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愛希はソラの名を呼びながら走り回っていた。
公園はくまなく探した。そして、ソラが消えたと思われる方向へ行き公園を出て、住宅街を走りつくした。ソラがあの男のことを話していたから、ヤツと歩いたところも探した。だけど、いなかった。暗い夜道を怖いとは思わなかった。今の愛希にとっては、ソラを失くすことが一番の恐怖だった。
結局、ベンチに戻ってきてしまった。
涙と汗で頬は濡れていた。夏の湿った風が気持ち悪い。愛希はワイシャツのボタンに手をかけた。
そのとき、指に触れた硬い感触――おそろいの、ネックレス。
「……商店街……行ってない!」
愛希は再び駆けだした。
「おばさん!」
「あらぁ愛希ちゃん、どうしたんだい? 目が真っ赤だよ」
「前にあたしと一緒にいた男の子、見かけなかった?」
「あのかっこいい子? 見ないけどねぇ」
「……ありがとう!」
ここには来ていないのだろうか。左右に視線を走らせながら、早歩き。結局、収穫なしで商店街を抜けてしまった。
愛希は足を止めた。目の前を左右に走る大通り。学校方面に伸びる車線に、めずらしく、車がずらりと並んでいた。
(こんな時間に、渋滞……?)
遠くのほうから、人のざわめきが聞こえてくる。
(事故か……)
いったんは戻ろうと足を反対に向けた愛希だったが、いったい何がひっかかるのか、誘われるようにしてざわめきを追った。カーブを曲がってすぐのところ、歩道に人だかりができていた。みんなそろって車道を眺めている。
「うわ、ひっでー」
「あの車が反対車線に飛び出したんだって」
「奇跡的に、けが人はいないらしいよ」
そんな会話の断片を聞きながら、愛希は二台の車を確認した。一台の横っ腹に、もう一台が見事に激突したようだ。幸い激突されたのは運転席と反対側で、他に乗っている人もいなかった。突っ込んだほうは車の鼻づらが少しひしゃげた程度で済んでいた。お互い、あまりスピードはでていなかったのだろう。
二台の車の運転手が道路に出てなにやら話していた。一方はかなりご立腹のようだ。
「あんた、どこ見てんだよ! 突然反対車線に出てきて、避けろっていうのかよ!」
怒っているのは若い男で、どうやら鼻づらがひしゃげた車の運転手らしい。もう一人の中年の男が、汗をだらだらかきながら何度も頭を下げている。
「すみません! すみません! と、突然、猫が飛び出してきたもので……すみません!」
(……猫?)
「ちょっと、すみません……」
人ごみをかき分け、歩き出す。
見てはいけないような気がする。反対に、見なくてはいけないような気もする。
ぱっと視界が広がった。道路を確認する。
視線が二台の車の上でとどまった。実際に事故を目の当たりにしたことは少ないからよく分からないけど、こんな状態でよくけが人がでなかったと、改めて思った。きっとすごい音がしただろう。
ふと、後ろの人の声が聞こえた。
「やだっ、あれ見て……こっち側の車線の、ほらあそこ」
なんとなく、そちらを見た。ちょうど、事故をおこした中年の男が若い男を連れて、そこに立った。その二人の足元には、小さな黒い物体が落ちていた。
瞬間、愛希の腕に鳥肌がたった。
(なに、この嫌な感じ……)
胸をぐっと押されたかのような圧迫感。息はあがり、脈は早鐘のよう。
よろよろと、それに近寄った。うしろでざわめきが大きくなった気がする。
「お、お嬢さん、どうしたんだい?」
中年の男が愛希に気付いて声をかける。男は、ふらふらと歩みよってくる愛希を不気味に思ったが、ふと、自分の足元のモノに目をやって、電撃が走ったようなショックを覚えた。
「も……もしかして……、君の……猫かい?」
中年の男がおそるおそるというふうに言った。
愛希の耳には聞こえていなかった。まわりのざわめきも、車のクラクションの音も、何もかも、聞こえていなかった。ただひとり、この喧騒の中、静寂に包まれていた。愛希は、膝を折ってかがんだ。震える手を伸ばし、そっとそれを抱きかかえる。
「あなた、あのときの……黒猫さん?」
全身真っ黒の猫。耳の後ろには切ったような古い傷痕。
「違ったんだ……あなた、あのときも……」
そして、首にかかった、血に濡れるもの。
銀のプレート、小さな赤いストーン。愛希とおそろいの――……
「……ソラああぁぁあっ!」
悲鳴がはじけた。
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