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Module19.もうひとつの再会

3500文字弱。このペースだとあと20パートくらいかも。

06/21 微修正

翌朝、俺たちは、次の目的地へ予定通り旅立った。

あまりにも疲れていたので、起きれるか心配だったが、緊張していたためか、朝早くに目が覚めた。

肉体的な疲労はまったく残っておらず、俺はこの体に感心した。

恐るべし、ナイトLV13。


次の目的地は、闇の峡谷と呼ばれる、大陸北部から東部へ伸びる山脈の狭間にある谷だった。


かつて帝国時代ここには鉱山があり、露天横穴掘りで掘り回されたのだが、鉱脈が尽きて廃れ、そこを帝国は産業廃棄物の捨て場にしていた。

そのゴミに含まれていた特殊な要素が、魔王の誕生により活性化してモンスター化、増殖して、峡谷に網の目のように張り巡らされた坑道に溢れ返った。

以来、この峡谷はモンスターの巣となっている。


その一部はさ迷い出て周辺の街や旅人を襲うこともある。

このため、周辺の街は冒険者を雇って、定期的に討伐をしている。

しかし、ここのところさ迷い出てくるモンスターは減っており、討伐もあまりされていない。


「実際は、魔王の活性化に呼応して、モンスターが活性化、強力になり、数も増えています。

 おそらくは、魔王軍の呼集に備えて力を溜めているのでしょう」


ですから、その前に、レベル上げついでに叩いておきます。

と、剣氏=大魔術師は説明した。

最奥にダークドラゴンという闇属性の竜が住んでおり、それがモンスター生産の母体となっているという。


「これをたおせば、しばらくは再生されないはずです」


ここのラスボスも倒してしばらくすると復活するのか…。


俺たちは、最寄りの街まで剣氏の魔法で飛び、そこから徒歩で、峡谷へ向かった。


/*/


道なりに進んでいくと、山のふもとの辻に、人が2人立っていた。

銀色のフルプレートアーマーを着こんだ大柄な、おそらく男性の騎士と、漆黒の皮鎧を来た、長い金髪の女性。

その女性の方がこちらを見ると、ぶんぶんと手を振った。


それへ剣氏=大魔術師が手を振り返すと、女性の顔がぱっと輝き、駆け寄ってきた。


「せんせえええええ」


もの凄い勢いで駆けてきて、女性が剣氏=大魔術師に抱きついた。

千鳥=ミスティがそれを見て、目を丸くして立ちつくしている。


「先生、先生、先生~、よくぞご無事で~」


今度は抱きついたままわんわん泣き始めた。

感情表現の激しい人だ…。


辻に取り残されていたフルプレートの騎士が、兜を脱ぎ、苦笑しながら、こちらへ歩み寄ってきた。


「おいおい、エリー、先生が困っておられるよ」

「う、うん…」


鼻をすすりあげながら、女性が剣氏=大魔術師から離れる。


「ご無事のご帰還、心からお喜び申し上げます」


騎士が、膝をついて、右腕を前に上げ、頭を垂れた礼を取り、言う。

女性も慌てて横に座ってぺこりと頭を下げた。


「先生おかえりなさい!」


剣氏=大魔術師は、苦笑していた。


「いや、そういう堅苦しいのはいいから」

「堅苦しいのが騎士ってもんですよ」


にやりと男が笑って立ち上がった。今度は、笑いながら右手を差し出す。

剣氏=大魔術師は、ぐっとその手を握った。


「おかえりなさい」

「ただいま」


爽やかな再会の傍らで、立ち上がった女性が、千鳥=ミスティに近づき、顔を覗き込んでいた。


じいいいいい。


「あ、あの…何か…」

「ほんと、面影あるわぁ…」


しげしげと見まわす女性に、千鳥=ミスティの顔が赤くなる。


「ねえ、あなた、先生とレイチェルの子供か何かだったりする?」

「は、はい~?」


俺は、吹いた。


/*/


「まず、お互いに紹介しますから」


剣氏=大魔術師は、彼女を千鳥=ミスティから引き剥がすと、紹介を始めた。


「こちら、エリス・ガーランド。

 前代の勇者のパーティのメンバで、魔剣士。

 今のレベルは…」

「72よ」


えっへん、という感じのエリスに頷く、剣氏=大魔術師。


「で、こちらが、フィリップ・ウィナー。

 同じく前代の勇者のパーティのメンバで、聖騎士。

 今のレベルは…」

「71だ」


「二人ともだいぶ上がってるね」

「まあ、あれからもう20年経ってますからね」


感慨深そうに言うフィリップに、剣氏=大魔術師はやはり頷いてみせる。


その紹介を聞いて、俺は唸った。

魔剣士に聖騎士、リミットブレイク職きやがった。


ゲーム「グラン・ロウレル」のベータリリースに初期から実装されている職業は基本4種とそれぞれの上級4種である。

基本4種が、ファイター、マジックユーザ、クレリック、シーフ。

それぞれの上級4種が、ナイト、マジシャン、ビショップ、アサシン。

これらに加えて、現在開発中のアルファ版から本格搭載予定のリミットブレイク職と呼ばれる4種の職業、勇者、賢者、聖騎士、魔剣士がある。

このうち、勇者だけは先行して、ベータリリースの最終ストーリーシナリオの最後のクエストをクリアすれば、すべての職業から転職可能になる。

その他の3つについては、順次開示されて行く予定になっていた。

はっきり言えば、ゲームではまだ開発中である。

設定的には、「人を越えた」勇者を支える存在として神に承認された職業で、初代勇者のパーティの3名がこれらの職業を賜った、とかなんとかだったと思う。


「それで、こちらは、ミスティ・バード。

 新しい勇者、今LV18です」

「よろしく」「よろしく」

「よろしくお願いします!」


笑いかけてくる2人に、かちんこちんと緊張して返事をする千鳥=ミスティ。


「それから…」


剣氏=大魔術師が俺に向き直ったので、俺も緊張した。


「こちらは、タク・ヨッシー、

 彼女の知り合いで、ナイトLV13です」

「よろしく」「よろしく」

「よろしくお願いします」


同じく笑顔を向けてくる2人に会釈する。


「それで、先生、この子はレイチェルの子供なんですか?」


エリスは忘れてなかったようだ。

興味深々で目をきらきらと輝かせるエリスに、剣氏=大魔術師が苦笑して答える。


「違います。

 彼女と似てるのはたまたまです」

「そっかー。

 先生とレイチェルの愛の逃避行の落としだね、とか超期待したんだけど」

「エリス…そのゴシップ好きなところ変わりませんね」


残念そうに肩を落とすエリスに、千鳥=ミスティがおずおずと声をかける。


「あの…レイチェルって、青いグリフォン亭のレイチェルさんのことですか?」

「あれ?あの子のこと知ってるの?」

「あ、はい、駆けだしのころにお世話に」


ゲームで。

そっかーと嬉しそうなエリス。


「そっちもレイチェルなんだけどさ。

 さっき言ってたレイチェルは、前の勇者のことなんだわ。

 先生と一緒に消えたから、手に手を取っての愛の逃避行に違いない!

 って」

「そんなこと思うのはお前だけだ。エリー」

「あたっ」


フィリップが軽くエリスの頭をはたいた。


「青いグリフォン亭のレイチェルは私たちの子供でしてね。

 前の勇者の名前をもらったんですよ」


おおう。レイチェルの親御さん!

あれ、「私たち」って…?


「あの子ねーフィルに似て生真面目で」


ああ、確かに、エリス・ガーランド、と。あれ、フィリップの姓はウィナー?


「こちらは、結婚して同姓にする風習がなくて、

 子どもは基本的に母親の姓を名乗るんです」


首を傾げる俺に、剣氏=大魔術師が補足説明してくれた。


「なるほど。

 俺も、レイチェルさんにはル・シェラでお世話になりました」


やーそっかー嬉しいなーとエリス。

で、話を戻しますが、と剣氏=大魔術師は咳払いした。


「この2名には、これからレベル上げをしてもらって、

 それぞれLV50を越えたところで、このメンバで魔王の封印へ向かいます」


それで、エリスとフィリップの2人には、パーティとしてなじむのと同時に、ミスティとタクそれぞれの指導もして欲しい。

そう、剣氏=大魔術師が言うのへ、エリスとフィリップは頷いた。


「じゃあ、あたしはミスティがよさそうね」

「ああ、私は、タクだな」


即決で担当が決まる。

よろしくな、と差し出された手を俺は、がっしりと握った。


「よろしくお願いします」


にやりと笑うフィリップと何かが通じ合う。

そこへ、ちょっと離れたところで挨拶し合っていたエリスと千鳥=ミスティとの会話が風に乗って流れてきた。


「ミスティちゃん、それで、あのタクって子とはどこまで進んでるの?」

「すすすすす、進んだりしてません!」

「えー?」


…あっちは大丈夫か?


そんなこんなでドタバタしながら、新しいパーティとなった俺たちは、改めて闇の峡谷へ歩き出したのだった。

青いグリフォン亭のレイチェル・ガーランドは16歳。

20年前の魔王戦の後、2年後にフィルとエリーは結婚、その2年後にレイチェル誕生という感じです。

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