MAGIC31〜永久の別れ〜
タブリスを斃したあと、翼たちは後から追ってきた天真たちと合流し、そのまま先にある大扉まで向かうことにする。
翼はとくにタブリスのことをあまり気にしていない様子だった。もちろん、全く気にしていないといえば嘘になるだろうが、おそらく翼はタブリスが最期に言った台詞を実行しているのだろう。
「笑って欲しい。そして、キミはキミ自身を褒めてやって欲しい。そして、仲間を……困らせないで欲しい」――そんなタブリスの言葉を。
笑うのは今は無理な話だ。何もまだ片付いていないから。
自分自身を褒めることも今はまだ無理な話だ。何もまだ片付いていないから。
だけど、仲間を困らせないで欲しい。これは今からでもできることだった。
だから翼はそれを現に実行している。少なくとも、自分が落ち込んでいる姿を仲間に見せるわけにはいかないからだ。
やがて翼たちは大扉の前までたどり着く。そして今回の騒動をすべて終わらせるために翼は大扉を開いた。
「……これが制御装置か」
翼は部屋の中を見渡す。
たくさんのモニタ―、キ―ボ―ドやイスが壁際に扇状に広がっており、そして部屋の中心には直径2メ―トルほどの大きな水晶玉――ソ―サリ―・クリスタルが床から1メ―トルほどの高さで浮いており、水晶玉はその場でぐるぐると不規則に回転運動をしている。
ただそれは、外にあったものと比べるとだいぶ小さいほうだろう。外のものは直径が10メ―トル…もしくはそれ以上あるからだ。
「ここについているものがヘルセンテスの施設を全部制御している核となっているものだろうな」
ソ―サリ―・クリスタルの不規則な回転運動を見ながらアクセルは言った。
「でも、もし間違っていたら?」
「心配ない。これほどの大きさのソ―サリ―・クリスタルだ。間違っていたとしても破壊すればヘルセンテスは確実に消滅する」
翼の不安な疑問はどうやら無意味なもののようだ。
そんなとき、紗代がアクセルに訊く。
「アクセル。どうやってその水晶破壊するん?」
紗代のそんな質問を聞き、翼とミントはピクリと気まずそうに眉を動かす。
なぜなら2人は知っているからだ。これから聖五守護騎士がやろうとしていることを。
「なぁ。アクセル」
先ほどからアクセルに訊こうとする紗代。
訊かれている本人は辛いことこの上ないだろう。訊かれてからのアクセルは紗代から視線をはずしている。
それはどうやら聖五守護騎士全員らしく、極力紗代との視線を合わそうとしない。
やがてアクセルは、紗代に答える。
「容量が限界を超えるまで外部から魔力をソ―サリ―・クリスタルの中に照射し、爆発させます」
「爆発って……魔力を照射する人たちはどうなるんや」
「……」
アクセルは無言で首を横に振る。紗代はその意味をすぐに理解する。
「そんな……。そんなこと誰がするん?」
「わたしたち聖五守護騎士です」
「――!?」
紗代はその言葉を聞くや否や聖五守護騎士の面々を見渡す。
誰もが気まずそうに…している様子はどうやらない。やる気満々の表情を誰もがしていた。紗代を少しでも困らせないためであろう。
だが紗代は、
「そんなん嫌やッ!!せっかくここまでやったのに最後の最後でみんなと別れるなんてッ!!」
心から叫ぶ。
翼とミントも紗代と同じ気持ちだ。だが、もうそれはすでに叶わない望みだということは知っている。
天真や緋睡やトマホ―クやプリムラもさっきまで全く聞かされなかったのだが、それを悟ったらしくただ辛そうに眉をひそませ、顔をそむけていた。
「聞きわけを。我らがマスタ―」
「嫌やッ!!」
「駄々をこねていると、仲間に愛想をつかれますよ」
「そんなんいうたかて……なんで……どうして……」
「わたしたちは、マスタ―に幸福になってほしいのです」
「だったら――ッ!」
「そのためには、これからの未来を閉ざさせるわけにはいかないのです。ここで止めなければ、みんな死んでしまうのですから」
涙を流し、ただただむせび泣く紗代。翼たちは何もかける言葉が見つからない。仮に見つけたとしても、今の翼たちは紗代に言葉をかけないだろう。
これは聖五守護騎士たちと紗代だけで、話をつけるべきだから。
「それにマスタ―。今のあなたは、1人ではありません」
「え…?」
「今のあなたには、わたしたち以外にも支えてくれる仲間がすぐそばにいるではありませんか」
そう言いながらアクセルは翼やミント、天真や緋睡やトマホ―クやプリムラを順番に見渡す。
紗代もそれにつられるようにアクセルが見渡した面々の顔を見る。
辛そうにそむけていた顔は、いまではどこか勇ましいほどの優しさに満ち溢れた表情に変わっていた。
言葉にしなくとも「そのとおりだ」とわかるような表情だった。
「ですからマスタ―。これからは翼たちと、幸せになって欲しいと思っております」
最後に優しそうに口元を微笑ませながら、聖五守護騎士の長としてアクセルはマスタ―の紗代に言うと、紗代は少しうつむいた後、こう言う。
「……ウチ、アクセルたちが家に居てくれた間、すっごく楽しかった」
「これからもですよ。これからは、わたしたちではなく翼たちが」
「うん。……今までありがとうな」
「…はい」
そんなアクセルの返事を最後に聞くと、翼たちは聖五守護騎士たちに一礼して紗代とともにその場を離れる。その姿を見送る聖五守護騎士たち。
やがて姿が見えなくなると、アクセルは呟く。
「世に幸あれ。マスタ―に多幸あれ」
* * *
あれから翼たちは急いでヘルセンテスから脱出することにした。残り時間がもう1時間を切っていたためだ。
そのため聖五守護騎士たちは翼たちがその場から離れて30分後にはすでにヘルセンテスの破壊を開始しており、その影響がヘルセンテス内で出始めていた。
ヘルセンテス全体が揺れ始め、亀裂が入り、先へ進みにくいことこの上ないので、脱出に時間がかかると思われていたが、もと来た道をたどるだけだったので思った以上に順調に戻れることができた。
だが、もとの場所に戻ってきたときにはすでに50分ほどになっており、いつヘルセンテスが消滅してもおかしくないのは確かだ。
「翼ッ!ミントッ!紗代ッ!早く乗れッ!!」
天真がもとの場所にあったシャトルに乗って、あとから遅れてくる3人を急かす。
息を切らしてその3人がシャトル内に入ると天真は来たときと同じように操縦席へ。それを咎めるものは急いでいることもあっていなかった。
やがてシャトルはヘルセンテスからなるべく遠くへ離れようとする。操縦の程は来たときとはだいぶ違い、まるでプロの操縦士のようなテクニックだった。
ヘルセンテスから落ちてくる瓦礫をアクロバティックな動きでことごとく避けるシャトル。どうやらこの操縦から考えるにきたときにむちゃくちゃな動きをしていたのはわざとのようだ。
「あッ!見てッ!!」
ヘルセンテスの下方からは少なくとも離れることができたシャトルの中で、トマホ―クが窓から見えるヘルセンテスを指差すので他の者も見てみる。
すると、ヘルセンテス全体に真っ二つになるかと思われるほどの巨大な亀裂が入り、そこから光が漏れているのがわかる。もう少しで日が昇るが、まだ真っ暗だったのでなおさらだ。
さらに真下についていたソ―サリ―・クリスタルも眩いばかりの光を放ち始め、そして――
「うわぁッッ!!!!!」
太陽の放つ光ほどの光を一瞬放ち、鼓膜が破れんばかりの轟音が響き渡る。――爆発したのだ。
その後、爆風でシャトルが空中で大きくとばされ、クィ―ンズの街の窓ガラスや屋根が1部吹き飛ぶ。湖近くにヘルセンテスが浮いていたので木々は湖に近いものほどへし折られ、中には根こそぎぶっ飛ばされたものもある。
やがて爆風も治まったので、天真はシャトルを湖の岸辺に着陸させる。
翼たちがシャトルから下りて、ヘルセンテスが浮いていた上空を見上げる。
「……勝ったんだ、僕たち」
「そうだね」
翼の言葉に、ミントは頷く。他の者たちも同様に頷く。
「あッ、みんなあれッ!」
紗代が湖の彼方を指差す。するとそこには、太陽の日が昇り始めていた。
闇におおわれていた世界は徐々に、日が昇ることによって光に満ちてくる。
「気持ちいいな」
その中で1人翼は、そう呟いた。 |