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魔術師/BATTLE OF NIGHT
作:なかたく



MAGIC33-1〜少年の騒がしい朝〜


聖五守護騎士との戦い、ヘルセンテス事件が過ぎてから2ヶ月が経過し、年を越し1月となり、季節は冬。
ここは魔来町。町には雪が降っており一面銀世界となりつつあった。
そしてここの町にある、とある大きな和式の屋敷に彼はいる。
その彼は自室のベッドで布団にうずくまって眠っていた。時刻は午前9時。今日は土曜日のため学校はないので、こうしてのんびりと眠っていられるのだ。
そしてベッドの隣の床には布団が敷かれており、その布団の中は空っぽだった。どうやら誰か寝ていたようだが、ベッドで眠っている少年より早起きをして少年の部屋から出たのだろう。

「兄上、お目覚めですか」

ガラガラと引き戸を開けて現れたのは、巫女服を着た少女だった。
少女はどこか冷めたようなツンとした目付き、腰までとどく髪を細いリボンでまとめて縛っていた。
巫女服を着た少女は寝ている少年の返事など初めから期待していなかったのだろう。引き戸を開けるや否や少年の自室に勝手に入っていく。
そして少年の寝顔の前までやってくると懐から「泥水」と達筆な筆字で書かれた札を取り出すと、それを少年の顔面の上までもっていき、

「――泥水よ。ふ――」
「おっとぉッ!!」

瞬間、少年は飛び起きた。

「……兄上。起きていたのですか?」
「いや。さっきのさっきまでずっと寝ていたんだけど……何か殺気のようなものを感じて、それで起きたのさ」
「……惜しかったですね」
「へ?なにが?……ていうか緋睡、後ろに隠しているものはなに?」
「別に、なんでもありません」

あくまで平然と答える巫女服を着た少女――緋睡。
その緋睡の後ろに隠した手に握られているものは、さきほど使用しようとしていた「泥水」と書かれた札が一枚あった。

「兄上。あまりにぐうたらな生活をしていますとそのうちナマケモノになってしまいますよ」
「ああ、それはそれでいいかもね。絶滅危惧種に指定されているからさぞかしビップなあつかいをしてもらえそうだし」
「……そうですか」

もともとツンと冷めた目付きがなおさらになり、そして殺気立ってきたので少年は少しビクつきながら「す、すいませんでした」と、実の妹に向かって敬語口調で謝る。
そんな情けない兄の様子を見て緋睡は怒る気も失せたのか、その代わりとして1つわざとらしいほどの大きなため息をして言う。

「とにかく兄上。そろそろ起きてください。もう起きていないのは兄上だけですよ」
「僕だけってことは……紗代も起きているのか」
「当たり前です。紗代は少なくとも兄上よりはずっとできた人ですからね」

容赦というものがない緋睡の言葉。いつものことだと少年はわかっていてもやはり慣れないものなので苛立ちを感じる。
瞬間少年は、ゆらりと幽鬼のようにベッドから起き上がり、立ち上がる。そして妹をじろりと睨みつけ、緋睡はそれに対抗して睨み返す。
嵐の前の静けさ……。

「……」

呆然とばかりに突っ立っていた少年が拳の振り上げなど一切なしに緋睡の腹部に痛烈な一撃を見舞いしようとする。――だが、それは不発に終わり、緋睡はその攻撃をまるでよんでいたかのようにかわし、そして自分に向かってきた拳を掴んで攻撃を止めると、流れるような動作で兄を背負い投げで木製の壁まで投げ飛ばした。
そのせいで壁に穴が開くのではないかと思われるほどの大きな激突音とともに少年は倒立を失敗したような格好となってしまった。
その大きな音のせいだろう。少年の部屋までドタドタとけっこうな足音を出しながらやってくる人物が1人。

「なんやなんやぁ!?今さっきごっつい音が聞こえたんやけど」

白磁のような白い肌。茶色がかった黒髪。年齢は15歳。
2ヶ月ほど前から、真道家にやってきた少女だった。
そしてその少女が少年の部屋に入るなり初めに見た光景は、妹が兄を投げ飛ばした後の惨状だった。

「……なんや、これ」

一部始終を見ていない人がまず発する言葉はこれだろう。少女はついそんな言葉をほとんど無自覚のうちに口から発した。

「何でもありませんよ、紗代。兄上があまりにも激しい人でしたからね」
「激しい人って……」

ちらりと逆さまになっている少年を見る少女――紗代。
途端、紗代は数歩少年から退く。

「う、嘘や…。翼君って、そんな趣味があったんや…。実の妹に手を出すなんて…」
「いやいやいやちょっと待ってッ!紗代ッ、君の考えていることは誤解だッ!緋睡ッ!おまえも弁護を手伝ってくれよッ!」
「事実ですから仕方がありません。兄上がいきなり……」

実にわざとらしくよよよ…とばかりに袖で自分の顔を隠すようにして緋睡はその場を退散した。最近さらにおちょくるのに拍車がかかっているのは気のせいだろうかと、少年――翼は思わずにはいられない。
その原因たる人物は今この場にはいないが自分の先輩のせいだろうと推測する。そしてその推測は外れている可能性のほうが低いだろう。

「…さて、しっかりと説明してくれへんか?翼君」

語尾に近づくほど声のト―ンが低くなる紗代。どうやら答えなければ痛い目を見てもらおうやないかという意思の現れのようだ。
翼はとりあえず事のなりゆきを紗代に説明した。
信じてもらえるかは別として……。


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