやる。

「し、ぐ、れ、様、ご結婚決意、おめでとうございますぅ?」

 全員がニヤニヤしながら僕と律を見ている。クソ、昨日の会話は皆に聞かれてしまったのか。
 ああ……僕の威厳が……八神の立場が……ああ、あは、あはははははっ。
 いいよ。いいよ別に。どうせ、僕はこうやって弄られる運命なんだ。あはは。あはは。
 すると、鼻眼鏡をした父さんが僕に向かって歩いてきた。この人は、真面目なのか、不真面目なのか。どっちなんだ。

「お前達が進む道は八神の今までの主義に反する行為だよ」

「わかってます。でも──」

「言うな。息子の結婚を祝福しない親が何処にいる? それに、過去の八神がどうした!
 お前達は、今しか生きられない。だから、後悔しないようにな。精一杯頑張って見るといいさ」

「はい!」

「お父様。これから、宜しくお願い致します」

「いやぁ。可愛げのカケラの無い息子と違って、可愛らしい義娘が出来て僕も嬉しいよ」


 珍しく、父さんのテンションが高い。この人、もしかして女の子がほしかったのか?
 だから、蒼威さんや陸人さんにロリコンロリコン馬鹿にされるんだ。

「時雨、どうしたの?」

「早く来い。お前には今から、皆の前で挨拶をしてもらうんだから」

「あ、はい。今行きます」

 そして、僕と律は手を繋いで宴会の輪へと加わった。
 

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