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水色桔梗ノ末裔  作者:げきお

天下一統への道

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113話 光秀凱旋

天正十年六月十一日
伊丹有岡城は開城し、池田勝三郎恒興は降伏した。
既定路線であったとはいえ、早期の開城は光秀にとって行幸であった。
これで光秀の畿内制覇が成就した格好になる。
本能寺の変から九日間での畿内統一は日ノ本の各地に伝播した。
しかし、畿内を制覇したとはいえ、周辺は敵国でありこれからが勝負である。
西の守りは尼崎城と有岡城であり、難敵秀吉がいる以上は防備を固めなければならない。光秀は尼崎城に斎藤利三を大将に三千。有岡城に池田恒興三千の他軍監として、明智治右衛門光忠の二千を置いた。これにより摂津北部や丹波方面まで睨みが効く事になり、当面は鉄壁の守りが実現する事となった。
そして、京に向け凱旋したのである。
津田七兵衛信澄も親族衆として軍勢を引き連れ同行していた。

光秀は京の町中を凱旋行軍した。山城衆を始め、譜代旗本衆が整然と列を為し通り過ぎる。室町通りには町衆や堂上衆たちが詰めかけ、新たな武家の棟梁を歓喜で迎えたのである。朝廷も光秀が羽柴秀吉を破り、畿内統一を果たしたことにより、完全に旗色を鮮明にし、迎え入れた。
公家衆からの表敬訪問等、依頼は数多あったが、光秀は丁重に断りを入れた。
やるべきことが多すぎたからである。そして、相国寺に入り今後の方策を練る事となったのである。

「十五郎……ひとまず西国は安定するであろうが、これからじゃ。
敵対する勢力も多く、近江より東でも動きがあろう。如何様に考える?」

「まずは細川殿の動きです。恐らくは我らに与力するのではありませぬか?
姉上の事も心配です。与力して頂かねば具合が悪うございます」

「うむ。今のところ返答はないが……」

「若狭に攻め入るのも一手でござりましょう?
その機会に細川殿に与力するよう申し上げては如何でしょうか?
丁度良い踏み絵になるように思います」
俺はそう答えた。

「確かに……細川殿も自然と与力しやすいのではありますまいか?」
大蔵長安も同意した。

「殿……若狭討ち入れに異存はありませぬが、伊勢方面でも動きがござりましょう。関万鉄斎殿が伊勢での勢力拡大に動くはず。後詰の要請もござりましょう。三七殿や三介殿がいくら腑抜けておろうとも、旗頭には変わりありませぬ」
津田七兵衛が別の意見を述べた。

「若狭は丹羽殿が帰国しておらぬ以上は攻略は容易であろう?
柴田殿への備えを考えれば何としても攻略しておかねばならぬ」

「柴田殿が大挙して攻め寄せる可能性は如何ほどでしょうか?」

「国衆や一向宗の一揆が頻発しておる以上は容易に出てこれまい。
大きな兵力を動かさずとも攻略能おうな?
武田元明殿が与力しておる故、調略も容易であろう?」

「確かに……我等が武田殿を旗頭に立て進軍すれば容易かもしれませぬ。
さすれば、細川殿も靡きましょう。現状では大軍を派遣する余力はありませぬ。万一伊勢方面や美濃からの動きがあれば往生いたします」
大蔵長安が答えた。

「では、誰を以って攻略に任に充てるかじゃが……
美濃・伊勢方面での動きを考えれば、人材が見当たらぬの?」

「父上……某に少し考えがありますがお聞きくださいますか?」

「申してみよ……」

「蒲生殿の説得は能いませぬでしょうか?
畿内が平定された今となっては、考え直されませんでしょうか?
例えば、若狭切り取り次第を条件にすれば、お顔が立ちませぬか?
他にも理由があります。
蒲生殿ほどの方が我らに靡いたとあれば、細川殿始め、旧織田家中の方々も我らに味方する口実ができやすいのではないかと愚考いたします。すでに池田殿が我らに味方しておりますし……」

「うむ……説得能うか?確かに味方になれば心強いが……
一度断られておる事だしの……時勢は読める御仁なのじゃがな」

「不肖ながら某が説得を試みようかと思いますが……」

「わかった。十五郎……頼み入るぞ……」

「で、七兵衛殿には、万鉄斎殿との繋ぎをお願い致したい。
動き次第では、三七殿や三介殿が兵を挙げるやもれぬ。
今の勢いで場合によっては軍を向けようぞ」

「承知いたしました。では早速……」

こうして、一応の方針が決定した。俺は休む暇もなく源七を連れて近江坂本に戻った。城下の屋敷に、蒲生父子や前田利長等が軟禁されていたからである。





「左兵衛大夫殿……惟任日向守よりの使者として罷り越しました。
明智十五郎光慶と申します。折り入ってお話がござります」
俺は、屋敷を尋ねると早速そう切り出した。軟禁状態とは言え、それなりの待遇をしている。無論、警備の兵が配されてはいるが、生活に不自由がある訳ではなかった。

「これはこれは……お噂の神童と呼ばれるお方か?
一度語り合いたいと思うておったところ……」

「お恥ずかしゅうございます。尾ひれがついてそう言われておるに過ぎませぬ」

「日向守殿は羽柴筑前を退けられたとか……一山は超えられましたな?
わずかの間に畿内を平らげられた。見事としか言いようがござらぬ」

「はい。これで容易には負けぬ体制にはなり申した。
内裏も旗色を露わにし、我らを頼りとされましょう」

「成程……で、此度の来訪は何か思惑がおありですかな?」

「されば……お察しの事と思いますが、我らに与力して頂けませぬか?」

「先般、お断り申し上げたはずでござるが……」

「お気持ちはお察し致しまする。ですが、時世の赴く処を考えて頂けませぬか?」

「我らに何をせよと申される?何故そこまで我らの与力を求められるのか?」

「左兵衛大夫殿のお力を頼りとしておるからにござる。
まだまだ、周りは敵ばかり。少しでも信頼に値するお味方が欲しいのです。
織田家の重鎮であられた左兵衛大夫殿が与力したとなれば、今後の調略も行いやすいというもの……失礼な言い方でございますが、そう思うておりまする」

「お気持ちは有難いが……やはり旧主のご子息が健在で、日向守殿とは反対の立場に居り申す。時世の赴くところも承知の上……ですが、某にはできませぬ」

「左兵衛大夫殿はそれでよろしかろう?ですが、忠三郎殿や一族の方々は如何される?
このまま蒲生の家を歴史の墓場に埋もれたままにするおつもりか?」

「確かにおっしゃる事はわかり申す。
ですが……忠三郎も前右府殿の女婿。覚悟はできておりましょう」

「某も前右府殿の女婿になる予定でござりました。
ですが、もう上様はこの世におりませぬ。
某は我が父を助け、一刻も早く日ノ本から戦乱を無くしたいのです。
誓って悪いようには致しませぬ。何とか御助力頂けぬか?」

「されば……時間的猶予を頂けませぬか?今この場での回答は致しかねまする。
息子だけでなく、孫四郎殿とも話さねばなりませぬ」

「承知致した。ではお願い申す」

こうして俺は引き下がるしかなかった。
人の心とは、損得だけでは動かせない。蒲生賢秀のような人物もいるのだ。
俺は暫く坂本城で待機するしかなかったのだ。

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