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水色桔梗ノ末裔  作者:げきお

天下一統への道

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115話 阿波平定戦

天正十年六月十四日
此処は阿波国である。吉野川の扇状地を抑える要衝、勝瑞城は十重二十重に囲まれていた。すでに三好方が籠城を始めて数日になろうとしているが、大きな戦闘にはなっていない。
長宗我部宮内少輔元親は力攻めをするつもりはなかったのだ。

本能寺の変と前後して、元親は宿願であった四国制覇を目指して大軍勢を率い、阿波に攻め入った。歴史上の時系列よりも早く、四国制覇の戦が始まっていたのである。
しかし軍勢の陣容も、敵の陣容も歴史的事実と異なっている。
元親は万全の準備をした上で、六月一日に牛岐城を出陣すると、怒涛の勢いで一宮・夷山の両城を陥落させた。上方で異変が起こることを見越した攻撃であったのだ。歴史上では三好笑岩こと康長は事変を聞いてすぐに逃げ帰っているが、その余裕もなく長宗我部軍が進撃したため三好方との大戦になっていた。
そして、中富川湖畔において両軍は激突したのである。
長宗我部軍は二万の大軍であるが、三好方も勝瑞城に十河存保を大将に五千。そして、援軍として四国に居た三好康長の二千が居たのだった。
元親は大軍の利点を活かし攻め立てたが、初戦では勝利できたものの、三好方は損害が大きくなるのを嫌い、すぐに撤退し勝瑞城に籠城していたのである。
元親は力攻めをするのを避け、畿内の動静と絡ませながら開城を迫るという作戦に切り替えていた。それは、明智方が畿内を制するか否かに掛かっている。光秀が畿内を制覇した場合、秀吉は動きが当面取れなくなり、四国に後詰する事ができなくなるからだ。
そして六月十二日、尼崎の戦いの結果がもたらされると、元親は開城の使者を送ったのである。勿論、三好方も七千程の兵力を要するため容易に開城に応じる気配はなかったのだが……


「叔父上……敵の兵糧は十分の様子。長雨の時期になれば往生致しますな?
何とか開城させねば時間だけを浪費いたします」
元親の甥である吉良親実がそう語った。

「殿……此処はやはり力で押しつぶしましょうぞ。
不肖、某に先鋒を申し付けくだされ。三好など如何ほどの事もありませぬ」
家老の久武親直が強気に申し述べた。

「内蔵助殿……叔父上は力攻めはなされぬ。お控えなされ」
親実が即座にその方策を否定する。
吉良親実と久武親直は何かにつけいがみ合っているのだ。若さ故もあるのだが、元親もこれには困っていた。

「両名とも言い争いするでない。家中が団結して、家を盛り立てるのが一番の孝行であるぞ。畿内の動静が定まった以上後詰は望めぬ。まあじっくり時間をかけようではないか?」
元親はそう答え、泰然自若としていた。




一方、勝瑞城では、十河存保と三好康長が話し合っていた。

「笑岩殿……兵糧は十分ございまする。一月もすれば大雨になりましょう。
長宗我部勢も往生するはず。その時は一気に押し出しましょうぞ」
存保は強気の姿勢を貫くつもりである。

「三郎殿……畿内で羽柴殿が敗れた以上後詰は望めぬ。
無論、言わんとすることはわかるが、難しい処じゃ」
笑岩はそう答えた。

「しかし、あの大軍では兵糧にも往生いたしましょう?
一月待てば何とかなりませぬか?」

「いや……此度の攻勢は……元親は本気じゃ。
予め明智の謀反を知って出陣してきておる。阿波を取り返すつもりぞ」

「ではどうなさる?おいそれと城を明け渡せと言われるのか?」

「兎に角、時世の赴く処を見極めようぞ?
羽柴殿が敗れたと申しても、このまま終わる訳がない。いずれ巻き返されよう?
此処は兵力を温存したまま一度退いて捲土重来に賭けるのも一計だとは思うが……」

「しかし、勝瑞城を明け渡したところで、我らは延命できるだけではござらぬか?」

「そうじゃ。今は時間と情報が欲しい。我らが籠城を続けたとて、下手をすれば滅亡の憂き目を見るかもしれぬ。今なら元親は開城の条件で譲歩もしよう?
まずは降伏ではなく、和睦の体を取ればよい。虎丸城まで退いて、情勢を見極めればよかろう?
そして、羽柴殿が盛り返せぬとわかれば、命脈を保つためにも降るとういう選択肢も考えねばなるまい。元親は我等を根切りになどせぬ」
笑岩はそう見通しを語った。

「しかし敵は大軍を擁しておりまする。和睦など致しましょうか?」

「さての……それはこれからの談合次第ではないかの?
三郎殿が言うように、大雨となれば囲み続けるのも骨が折れよう?
損得勘定ができる元親なら脈はあるのではなかろうか?」

「何方にしても、いずれ開城を求める使者が来られましょう。
条件次第でござりますな?我慢比べでござりましょう」

「うむ……まずは条件次第じゃ。ゆるりと構えるとしよう」

こうして、勝瑞城の三好方では出方を見極めていたのである。





元親は再度の交渉を試みようとしていた。吉良親実を使者として送り込むつもりなのである。四国最大勢力である長宗我部家の親族衆が使者となるのである。元親は開城させることにより、阿波支配の既成事実を積み上げ、三好方を追い込もうとしていた。それも犠牲を少なくして……

「新十郎……此度は其方に使者として赴いてもらいたい」
元親は甥である親実にそう申しつけた。

「して叔父上、如何様な条件で開城を迫りまするか?」

「其方はどう思うか?」

「さて……某ならば一戦も辞さぬ構えで降伏を求めた後、一歩引いて条件を緩めるような駆け引きを致しますが……条件を何処まで妥協するかが難しゅうございますな」

「うむ……基本的にはそれでよい。わしは城兵は総赦免するつもりでおる。元より降伏させるつもりもなく、和睦で良いのじゃ。三好方が阿波から退散してくれるのであればな?
降伏せよと言えば、相手は飲まぬであろう。ましてや大雨ともなれば我らが難儀する。和睦と言う体を取り、顔を立ててやろうではないか?」

「しかし、内蔵助殿や家臣たちが弱腰と拗ねたりはしますまいか?」

「そう思うであろうが、無理に血を流すことも無かろう?
讃岐に逃れたとて、我等は淡路を制し、瀬戸内も水軍で封鎖して居る。
いずれ三好方は自落するであろう。焦って無駄死にを増やすこともあるまい。
わしはな……三好一族を滅ぼそうと思うてはおらぬ。
むしろ、配下にしたいと思うておるのじゃ」

「叔父上はそこまでお考えでしたか?」

「そうじゃ。無駄な戦をすれば恨みも増すばかり。
穏便に退いてもらい、時間をかければよい。
と申しても、それほど長くかかるとも思えぬがな」

「承知致しました。では、阿波からの退去を条件と致しまする。
恐らくはこの条件を呑みましょう」

「うむ、では頼むぞ……」

こうして、吉良親実が開城の交渉に赴いたのである。



親実は丁重に城内に迎えられた。三好方でも使者を歓迎する雰囲気である。
そして、三好方の大将、三好笑岩と十河存保と相対した。

「これは……吉良殿がお出ましは……」
笑岩はまずはそう切り出した。

「事が重大故、某が赴いた次第にござる。
我が家中も色々な意見があり往生しておりまする。
ですが、我が主はこれ以上血を流すことも無かろうと……申しておりました」

「我らは元よりそのつもり。降伏などするつもりはござらぬが……」
存保がまずは機先をを制した。

「さにあらず。我らは和睦を求めておりまする。
勝瑞城を明渡し、阿波より退いて頂けませぬか?
さすれば、城兵は総赦免のうえ、暫くは讃岐に攻め入りませぬ」

「何故、明け渡さねばならぬでござるか?
先程、和睦と申されたな?まずは兵を退いて頂くのが筋でござろう?」
お互い条件闘争の応酬である。

「某は敢えて和睦と申し上げましたが、その意を汲んでは頂けぬと?」

「吉良殿……宮内少輔殿のお考えは奈辺におありですかな?
我等は此処に籠城したとて構わぬと思うておるのだが……」
笑岩もそう追従した。

「されば申し上げる。わが殿は無用な血を流したくないのでござる。
一月もすれば長雨になり、我等が往生すると思われておられるのか?
確かにそうでござろう。
しかしそうなれば、我等は損害を顧みず打ち掛かりましょうな……
三好一族が滅びるのを望みますまい?
我等は此処に居る兵がすべてではござらぬ……」

「まあ待たれよ。誰も応じぬと言うておらぬ……
暫し談合いたす故、お待ちくだされ」
そう言って二人は退席したのだった。

しかし、すでに結論は出ていた。存保も笑岩も滅びる道は選ぶはずもなく、早々に和睦に応じたのである。お互い誓詞と人質を取り交わし、三好勢は讃岐虎丸城目指して落ち延びて言った。当面は休戦協定を結んだのである。此処において元親の阿波領有は成功を見たのだった。
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