MAGIC10-3〜女性陣、火花散る〜
飛行機もどきが爆破、大破炎上していた場所を離れ、翼たちは先ほどから森の中を進んでいた。
森の中なので、舗装された道路はもちろんのこと、獣道すらないので、草木を掻き分けて前進している。
ちなみに草木を掻き分けているのは翼で、天真はその後ろから移動する指示をしている。
その後に続くのは、先ほどからずっと首飾り(呪い付きの可能性大)を必死にはずそうとしている緋睡とプリムラ。
だがそんな二人の努力も哀しいかな、全く首飾りは外れる気配すら見せていない。
翼はふと身につけている腕時計の時刻を見る。午前十時だった。
森の中はそんな時刻にもかかわらず薄暗い。
薄暗いとは言っても完全に日光が遮断されているわけではないのでこうして草が、それも翼の腰辺りまでの丈の草が生えているわけだ。
「…………先輩、本当にこっちの方角であっているんですか?」
「当たり前だ。絶対にこっちだ。間違いない」
少しばかり不安になって、翼がそう天真に尋ねると、天真の自身たっぷりの返答が返ってくる。
どうしてこんなに自信たっぷりなんだろう、と少し疑問に思えてくるのだが、地理的に詳しいのだろうと翼は勝手にそんな解釈をした。
だけど、念のために翼は聞いてみることにする。
この先輩の場合、「どうしてそんなことがわかるんですか?」「勘だ」――そんな根拠ゼロの自信である可能性があるからだ。
「――先輩、どうしてそんなことがわかるんですか?」
「においだ」
なんと、展開こそ少し違うものの、ほぼ同じ。根拠ゼロ。
そうとしか他の人間からは考えられない。
「…………におい?」
「においだ。フランシア臭が今進もうとしている先から香ばしくにおってくるのだ」
どこが香ばしいのか全く理解不能なのだが、やはりどう考えても信じられない。
なので、翼は草を掻き分けながら進む足を止める。
「ん?どうした、翼よ」
「……なんか、急に疲労感と脱力感が襲ってきてしまいまして……代わりに先輩ががんばって下さい。僕はその隙に逃げる……もとい応援してますから」
「うむ、わかった。がんばれ」
普通こういう場合、「うむ、わかった。代わりにおれが交代しよう」という台詞を言うものである。
「 がんばれ」という言葉はありがたいのだが、少しは手伝うそぶりを見せてもいいのではないか、と翼はつい思ってしまう。
ふと翼は緋睡とプリムラを見るが、二人に手伝ってもらおうにも、首飾りと格闘中なのでおそらく無理だろうと翼はすぐに悟って、二人には「手伝ってくれ」とは言わなかった。
なので、疲労感および脱力感にもめげずに翼は再び作業を開始する。
* * *
森の中を進み続けてすでに二時間経過。つまり現在の時刻は正午の十二時である。
あいかわらず出口らしいものは見つからない。おまけに腹の虫も鳴り始めていた。
キリギリスや鈴虫の鳴き声の合唱なら、まだかわいげがあり心が和むのだが、腹の虫の合唱というものは、どういうわけか聞いているこっちまでお腹が減ってくる。
おまけに和み効果はないし、当然のことながらマイナスイオンが発生するわけでもない。
そんなとき、翼はふと気づいたことがある。
それはずばり、天真のことについてだ。
「先輩、一つ聞きたいことがあるんですけど」
「ん、なんだ?珍しいな」
確かに珍しい。
「先輩って、どうやってクィ―ンズの行き方を知っていたんですか?」
「ああ、そのことか」
その質問を聞き、天真は心なしか少し悩んでいるように翼には見えた。
「……単刀直入に言えば、知らん」
「はい?知らないのに、どうやって行けたんですか?」
「うむ。なんて説明したら良いのだろうなぁ……。なんとなく、わかったんだ。クィ―ンズはそこにあるなってな」
「それって、勘ですか?」
勘という言い訳は、天真お得意のものだ。
だが、天真は「NO」とばかりに首を横に振る。
「いいや、勘ではない。なんだかな……まるでおれが初めから行き方を知っているようだったんだよ」
「へぇ〜」
「妙な話だ。行ったこともない場所に行ったことがあるように思えるなんて……」
天真は自分の言っていることがおかしいと思ったのか、肩を軽くすくませる。
そのとき、翼はあることを思い出した。
それはほかならぬ天真自身が、「おれは生まれ変わって現世に来たのだ」とか翼と天真が始めてであったときに言っていたことを。
もしそれが事実なら、天真がなぜクィ―ンズの行き方を知っていたのかも、ある程度仮定を立てれば説明することができる。
もっとも、当の本人はそんな言葉を口走っていたことをすっかり忘れているようだが。
「デジャビュというものではないのですか、天真。もしくは、単なる歳によるボケか……」
「失礼なことを言ってくれるな、巫女。おれは決してボケてなどいない。ピッチピチの十八歳だぞ」
「わたくしから見れば、おまえなんて所詮年増同然です」
気のせいか、緋睡と天真の視線の間に火花が飛んでいる気がして仕方がない翼。
一触即発といえる状況なのだろうか。今にも翼の妹VS翼の先輩の喧嘩が始まりそうな気配……。
そんなところにプリムラが二人を落ち着かせるためなのだろうか、ボソッとこう呟く。
「わたしから見れば、二人とも年増…………」
…………………………。
空気が凍った。そして、その凍った空気は一瞬で氷解したかと思うと、今度は三人の間で火花が飛び散り始める。
翼の妹VS翼の先輩VS翼の使い魔。状況が余計に悪化。
落ち着くどころかますますヒ―トアップ。
割り込んで3人を落ち着かせたい翼なのだが、女の喧嘩というものは世間で一般的に広められているものより酷いものだ。
おしとやかなんて言葉が似合うお嬢様でも、女神の化身と謳われるような美女も、喧嘩となれば鬼神当然のような喧嘩が始まるものなのだ。もしかすると、男と男の喧嘩よりすさまじいかもしれない。
なので下手に割り込めない翼は、仕方ないので少し離れた場所から女の喧嘩というものを見せてもらうことにするのだった。
ちなみに喧嘩が始まったのは、その一瞬秒後のことである。 |