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水色桔梗ノ末裔  作者:げきお

本能寺への道

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44話 覚悟

季節は夏の盛りである。高原地帯である此処も、さすがに暑い。
21世紀の暑さに慣れている俺たちも、エアコンがないと厳しい季節だ。皆、山小屋から出ず、時折涼みに小川で水浴びばかりしていた。ついでに川魚を獲るのだ。
そして、数日が経過し、やっと「この時」が訪れたのだった。

山小屋に来訪したのは四人だった。
オッサンこと「大蔵長安」、源三郎信幸、横谷左近……それともう一人。

「皆んな……元気やったか?やっと会えたな……
じっと待ってた甲斐があった。ホンマに嬉しい……」
大久保のオッサンは、感無量といった様子だった。

「俺らもです。転生したこの世界で六人一緒や。嬉しいっす」
巧が答えた。

「准教授……俺も絶対この時代に居てはると信じてました。ホンマに‥‥‥」
俺は、改まって言った。

「恵介さん、巧さん、京子先輩……弟の「源次郎信繁」です。俺が転生者って事、打ち明けました。未来では超有名人やからご存じでしょ?協力してくれます。信用して仲間に入れてください」

「マジか?これは心強い。宜しく頼みます……」
そして、それぞれが身分を明かし、自己紹介したのだった。

真田源次郎信繁さなだげんじろうのぶしげです。兄から聞いたところ、どうも某が未来で有名人だそうで、恥ずかしいです。けど、実際はこんなもんです。ハハハッ」
「真田幸村」の通称で有名な人物だ。年齢のせいもあるだろうが、俺たちが知る「若武者」なイメージそのままだった。だが正直、「イケメン」ではない。
背が低く、八重歯が特徴の、愛嬌ある男だ。

「あ、それと皆で決めたんですが、未来での名前は、ややこしいので、この時代の名前で呼び合う事にしました。
准教授も、長安殿って呼びますね?
じゃあ、お昼ですし、川魚でも焼いてバーベキューでもしますか?」
俺は、クセで未来用語を使ってしまった。
この時代のメンツは、目を丸くしていたが……
そして、暫し歓談したのだった。


一刻程して日が若干傾き、日影が出来た頃に、俺たちは会談に及んだ。
歴史変革のビジョンを共有するためだ。大筋のストーリーは決まっているので、長安に内容を説明することになった。

「長安殿……皆で話し合い、決まってる事なんですが、大筋を説明します。
まず、来年六月に「本能寺の変」が起こるんですが、この後、父光秀に天下を統べて貰おうと思ってます。できるだけ早い段階で「幕府」を開き、日ノ本の技術革新を進めたいと思ってます。
そして、30年後くらいを目途に、帝に「大政奉還」し、立憲君主制に移行します。その後、新大陸「アメリカ本土」に移民国家を建設します」
俺は概略の説明を続ける。

「それと並行して、教育制度の充実と、民主主義の浸透を目指して、未来にその種を残そうと思います。俺らが生きてるうちに、その成果は見れないでしょうが、大幅に歴史を良い方向にできるんやないかと……思うんですが、どうでしょうか?」
長安は、ずっと瞑目して聞き入っていた。そして、語り出したのだ。

「十五郎……立派な考えやと思うが、実行可能なんか?
民主主義を持ち出すのは、この時代の人間には「劇薬」と同じや。
まず受け入れがたいやろ?理想としては正しいのはわかるが、日ノ本だけでなく、この時代の人間の民度では、浸透させるのは不可能や」
痛烈な先制パンチだった。そして続ける。

「俺は、諸国放浪して色々見聞きしてきた。やけど、この時代の人間の意識は「日ノ本」っていう国家意識は無いに等しい。同じ日本人同士で殺し合うんや。
しかも、倫理観の欠如も甚だしい。
或る時、わしは見たんや。戦場でのおぞましい光景やった。
ある足軽が、敵の兜首を取って組頭と思しき者に自慢げに見せに行ったんや。
そしたら、その組頭が、いきなり、その足軽の首を刎ねて、手柄首を横取りしよったんや……
その時、わしは思った。民主主義なんか絵空事やってな。
日ノ本の戦国時代は、21世紀では考えられん、弱肉強食の野蛮な時代なんや。人の命の重み何ぞ、毛ほどにも感じん人間が大多数や。
お前らは、そら立派な理想を掲げてると思う。
けど、手を汚して「清濁併せ呑む」気概がないと、絶対無理やぞ。
「マキャベリズム」を肯定する、いや、少なくとも否定はせん……という思考がないと、この時代を勝ち抜くことなど、絶対にできん。
お前らに、そこまでの覚悟があるか?」

長安の言葉に、誰もが沈黙した‥‥‥皆、「正しい」と思ったからだろう。
理想と現実のギャップも目の当たりにしたのだ。
そして、長安は更に言葉を続ける。

「わしは、織田信長という人物は、ある意味正しいと思ってる。
それは、宗教的権威を恐れず排除しようとしたからや。
21世紀と違って、この時代の宗教観は並大抵のモンやない。
「本願寺」があんだけ強かったのも、宗教の精神的支柱のせいや。
そら、「根切り」にせな、仕方なかったやろ‥‥‥
やけど、真の強さは、その「実行力」や。
「楽市楽座」もそうや。既得権益を、悉く否定する。
実際の話、信長でないと、早い段階で「世界の強国」と争う事なんか、覚束んやろと思う。わしは、正直な話、転生者が自分だけやったら、本能寺の変を「失敗」させたと思う」
そして、周り一人ひとりを見回した。

「けど、こうして、あの時の転生者六人が、この時代に出会う事ができたんや。
おまえらが決めた「計画」に乗ろうやないか‥‥‥
但し、条件がある。
十五郎、おまえが最終的には、日ノ本の統治者になるやろ‥‥‥
そうなった時に、「自分の良心」を捨ててでも、未来に対する責任を果たせるかどうかや。皆もそうや。この時代において、「人の命を多数奪う事」に躊躇するようでは、わしは協力できん。
例えば‥‥‥アメリカ本土に移民国家を作る件や。
おまえら、先住民を虐殺する「不名誉」を被る覚悟あるか?
相手は言葉も通じん原始的な民族や。当然殺し合いになるやろ。
土地を奪われまいと必死や。殺らな、殺られるんや。
それだけの因果を背負って、地獄に行く覚悟があるかや。
今の日ノ本で、その覚悟あるのは、「信長」だけやろ‥‥‥
世界的に見て、今の時代は「絶対王政」なんや。そして、今後植民地時代に突入していく。民主主義に関しては、時期尚早や。
十五郎‥‥‥おまえが「統治者」として泥を被らなあかん。
それが出来るなら、信長を倒してまで、計画を実行する価値がある」
長安は、そう締めくくった。

俺は、呆然としていた。指摘されるまで考えもしなかった‥‥‥

「十五郎‥‥‥覚悟決めろ。俺も一緒に泥被ったる」
孫三郎が、そう答えた。

「十五郎殿‥‥‥覚悟できないなら、武田家が滅びるのを容認する、僕の立場がないです。お願いします。全力で力になりますから‥‥‥」
源三郎もそう言ってくれた。

「若殿‥‥‥某も一命を賭してお仕えいたします。何卒‥‥‥」
源七までが覚悟を決めている。

俺は、京姉の顔を見た。
そして、京姉は、俺を見つめ返し、そっと頷いた‥‥‥
「恵君‥‥‥もし、恵君が人の命を奪わなあかんのなら、その分、ウチが一人でも多くの命を救えるように努力します‥‥‥ウチにしかできんこ事やから。
もし、地獄に行くんやったら、一緒に付き合ってあげる‥‥‥」
なぜか、京姉だけは、未来の名前で呼ぶ。もう言っても無駄かな‥‥‥

「長安殿、覚悟決めます。未来のために‥‥‥」

「わかった。そしたら、皆で力合わせようやないか‥‥‥
但し、もし十五郎が躊躇するような事があったら、わしは未来のために、おまえを排除するからな。それだけは覚えておいてくれ‥‥‥」

そして、その場は神妙な空気に包まれた‥‥‥
誰も、その後の言葉を発しなかったのだ。

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