MAGIC2-5〜夜の街へ〜
「疲れたぁ〜、とにかく疲れたぁ〜」
「兄上はあの程度が限界なのですか」
「おまえはずっと精神統一だったからそんなこと言えるのさ。僕は空気イスの後、この嫌に広い我が家の敷地内をぐるりと十周全力疾走で駆け抜けたんだぞ」
翼はゼェハァと肩で息を吸いながら緋睡に言う。
時刻はすでに夕方。昼食を食べた後、再び翼と緋睡は稽古をしていた。………のだが、昼からの稽古が半端ではない。
緋睡は基本的に座禅を組んでの精神統一、に加えて弓で矢を射ることをしていた。
ただ矢を放つのではない。魔力を矢の先端部分に込め、威力を普通に矢を射るより格段に上げたのもだ。その威力としては、大型トラックくらいをぶっ飛ばし、貫通させるくらいだ。 いや、緋睡がさらに本気を出せばこんなものじゃすまない。
下手をすれば一軒家をプラスチック爆弾でぶっ飛ばすくらいの威力は出せるはずだ。とは言え、ここは我が家の敷地内。そんな高威力の矢を放った日には警察沙汰になること間違いなし、森と化しているところの一部には自然破壊の惨状が残ること間違いなしである。
そのため緋睡も、あえて威力を弱めていたのだがそれでも攻撃の対象としていたわら人形をはりつけていた木がぶっ飛ぶくらいの威力だったので、十発満たないうちに矢を射るのをやめて、その後はいつものごとく気と魔力を高めるべく精神統一である。
一方翼はというと、お世辞にも魔術師がやるような稽古内容ではなかった。
翼が言ったとおり、敷地内を全力疾走で十周。東京ディ○ニ―ランドで言うならば五周まわったことになる。
翼がしていた稽古は、もはや剣士や格闘家と言った接近戦を主流とする人たちのものである。
……いや。よくよく考えてみれば翼にとってはむしろこっちの稽古のほうがいいのかもしれない。
なにせ翼は魔術師としてはまだまだ未熟。その代わり、接近戦は得意だからだ。もっとも、魔術師としての道はかなり厳しいものになるのだが……。
「兄上。お疲れのようですが、夜は――」
「わかってるって、緋睡。『ソ―サリ―・クリスタル』集めでしょ?」
「わかっているなら結構です」
淡々と述べる緋睡。感情の起伏が元々緋睡にはほとんどない。
その上常に冷めた目をしているので、いかにも『けんか売ってます。』みたいな感じに見える。
「とにかく晩ご飯だよ。今まで以上にお腹が減ったぁ〜」
「兄上。腹は常に八分目までですよ」
なんだか緋睡。世話焼きというか、翼の生活習慣を束縛している存在である。
翼が軽くため息をついたときにはうでに家族の集まりの場である居間に到着していた。
* * *
翼にとっては今日一日で久しぶりにゆったりとできる時間帯だ。
朝は緋睡に強引に起こされ、朝食など朝の支度を済ませた後から晩ご飯を食べる今現在までずっと稽古。翼自身、稽古を望んでいたのだがここまえハ―ドになるとは正直思っていなかった。
そのため、ご飯を掻きこむスピ―ドがいつもの三倍は早い。
途中「もう少しゆっくりと召し上がってください、兄上。」と言う緋睡の声が聞こえた気もするが、翼はそれを完全無視。潤滑油を蓄えるため、翼はいつもの倍の量のご飯を食べた。
やがて翼はもちろんのこと、家族が一通り晩ご飯を食べ終わると雅がこう言った。
「そう言えばツバサちゃん。今日はどの辺りで『ソ―サリ―・クリスタル』を探すつもりなの〜?」
「今日は『魔来市民公園』辺りで探そうと思ってるんだ。この前も行ったんだけど途中で一般人が来てうまく調べられなかったからね」
「兄上、今度は邪魔をされないように早めに行ってはいかがですか?」
「え?…あ〜……」
たしかに緋睡の言うとおりだ。時刻を見れば午後八時過ぎ。普段は午後十時頃から十二時、もしくはそれ以上の時間をかけているのだが、それにしても今から行くのは早すぎる気もした。
あまり早く行っても少し人がいるので、調べにくい。だから、ちょうど人気がなくなる十時くらいから『ソ―サリ―・クリスタル』探しをしているのだ。
基本的に『ソ―サリ―・クリスタル』探しは翼と緋睡の二人。雅と清哉はと言うと、「私たち、もう歳だから………。」とかなんとか言って手伝おうとしない。――とはいっても雅と清哉はそれぞれ三十六歳と三十九歳。手伝おうとしたら手伝えるまずなのだが、ようは面倒臭いのであろう。ちなみに翼と緋睡はそれぞれ十六歳と十五歳。高二と高一である。
……こうして見ると雅と清哉。わりと早い段階で出会ったのだなぁと思う。
話が脱線しかかったが、はっきり言うと翼は緋睡の意見には賛成だが、行きたくはなかった。
理由は簡単。面倒臭いから。
「翼くん。楽をしたいと思うのでしたら、やるべきことを早く終わらせたらどうですか?」
清哉の意見はもっともだと翼は思う。
「……わかったよ。とっとと終わらせに行こう、緋睡」
「わかりました」
――早いところ終わらせよう。
そう思って、翼は緋睡を引き連れて夜の街に行くのだった。 |