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水色桔梗ノ末裔  作者:げきお

本能寺への道

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22話 密談

ここは三層の天主が聳える、真新しい城である。
そこからは、播磨灘が一望できるはずだ……
元々、この城の主であった男は、ゆっくりと回廊を歩いていた。
「もう馬を駆ることも……できぬな……この上は殿に、この脳髄から溢れる軍略を買ってもらうしかあるまい……」
少し寂寥感を感じつつ、男はその部屋に歩を進めた。

「お~~来たか……ははっ……足の具合はいかぬのか?
わざわざ、すまんことやのぉ……」

「殿……お気遣い、忝けなく……」

「何を言うとるのぉ~……わしゃ、今となっては、おまえだけが頼りなのよ~~っ……さぁさぁ、足なんか崩して、くつろいだらええ」
この城の主は、およそ戦国大名らしい威厳などはない。
だが、その天性の陽気に当てられると、貴賤を問わず、骨抜きにされてしまうらしい。
「羽柴筑前守秀吉」……戦国一の出頭人である。三木城攻略を終え、一時、ここ姫路に帰還していた。継続中の中国攻めの準備のためである。

「はっ……然らば失礼仕る」
対してこの男は、ぶっきら棒に答えるのみだ。
別に威厳を保とうとしてる訳ではない。軍略以外のことには興味がないのだ。
「黒田官兵衛孝高」……「竹中半兵衛」亡き後、秀吉の軍師たる男である。
官兵衛は先年の荒木村重の謀反の際、囚われの身となっていた。
旧知の村重より、それこそ何度も味方するよう言われたのだが、生来の頑迷な性格と、信念を貫き通し、首を縦に振ることはなかった。
結果として、不自由な体と引き換えに、信長からも、そして直属の主君たる秀吉からも、全幅の信頼を得ていた。

「で、官兵衛……これからの方策じゃ。わしゃ、こんな世の中じゃが、なるだけ家臣らが死なん方法を考えたいんじゃがのぉ。
時間はかかってもええ。わしも元は百姓じゃて……」

「毛利との戦は、一筋縄ではいきませぬ。国人衆との絆も強固ゆえ、力技では、やはり難しいですな……地道に攻めるのが常道かと思いまするが……上様のご気性を思えば……」

「そこなのよ~~もたもたして、佐久間殿みたいになったら、目も当てられんしなぁ~はぁ……まぁまぁ……わしゃ、ここまで来れただけでも、出世したもんじゃわ。
あんまり家中で出る杭になり過ぎてもなぁ~。むずかしいわぃ」

「はぁ。さようで……」

「じゃが……日向守だけは……のう?」
先程まで陽気さとは打って変わって、別人のような秀吉が言葉を継いだ。
その眼光は、信長の「それ」に似ている。

「間者を使い、調べておりますが……敵も手強いもの。
三左の手の者が仕損じたようにござる……
明智の間者共……侮れませぬな」

「なに?手を下したのか?」

「はっ、間者共を捕らえ、何かを聞き出そうと三左も考えたようで……」

「三左に申し付けぃ……こちらの素性がばれたら何とするんじゃ~?
慮外者が~~~っ。光秀を侮るでないわぁ~。
ましてや、上様のお耳にでも入れば何とするんじゃ~。
それに……あの子倅……油断できんわぃ」
秀吉は、それまでとは別人のようになっている。

「はっ……それに……」

「まだ、何かあるのかぁ?」

「その子倅……何やら雑賀の者とも、浅からぬ縁があるやもしれませぬ。
三左が申すには、手の者が数名、鉄砲にて討ち死にした由……」

「殿……今は織田家中のことより、毛利攻めに専心すべき時ではありませぬか?」

「わしはのう……官兵衛、上様が天下を統べられた後の事を見ておる。
誰が世継ぎになられても、織田家中はもたぬ。そうは思わぬか?」

「殿……如何な……お考えで?」

「官兵衛……近う……」秀吉の眼が、「狂気」を孕んでいる。

「……………」

「そこまで……お考えにござりまするか……」
官兵衛は驚愕した。この男が何故ここまで出世できたのか……
そして、こうも思ったのだ。
この男なら……成し遂げるやもしれぬ。そして……
わが軍略のすべてを賭ける価値が、この男にはあるやもしれぬ……と。










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