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水色桔梗ノ末裔  作者:げきお

天下一統への道

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106話 尼崎の戦い 弐

天正十年六月十日
惟任日向守光秀と羽柴筑前守秀吉の両雄は、摂津国尼崎にて激突した。
正午から始まった戦いは、一刻が経過している。
一帯は喧騒に包まれていた。多くの人間が傷つき、命を散らしている。
最も激戦となっているのは北側の戦場であった。
池田勢対津田勢である。戦力が拮抗していることもあり、また総大将の力量も互角とあって決め手を欠き、混沌としていた。

「申し上げます……中川殿が未だ戦闘に参加されませぬ。
我が殿が土橋様に善処されたしと」
信澄からの遣い番が土橋若太夫守重の陣所に駆け込んだ。

「相分かったと伝えられよ」
守重は簡潔に返答し、的確に指示を出す。
雑賀根来の遊撃軍は二手に分かれている。土橋守重率いる雑賀衆五百と、津田杉之坊照算率いる根来衆の千五百が津田勢の援護に回る予定であった。

「照算殿に伝えよ。我等雑賀衆は中川勢を突っ切って参戦いたす。
根来衆は更に進み、池田勢本隊に仕掛けられるようにな?」
守重は軍勢を更に分け、戦場を動かそうとした。

そして、すぐに根来衆が動き出した。戦場を迂回し、池田勢を側面から銃撃する意図である。同時に雑賀衆も中川勢の脇を通り抜け、池田勢の左翼部隊に側面攻撃を仕掛けた。
池田勢の左翼部隊は片桐半右衛門率いる八百である。先陣の池田元助を援護すべく、津田勢の左側面を攻撃中であった。そこに背後から雑賀衆が撃ち掛けたのである。
守重率いる雑賀衆は五百の寡兵である。だが、鉄砲が二百挺もあった。その鉄砲が一斉射撃し、猛烈な弾幕を張る。当然、片桐勢は混乱した。いや、壊乱したと言っても良い。それ程の銃撃である。そして、数度にわたる銃撃が終わると、すぐに後退した。まさに一撃離脱である。雑賀衆は騎馬も無く鉄砲衆のみの軍勢であるから、この戦法が理に適っているのだ。

その一斉射撃の轟音は、恒興の本陣にも届いた。
恒興は雑賀衆の参戦を察知したのである。そして、更に根来衆が本陣に迫りつつあるのも知らされた。

「来たか……」
恒興はこの場面を待っていたのである。

「馬引け~~っ 小細工など無用。全軍で敵正面に突っ込む」
恒興はすぐに決断した。遊軍の雑賀根来衆を釣り出した上で急進し、混戦を作り出そうとしたのだ。雑賀根来衆はほとんどが鉄砲衆であり、接近戦は不得手である。しかも混戦になれば、一斉射撃ができない。味方を撃つことになるからだ。

本陣動く……の報を得て、池田軍全軍が突撃を開始した。根来衆は迂回攻撃を仕掛けようとしたが、肩透かしであった。そして急進し背後から銃撃を加えたのである。しかし、思ったほどの効果は無かった。その後混戦模様となり、一斉射撃が不可能になったからである。

「池田勝三郎か~~中々やりおる。けど、根来を舐めてもらっては困るの~
鉄砲上手を選りすぐって、狙撃に切り替える。
侍大将や指揮官を徹底的に狙うんや。雑兵は構わんでエエ」
津田杉之坊照算は戦法を切り替えた。



津田七兵衛信澄も局面の変化を察知した。一斉射撃の轟音が響き渡ったからである。

「申し上げます。敵本隊が急進してきます。先鋒は支えきれませぬ」
注進が飛び込んできた。

「相分かった。与三郎に伝えよ……無理に受け止めず突破させよとな」
七兵衛も決断した。

「源右衛門……いよいよじゃ。敵の突撃を真正面から受け止める。
決して退いてはならぬぞ。馬引け~~っ」

こうして、池田恒興、津田七兵衛は総大将自らが混戦の中に身を置くことになったのである。
恒興の本隊と、元助の先鋒は一体となって突撃する。
与三郎が激突を避けたため、一瞬のうちに備えが破られ、信澄の本隊と肉弾戦に突入した。しかし、与三郎は唯突破を許した訳ではなかった。池田勢が通過する際に弓鉄砲を側面から射かけたのである。そして、すぐに向きを変えると、片桐半右衛門の軍勢に挑み掛かった。
片桐勢は雑賀衆の一斉射撃で甚大な損害を被っており、同じく多くの兵を失っていた与三郎の軍勢と同等の戦力になっている。お互い最後の気力を振り絞っての肉弾戦となった。




雑賀根来鉄砲衆の一斉射撃の轟音は、戦場を少し離れた両軍の本陣にも聞こえた。秀吉は戦闘が新たな局面に入ったことを察知したのである。

「官兵衛……池田勢と津田勢は一進一退じゃな?中川は動いた様子はないか?」

「はい。今のところは……しかし、膠着すれば不確定要素が増えまする。
此処は我等も仕掛けるべきかと……」

「同感じゃ。今しかあるまい。中軍と右翼に一斉に攻めかかるよう申し伝えよ。
そして、小一郎に伝えよ。筒井勢に攻めかかれとな……」

「ははっ……早速手配いたしまする」

戦場には再度、法螺貝が響き渡った。
同時に羽柴勢が一斉に動き出したのである。


左翼部隊の小一郎秀長は秀吉から命が届くと陣を前進させた。
「良いか皆の者……この戦の勝敗は、我らの働きに懸かっておる。
筒井勢は容易に突破できよう……そして、逆賊明智を成敗するのじゃ。
参るぞ~~っ」

中軍と右翼が戦闘状態に入ったのを見極めると、羽柴小一郎秀長の軍勢は筒井勢目掛けて進軍を開始した。羽柴勢の中にあって、秀長勢は精鋭である。まったく陣立てを乱すことなく、しかし神速で筒井勢に挑み掛かって行った。





「申し上げます。敵が全面攻勢に出ました」

「藤田伝五様、敵右翼と交戦中との事……」

「先陣の斎藤内蔵助様、島左近様……苦戦」

次々と注進が光秀の本陣に飛び込んできていた。

「治右衛門に伝えよ。先手を後ろ巻せよとな……」
光秀は秀吉の意図が分かっていた。そして、敢えて受けることを決めていたのだ。

「申し上げます。敵左翼が動きました。筒井勢に攻め掛かっておりまする」

順慶入道がどう出るか……突破を許すであろうな……
光秀は当然ながらそう予想した。
しかし、突破できたとて本陣まで届くまいぞ……

「本隊右翼を固めよ。鉄砲衆を待機させ、弾幕を厚くするのじゃ。源七は擲弾兵部隊を率い、突破した小一郎の部隊に攻撃するのじゃ。そして、すぐに引いて本陣の守りに回れ」
光秀はそう指示を出した。

「父上……いよいよでございますな?」
俺は武者震いを懸命に抑え、問いかけた。

「十五郎は大戦は初めてであろう?良く見ておくのじゃ」

「はい……」
俺は一言しか答えられなかった。
今戦場では、数多の命が消えている……どうしてもその意識が離れなかった。
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