MAGIC10-1〜出発前から嫌な予感 by翼〜
日曜日、朝6時。
翼と緋睡とプリムラは家を出て、現在天真の家まで向かっている最中だ。
持ち物は、着替えや洗面用具、その他には親から許可を得てソ―サリ―・クリスタルも念のために。そのほかには、翼たちの趣味的な用品と、各々の得物もある。
ちなみに翼の両親は、翼たちが遠出することに別段いちゃもんを付けることはなかった。その理由としては、なんだかんだ言ってあの先輩が翼たちが両親に言う前に手をまわしていたらしく、両親に言うなり即OKッ!!だった。
さらにのんきなことに、雅曰く「お土産買ってきてね〜」、清哉曰く「翼くんたちも立派になりましたねぇ。父親として嬉しい限りですよ」とかなんとか言ってきた。
どうやら息子と娘と居候(翼の使い魔)の安否の心配はほとんどしていないもよう。我が子たちを信じているが故なのだろうか……。
ふぁ〜、と翼はあくびを一つ。
緋睡とプリムラはともかく、翼はやけに眠たそうな印象を受ける。まぁ、日曜日と言う休みの日だと言うのに朝早く先輩から呼ばれたのだから仕方がないのだが。
なぜこんなに早い時間帯なのかと言うと、メ―ルを送ってきた天真曰く、《勇者は常に早朝より旅立つものだ》らしい。
もっとも、誰が勇者だ、というツッコミをする気すら、今の翼にはなかった。
こうしている間にも、翼たちは天真の家へと歩を進める。
* * *
「いつきてもすごいなぁ、先輩の家って…」
それが翼が天真の家をパッと見ての感想だった。
もっとも翼自身、何度か天真の家へ来たことがあるのだが、やはり圧倒されるものがある。
敷地は翼の家と同じくらい。――つまり、東京ディズ○―ランドの敷地の半分くらいある。
翼たちは現在、そんな天真の家の門前に来ているのだが、その門がかなり大きく、翼を縦に五人ほど立てたくらいと比例するほどだ。そして、その門と同じ高さほどの塀が敷地内を囲んでいる。
翼の家が和式なのに対し天真の家は洋式で、さらにシンメトリ―と呼ばれるものであろう、家の門から屋敷へ行くことができる道を天真の敷地の正中線とし、左右対称に噴水や、木々といったさまざまなものが左右対称になっている。
「はぁ―――――はっはっはっはっはッッッ!!!!!」
翼がチャイムでも鳴らそうかと思ったとき、どこからともなくいかにも悪役チックな高笑いが聞こえ始める。
この高笑い、翼たちの知っている人間でこんなことをする人間はただ一人。
「……先輩、そんなところで何やってるんですか?」
「いやなに。おれを愛し過ぎている後輩が来ないか、今か今かとここで待っていたところだ。気づいてなかったようだったから、おれの美声で美しい高笑いを、先ほど響き渡らせたというわけだ」
悪役チックの高笑いのどこが美しいのか。小一時間ほど問い詰めたいと思う翼。
それで、天真がどこにいるのかというと、大きな門の頂上である。しかも仁王立ちで立っている。
なんだか、それだけで十分すぎるほど悪役に見えてくるのは気のせいだろうか。おまけにこの人は、悪役チックたっぷりな高笑いまでしていたのでなおさらだ。
「天真。わたくしたちが早い時間帯にわざわざ来てやったのですから、いい加減事を進めませんか」
緋睡の冷めた視線。そして冷め切った淡々とした口調で天真にそう告げる。
「まったく。巫女はせっかちだな。もう少しのんびりまったりとしようとは考えられないのか?」
「できませんね。早いことするにこしたことはありませんし」
挑発的に天真にそう言い放つ緋睡。早くも一触即発。
今にも血を見そうな雰囲気が漂う。が――
「……まぁいい。我が親愛なる後輩たちよ。おれの家に入ってきてくれ」
天真はそう言うと門の頂上から飛び降り地面に見事な着地。途中受けを狙ったアクロバティックな動きがあったのだが、それはこの際スル―しておこう。
着地後、天真はボディ―ガ―ドと思われる人たちに、門を開けさせる。
「さて、これからおれの後について来い」
そういう天真に、翼たちは素直に従うのだった。
* * *
「――先輩。どこに行くつもりですか?」
薄暗い地下へと続く階段をコツコツと足音を立てながら、翼たちは天真の後をついている。
地下三階……地下四階……地下五階……。
そんな感じで地下七階で天真は進むのを一時止める。というのも――
「――着いたぞ」
「着いたって?」
薄暗くてよく見えない。ただ、うっすらとだが、地下室内に大きな何かがあるのはかろうじて翼にはわかった。
「ふふ……、後輩よ。これからおれたちは、これで一度フランシアまで行くのだッ!!」
そう言うと天真は部屋の明かりを付ける。そこには――
「ひ、飛行機!?」
そう。翼の言ったとおり、そこには飛行機があった。
ただそれは、空港にある飛行機よりはだいぶ小さい。が、四人乗るには十分すぎるほどの大きさは持ち合わせていることが外から見ても明らかだった。
「まぁ皆の者、まずは乗るがいい。これでフランシアまで行くのだからな」
* * *
やはりというべきか、天真が持ち合わせていた自家用飛行機の内部は広かった。
広々とした空間、そしてどことなく優雅な西洋風の雰囲気がそこには漂っていた。
「さて、それでは皆の者。各々座席に座るがよい。いくのはおれたちしかいないからな、どこでもいいぞ」
一つの飛行機貸し切り状態。まぁ、自家用なので当たり前なのだが……。
そして、座席に座った翼はふとこんな疑問を抱く。
「――ねぇ。先輩。操縦って、誰がやるんですか?」
「無論、おれだ」
…………。
はい?何か妙な幻聴が聞こえたような気が……。
「誰がやるんですか?」
「おれだ」
…………おかしいなぁ。同じ幻聴が二度も聞こえた。
「……誰が――」
「おれだ」
…………。え?――ちょっと…………。…………。
「えええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッ!!!!!」
衝撃の事実に、翼は思わず大声を出してしまう。
乗客が自分たちしかいないということが不幸中の幸いというものか。
「じ、冗談ではありませんッ!!なぜ、よりにもよっておまえが空飛ぶ鉄の鳥のパイロットなのですか!?」
さすがに嫌なのか、緋睡も反論する。
プリムラに至っては、なぜか手を合わせて何かを祈っている。まだ飛び立ってすらいないのに。
「ふふふ……。安心しろ、我が親愛なる後輩たちよ。死ぬときはみんな一緒だ」
安心させるために言った言葉なのだろうか。……いや、この先輩の場合、その場を混乱させることが大好きなので、おそらくそのためだろう。
ホップステップジャンプとばかりに、天真は操縦席まで軽い足取りで進む。
翼たちにはそれが悪魔が舞い踊っているようにしかみえない。
出発前から、すでに飛行機内は恐怖と混乱の雰囲気に包まれるのだった。 |