MAGIC35-1〜サプライズエンカウント〜
あと少しで1月も終わりになる今日この頃、翼たちは高校2年3学期のビッグイベントが近づいてきていた。
そろそろ高校にも慣れてきた高校1年の生徒たちは教室や廊下で友達と世間話に花を咲かせており、高校3年の進路が決まっていない人たちは受験でいろいろと苦しんで、進路がすでに決まっている人は単位を取るためだけに何気なく授業を受けている。
そして高校2年の生徒たちは、誰もが例外なく何かを今か今かと待ち望んでいた。なにを待ち望んでいるのかというと、
「それではこれから、修学旅行のことについて最後の説明をしたいと思う」
翼のクラスの男性担任教師(35歳独身)は、そういうや否やクラスの委員長と副委員長にプリントを配布させる。
――そう。そろそろ高校2年は修学旅行があるのだ。高校生活の中でもっとも大きなイベントである。
今まで学校や塾から受けたストレスを、この修学旅行の日の間は存分に発散させることが可能なので、生徒たちはこの日の間だけ野性に戻ったようになる。
(修学旅行か……)
修学旅行がある日は担任教師から聞かされていたものの、肝心の場所は実のところいまだに聞かされていなかったりする。
2年生の間でのうわさによるとどうやら海外にいくようなのだが、あくまで根も葉もないうわさのため、本当のことは今までわかっていない。
だが先ほど担任教師が「修学旅行のことについて最後の説明をしたい」とか言っているので場所も今日明らかになることだろう、と翼は思った。
やがて委員長たちが配布しているプリントが最後の列の翼まで配られてきたので、配られてくるとすぐに見ることにする。
そこには、
(――えッ!?)
危うく声に出すところだったが、なんとか出さずに済んだ。なぜならそこには、翼が知っている国名が書かれていたからだ。
いや、知っているだけではなかった。苦くも辛くも翼はそこに実際にいったこともあった。
やがて周りの生徒たちもそのプリントに書かれている修学旅行の行く場所を見るなり、「うわさどおりだ」とか「おっしゃあぁぁッ!!」と感激の余りの叫びとかで騒がしくなる。
それを手をパンパンと叩きながら「はい、静かに〜」と教師が6時間目ともあってかやる気が朝のときより5割ほど削がれた感じの声で生徒を静かにさせる。
これですぐに静かになるのだから大したものだ。
そしてこほんと乾いた咳払いをしてから教師は口を開く。
「え〜プリントを見れば分かるように、修学旅行で行く場所はフランシアだ」
フランシア――そこは翼にとっていろいろな因縁がある国だった。だから翼は驚いたのだ。
聖五守護騎士との戦い。
ヘルセンテス事件。そしてそのとき、タブリス、レリエル、ハニエルといった天使たちと戦った。
とてもではないが良い思い出ではないものだった。今でも翼は、思い出そうとすればいくらでも鮮明に思い出すことができる辛い思い出。
だが、辛い思い出だけでもない。それというのもたくさんの人々の出会いがあったからだ。
まずは先ほどもいったアクセル、ゴルヴォック、ゲイル、ヒエイ、リンダといった聖五守護騎士との出会い。初めは厄介なまでの強敵だったが、最終的には頼れる仲間となって、そして自分たちのマスターのために自らの意思で命を絶った。
次に聖五守護騎士のマスターだった紗代との出会い。赤の他人だったが、聖五守護騎士たちとの繋がりもあって最終的には赤の他人という関係ではなくなり、今では真道家の一員となった。
そのほかにはクィーンズの国王であるガルディオスやシャルロット。ミントにトマホークだ。
ガルディオスは国王らしくない国王といった第一印象を受けるが、実のところとても国民のことを第一に考えている優しく国王としての人格がある人で、シャルロットはそんなガルディオスの側近であり、また親友でもある。
ミントの使い魔であるトマホークは常にマスターであるミントをとても慕っており、そのミントを傷つけるようなものたちには容赦がなかったし、実際翼も初めのうちはトマホークの“ミントを傷つけるようなもの”のうちに入っていたのだが、最終的には和解して頼れる翼たちの仲間のひとりとなった。
そしてミント。
初めは会うたびに衝突し翼たちにとってこれ以上にないほどの難敵だったが、何度も何度も衝突していくうちに最終的に和解することができた。和解してからは翼たちの頼もしい仲間となってくれたりして翼的にはけっこううれしかったりしている。
――といった感じだ。
フランシアへいくことについて翼は嫌なことをいつも以上に思い出すかもしれないと思いながらも、実のところまたみんなに会えないかなぁといった感じの願望もあったりして結局のところ行きたいのか行きたくないのかといわれると五分五分だ。
「――といった感じになる。……と」
先ほどまで教師は延々と修学旅行についての説明をし続けてちょうど今さっき終わったようだった。そして終わったと同時に授業終了のチャイムもなったので、今日の授業はこれにて終了となる。
ちなみにいっておくと教師がやる気が5割削がれていながらも熱心に修学旅行の説明をしていた間、翼はフランシア(正しくはクィーンズ)で起きていたことをいろいろと考えていたためまったく頭の中に入っていない。
そのことに関しては後で友達である葉や凛子に下校中に教えてもらえばいいことだと翼は割り切って、下校の用意をし始めた。
理由はもちろん、早く教えてもらうためだ。
* * *
現実というものは厳しい……。――そう切に翼は感じた。
かばんに持ち物をすべて入れ込み、さぁ葉と凛子と一緒に下校だぁーッ!と考えていた翼に突如として災厄が降り注いできた。
「はぁ―――――はっはっはっはっはっ!!翼よッ!!緊急の用があるので即行でおれについて来いッ!!」
災厄の原因は天真である。
授業が終わってさて帰ろうかというときにつむじ風のごとく即行で翼のクラスまでやってきて、そして有無を言わさず翼の腕をつかんで何処へと翼は強制移動させられる。それを人は拉致と呼ぶかもしれない。ちなみに葉と凛子はあまりに突然すぎるサプライズエンカウントだったので動くことができず、ただただ翼が拉致されていくのを呆然と見ていることしかできなかった。
そして翼が連れてこられたのはどことも知れない廃校舎だった。そしてそこにはすでに翼より先に拉致されていたのであろう緋睡と紗代がそこにいた。
翼がそこまで連れて来られたときにはすでに空は茜色に染まっており「アホー、アホー」とも聞きようによっては聞こえるカラスの鳴き声が翼たちがいる廃校舎付近に響き渡った。――ということは翼がここまで来るのに約1時間ほどかかったので、この2人はそれよりもずっと前にはすでにここにいたということになる。授業を放っておいて。
だが、そのことについて翼は言及する気にはならなかった。
なにせこの先輩のことだ。自分や緋睡については先生の弱みに付け込んで「授業に出なくても単位が取れるようにしろ」とか言ったのだろう。
そして紗代の通っている中学校の先生にも同様のことをしたに違いない、と勝手に翼はそう考えた。前回のフランシアに行くときのこともあるからだ。
この翼たちが今いる廃校舎は、魔来町の隣町である“古新町”の住宅地から北に進んだところにあるものである。
10年ほど前からすでに廃校舎となっているこの建物は木造建築だということが見た目でも分かる。そして10年のときの間にいろいろとあったのであろう、1階の窓ガラスが片っ端からすべて叩き割られており、校舎の中に入るための扉という扉には施錠がされていた。
ちなみにこの校舎の大きさはパッと見た感じ、翼たちの通っている学校の大きさと変わらない。とても大きくもなければとても小さいわけでもない。
「……んで、先輩。この廃校舎でなにする気なんですか?」
来て早々、ためしに訊いてみる翼。
このような人気のない廃校舎の前にまで連れて来られたのだ。「何もない」なんてふざけた回答が返ってくるのなら、翼は緋睡と紗代と一緒にこの先輩を袋叩きにする気満々だ。
「ふふふ……。わからないか?我が親愛なる後輩よ」
わからないから訊いているのがわからないのだろうかこの先輩は。
無言で表情だけで翼はその言葉を天真にぶつける。――が、天真にはどうやら伝わらなかったらしい。焦らすように天真は言葉を続ける。
「そろそろ夜中になろうとしていて、しかも廃校舎まで来ているのだ。何をやろうとしているのかわからないのか?」
「…………まさか」
嫌な予感がしてきた。
夜中で廃校舎……。定番といえば定番のものが翼の頭の中でよぎる。
「そう、そのまさかだッ!幽霊探しをするぞッ!!」
やっぱり……。翼は天真の言葉を聞くや否や頭をやれやれとばかりに押さえる。
「……なんでいきなり幽霊探しをする気になったんですか?」
「気分だ」
天真らしい答えだった。翼たちはそれで納得するしかない。そもそも、今に始まったことではなかった。
「夜12時までここで待機するぞ。暇ならばこの辺にコンビニがあるからそこで立ち読みでもしているがよい。ただし家に帰ったときはおまえたちの身体におれがひそかに埋め込んだGPS型爆弾を爆発させるからな。心しておくがよい」
どうやら翼たちには拒否権というものは存在しないらしい。
翼たちは天真の満足スマイルを憎らしく見ながら頷くしか選択肢はなかった。 |