MAGIC11-2〜頼み事、そして目的〜
「実は、クィ―ンズを存在させるためのソ―サリ―・クリスタルが盗まれたのです」
「クィ―ンズを存在させる?」
「はい。実はこのクィ―ンズはとある空間結界を応用して別空間に創られている国なのです」
「……シャルロット、と言いましたね。その空間結界とは、わたくしたちが先ほど戦っていた際に、トマホ―クが使用していたものですか?」
そう緋睡が質問すると、シャルロットは正解だったようで「はい」と答える。
翼が「すごいね、緋睡」と目で緋睡にそう言うが、緋睡はと言うと「この程度のこともわからぬのですか。これですから兄上は素質があっても半人前の魔術師なのです」と一言二言も多い返事を目で語り、送り返す。
素直に褒め言葉を頂いていればいいものを……。
おかげで翼は額に太目の血管を浮かばせて、両の拳を強く握り締める。
「――ん?どうした、翼よ」
「……なんでもありません」
ガルディオスに気づかれ、翼はひとまず怒りを胸の内にしまう。――が、行動は抑え切れていないらしく、緋睡を睨みつける翼だが、緋睡のほうはそれを冷めたツンとした視線で返す。 兄と妹の間で火花散る。
翼の傍にいるプリムラはその翼と緋睡の様子を見て、やれやれとばかりのしぐさをする。
「翼さん。話を続けてよろしいですか?」
「……はい」
どうやらガルディオスだけでなく、シャルロットにも気づかれたらしく、今度こそ翼は一度自分を落ち着かせてそう返事をする。
ガルディオスとシャルロットの二人に気づかれたと言うことは、おそらくそのガルディオスの傍らにいるミントや、カ―ペットを跨いだ先にいるトマホ―クも気づいているだろう。
その証拠にトマホ―クは、「仲間割れとは、愉快だねぇ」と言わんばかりの表情をしている。
ミントは国王の隣という事もあって、特にリアクションなし。
シャルロットはそんな翼の返事を聞き、再び話をもとに戻す。
「通常、並の空間結界では国一つを別空間へ存在させることは不可能なのですが、ソ―サリ―・クリスタルの魔力増幅器としての力を使って、その空間結界の効力を爆発的に高めているため、それを可能にしているのです」
「……でもさっき、ソ―サリ―・クリスタルが盗まれたって言ってたけど、それじゃあ今はどうやってクィ―ンズを存在させているんですか?」
翼がそう質問すると、シャルロットではなく今度はガルディオスがこう答える。
「それはこのクィ―ンズの住民が持っていたソ―サリ―・クリスタルを臨時に集めて使用しているからだ。まぁ、ある一定のソ―サリ―・クリスタルを探し集めることができれば持ち主に全部返すつもりなんだが……」
「なかなか見つからない、というわけですか?」
翼のその言葉にガルディオスはコクリと頷く。
そして、ガルディオスの話はまだ続く。
「だが、それだけではやはり足りなくてな。オレの兵士たちも空間結界を張るのに一役かってもらっているんだ。――だが、人が結界を張り続けるには限界があるだろ?それでバタバタと兵士の数が減っちまって……そのせいでオレのもとにいる兵士たちはこの部屋にいるやつらと門番をしている数人だけだ。その場しのぎの対策じゃあ、やっぱり限界があるってわけだ。ミントが集めてきてくれたソ―サリ―・クリスタルを足したとしても、兵士が減る早さが少し遅くなる程度にしかならんだろう。このまま放っておいたら、クィ―ンズは消滅する」
たしかに今は兵士たちが身を削ることでクィ―ンズが存在しているが、兵士の数には限りがある上、犠牲者を下手に増やすわけにはいかないだろう。
そんなとき、翼は質問を一つしてみる。
「……それで、盗んだ人たちはわかっているんですか?」
その翼の質問を聞くと、シャルロットは少し困った表情になる。
いや、シャルロットだけでなくガルディオスも。トマホ―クとミントたちもわずかに表情を曇らせた。
シャルロットは重くなっている口を開く。
「実は……ほとんどわかってないんですよ。人数はだいたい五人ほどだと言うことくらいしか。やつらの本拠地や、リ―ダ―もわかってないんですよ」
「そいつは……正直きついな」
シャルロットのそんな言葉を聞いて、天真はボソリとそんなことを小声で呟く。
応接間にいる人全員、口に出したくはないが天真の言うとおりだった。
わかっているのは敵のおおよその数のみ。本拠地もリ―ダ―もわかっていないのだから。
「それで僕たちに頼みたいこととは何なのですか?」
翼自身……いや、おそらく緋睡もプリムラも天真も「頼みたいこと」の内容はわかっているのだが、念のため聞いてみる。
「おまえたちに頼みたいのは、盗まれたソ―サリ―・クリスタルを探すのを手伝って欲しいんだよ。他国の……その上無関係のおまえたちにこんなことを頼むのはおこがましいとは思っているのだが、オレの兵士たちはすでに数えるほどしかいない上、なんと言ってもオレの国の存亡にかかっているんだ。この国がなくなっちまったら、この国に住んでいる多くの魔術師たちが行き場を無くすことにもなっちまう。だから…………」
「…………」
* * *
『返事は三日後聞かせてもらう。それまで仲間たちと相談しておいてくれ』
それがガルディオス王が翼たちが応接間を出ようとする際に言った言葉である。
ちなみに翼はガルディオスが用意してくれた個室にいる。用意された個室は全部で四つ、つまり一人につき一部屋というわけである。
部屋の大きさは人一人住むには十分な広さで、その部屋の中には座っただけで沈み込むふかふかのベッドやクロ―ゼット、そして小さな机があり、その机の上には薔薇が入った花瓶が一つ。そして、ベランダがあった。
(――僕は、どうしたらいいんだろう……)
そんなことを翼はベランダに出て思っていた。
時刻は二時半。ベランダからはクィ―ンズの景色が一望でき、その景色は翼が魔来町では見ることができないものだった。
パッと見た感じ、どうやら家の建築様式はフランシアと全くと言ってよいほど同じのようだ。
その家々から明かりが漏れている様子はなく、ベランダから見た翼でも静かになっていることがわかるほどだ。
少なくとも魔来町は、このクィ―ンズのように夜になっても眠ることはない。ネオン街では人が行き来し、若者たちはその中を放浪する。
なので、翼は少しこの景色が珍しいと思っていた。まぁ、翼がベランダに出た理由のひとつがそれなのだが。
夜風にあたって、
少しでも気を落ち着かせようとするために……。
少しでも気持ちの整理をするために……。
けど、翼はわからずにいた。国王の頼みを受けるか否か。
翼自身、自身がないことがその理由の一つだ。半人前魔術師である自分が、国一つの存亡にかかることを引き受けることができるのか。それが心配だったのだ。
無責任に国王に「引き受けます」と言ったところで、それはむしろ事態を悪化させるあろう真意ある返答をしなければならないのだから。
そんなとき、扉がノックされる。
「……入っていいよ」
大方、緋睡かプリムラか天真だろうと思って翼は適当にそう言ってノックした人物を部屋に入れる。
「…………」
翼の背後で、扉が閉まる音がする。
ノックした人物が入ってきていたのは翼は気配でわかっていたが、振り向こうとはしない。
そして部屋に入ってきたその人物は、何も話さず沈黙する。
「…………何の用?緋睡かプリムラか先輩」
その言葉を聞くと、その入ってきた人物はなぜかため息一つ。
そして、
「本来なら、あんたをベランダから突き落としてやるところなんだけどねぇ」
「えッ!?」
翼は驚いて振り返ると、そこには緋睡でもプリムラでも天真でもなかった。
長い朱色の髪、そしてその髪の色と同じ瞳の色をした女性――トマホ―クがそこにはいた。
翼はトマホ―クを見るや否や眉をつり上げ、目付きを鋭くさせる。
「……偽善者で悪魔の僕に何の用だい?」
「出会って早々怒っているのねぇ〜」
「それはあなたも人のことを言えないよ。僕たちがフランシアに来て間もなく戦闘を挑んできたんだからさ」
「しかたないでしょ、あれは。あんたに仕返しをしようとしたんだからさ。個人的な要件とは言え、ミントを傷つけられたことは許せなかったからね」
トマホ―クはそう言いながら翼がいるベランダまで上がってくる。
おそらく、魔来町で最後に戦ったときのことを言っているのであろう。
「だけどあれは……不可抗力じゃないかッ!」
「うっさいわねッ!あたしたちには王様がおっしゃってたけどあんな感じに事情があったのよッ!!」
「だったらその事情を話してくれたらよかったんじゃないかッ!!」
「…………」
すると、トマホ―クは少しばかり黙ってしまう。
そしてしばらくすると、
「……あの時話していたとして、あんたは心の底から信じれるかい?」
「……それは……」
「国ひとつが消えそうだからソ―サリ―・クリスタルを取らせてくれって言って、あんたは信じることができると思うかい?」
「…………」
その答えはおそらく「NO」だろう。
いきなりそんなことを言われても実感というものがないんだから。
そんなのは「宇宙人がこの惑星を侵略しています」と言っているのと良い勝負である。
「だから、あの時言えなかったのさ。言っても信じないからね。誰も」
「…………」
「それで、あんたはどうするんだい?」
「へ?」
不意にそんなことを言われて、翼は一瞬思考が止まる。
「あんたは王様の頼みを引き受けるのかってきいてるのさ」
「……まだ、決めてない」
そんな翼の言葉を聞いて、「そう…」とだけトマホ―クは呟く。
しばらく沈黙が続く。その沈黙の一秒一秒が、翼には一分ほどに感じられた。
「……あのさ。本当に今回の件にはあんたたちの力が必要なんだよ」
沈黙を破るのは、トマホ―クのそんな言葉。
「本当にやばいんだ、この国はさ。王様ははっきりと言わなかったんだけど、このままじゃあ長くて3ヶ月しかもたないんだよ」
「…………」
「だから……頼むよ」
頼まれるということは頼りにされているので、翼自身悪い気はしていない。
だが、それだけの実力が自分にはあるのか、翼には自信がないのだ。
頼りにされている以上、それに答えないといけない……。
「……そうだよね。あんたには、あんたなりの人生があって、その中にあんたなりの目的があるんだから、その中にあたしたちの頼みを下手に入れるわけにはいかないよね……」
「目的、か……」
なにかを諦めたようにトマホ―クは翼にそう言うが、その表情は少しばかり暗かった。
そんなとき、翼はふと自分の目的のことを考える。……が実のところ何もなかった。
今まで翼自身、あまり気にしていなかったものだったので、トマホ―クに言われるまで目的なんてものを考えたことがなかった。
いや、だいぶ前にも言われたような気もするが、そのときは色々あったのですっかり忘れていたのだが……。
自分の目的…………。それがない翼は――
「…………ける」
「え?」
小さくボソッと翼が呟いたのでトマホ―クはうまく聞き取れなかった。
「だから、……引き受けてみようかなって思う」
その言葉を聞いて、トマホ―クはただただ驚くばかり。
そりゃそうだろう。先ほどまで渋っていた相手が、急に決意を固めてこう言ってきたのだから。
「……ありがとう。翼」
「あ〜。……だけどみんながどう言うかはまだわからないよ」
「そうだけど、あたしは期待してるよ。……本当にありがとう」
トマホ―クはそう言うと、翼の部屋から出て行く。
再び残るは、翼一人。一人で冷たい夜風にあたる。
自分の目的がないのなら、その目的を今このときだけでも「クィ―ンズを救う」にしようと、翼は思うのだった。
翼が持つ、初めの目的として…………。 |