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水色桔梗ノ末裔  作者:げきお

天下一統への道

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110話 新たな敵味方

天正十年六月十日
尼崎の戦いは、明智軍の辛勝で幕を閉じた。光秀の本陣近くまで攻め込まれるという状況まで至ったが、池田軍が撤退したことにより、羽柴秀吉も軍を退いたのである。
光秀の本陣には諸将が戦勝祝いに伺候していた。光秀は訪れた諸将に感謝と労いの言葉をかけ続けた。だが、最も緊迫した場面となったのは筒井順慶が訪れた時である。当然であるが周囲から冷ややかな眼差しが向けられたのだった。

「日向守殿……此度は羽柴筑前を成敗なされ祝着にござる。
某も些か不手際にて、申し開きのしようもござらぬ。
この上は、更なる戦場にて名誉挽回致したく……」
順慶は素直に、だが悪びれず言ってのけた。容易に秀長軍の突破を許すという失態を犯していたが、先鋒の島左近清興が殊の外活躍していたからである。

「順慶殿……今後も何かと馳走して頂きたい。本領は安堵致します故、お願い申す。つきましては、有岡城攻めにて粉骨して下され」
光秀は何も咎め立てすることなく順慶に接した。
畿内平定といっても完全ではなく、有岡城に池田勢が居る。
恒興を屈服させて、初めて完全なる畿内平定が達成されるのだ。
だが、時間の問題であろうとも予測している。後詰が期待できない以上は、恒興は玉砕するか降伏するかしか選択肢がないからだ。

そして、光秀は早速有岡城攻めの手配りをしたのだった。
当然、大掛かりな戦で疲弊していることもあり、まずは遠巻きに囲む布陣である。そして前段階として、まずは尼崎城に増援を入れたのだ。此処がやはり最前線になるからには、万一に対応する必要もある。先鋒として活躍した斉藤内蔵助利三と兵三千である。そして有岡城攻めの先陣は希望通り筒井順慶の大和衆五千を当て、総指揮は津田七兵衛信澄が執る事となった。光秀は後方から督戦する格好になる。
しかし、光秀は予測していた。それは恒興の為人を鑑みての事である。
おいそれと降伏はすまいな……まずは小規模な戦闘があるであろう……
しかし、そう過酷な戦闘にはならぬはずじゃ……
ある程度武辺さえ示し、外聞を飾ることができれば屈服するであろうことを……



夕刻、俺は父光秀に呼び出された。
「十五郎……順慶入道の件だが、如何に思うか?
取敢えずは何も咎め立てせずにおいたが……」

「某が思うには正しい判断であるかと……
現時点で表立って事を構えるのは得策とは思われませぬ。
まずは、左近殿を取り込むべきかと……」
俺はそう考えていた。

「うむ。わしもそう思う……
しかし、いずれまた裏で策謀を巡らすであろうな?
次に何かあれば、示しをつけねばなるまい。
家中の目もあるからの……そこでじゃ、左近殿に会ってくれぬか?
有岡攻めの先陣は大和衆じゃ。
左近殿に上手く立ち回ってもらいたい。
無理攻めせず、池田殿の面子を立て、開城に応じるよう仕向けたいのじゃ。
具体的には、上手く負けてもらいたいのじゃ……」

「承知いたしました。父上からの言伝という形で、某から話しましょう。
今夜にでも行って参りまする」

「うむ。頼んだぞ……」

こうして、俺は島左近清興の陣所を訪れたのである。

「左近殿……明智十五郎光慶にござります。
父光秀からの言伝があり罷り越しました。
夜分に申し訳なく思いますが、内密にお話しできませぬか?」
俺は事が重大であることを予め告げた。

「承知致した……
おいっ……陣幕の中に人を近づけるでない。良いな?」
衛兵たちが立ち去っていく。

「忝く……されば、申し上げる。
左近殿は筒井家の宿老であらせられる。
此度の順慶殿の戦振り……如何様に思われるか?」
俺は単刀直入に問いかけた。

「明智殿……某からもお詫び申し上げる。
順慶入道が意図的に懈怠したのは明らか……
某も宿老として何もできず。己を恥じるのみにて……」

「左近殿は先鋒を志願なされたとか?
如何様なお考えでござったのか?」

「正直に申しましょう……
羽柴殿から内応するよう持ちかけられ申した。
某は反対致しましたが、順慶入道と松倉右近は秀吉の誘いをこれ幸いと致しました。寝返らずとも、戦を懈怠するのみでも良いと……恐らくは黒田官兵衛の策かと思いますが、懈怠するのみで河内一国を与えられることに靡いたのでござる。
某は言いました。懈怠など見抜かれると……しかし説得能わずでした。
そして、順慶入道より先鋒も命じられたのでござる。
某が先鋒で働きさえすれば、仮に不手際があったとて、言い逃れできるであろうと考えたのでありましょう。もし命じられずとも志願するつもりでおりましたが、順慶入道の方から命じられたのは好都合でした。某はわが主ながら情けなく思いまするが、一度主と仰いだ以上は尽くすのが筋道と思うておりまする……」

「本音を語って頂き、感謝いたしまする。
ですが、再度順慶殿が策を弄された場合、如何に処されるおつもりですか?
我が父が申すには、二度目は示しをつけねばなるまいと……
家中の目もあります故……」

「御尤もにござる。某も次に何かあれば主を見限りまする。
内聞にお願い致したいが、某は付いて行けませぬ。
そのような事態にならぬよう善処するつもりでおりまするが……」

「それを聞いて安堵いたしました。
今後も左近殿を頼りに致したく……
何かとお骨折り頂きたく思いまする。
つきましては、有岡攻めの件でござる。
順慶殿は本気で攻め掛かるおつもりですか?」

「わかりませぬ。ですが、外聞を気にしておるようですので、ある程度は犠牲を厭わず打ち掛かりましょうな……詮無き事ですが……
日向守殿は戦の火種を大きくしないお考えでありましょう?」
さすがに左近は見抜いた様だった。

「ご明察、恐れ入りまする。
実はそのことでござる。池田殿の顔を立てた上で、音便に処理できぬものかと思うておりまする。いきなり開城を勧めても面目が立たねば応じますまい。かと言って、力攻めは望むところではありませぬ」

「上手く負けよと……言う事ですかな?」

「我が父は左近殿ならば上手く立ち回れるであろうと申しておりました」

「承知致した。お任せあれ……
池田殿の顔を立てれば良いのでありましょう?」

「無理難題を押し付けて、申し訳ありませぬ……
左近殿の事は決して悪いように致しませぬ。
某がお約束いたしましょう。良しなに……」

「ハッハッハッハ……十五郎殿は神童と呼ばれておったとか?
たった今わかりも申した。日向守殿もそうですが、わが主の浅知恵で張り合える相手ではない事を痛感しておりまする。何かありますれば、某に言って下され」

「有難き幸せ……勇将島左近殿と信頼関係が築けて嬉しく思いまする
今後とも頼りにさせて頂きたく……」

こうして、俺は無事に島左近清興を味方にすることが出来たのだ。
この事が今後役立つはずである。順慶入道は何か謀を巡らすのではないかと、確信めいたものがあったからだ。勿論そうならないに越したことはないが……
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