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魔術師/BATTLE OF NIGHT
作:なかたく



MAGIC9-2〜唐突過ぎる再登場〜


 翼は天真からのメ―ルを見た後、居間までいって朝食を食べる。
 そのときちょうどプリムラが朝食を食べていたところから考えると、プリムラも翼と起きた時間は大差変わらなかったのだろう。
 雅はソファ―に座ってテレビでバラエティ番組の再放送を見ていたが、翼が入ってくるなり「あらぁ〜。おはよ〜、ツバサちゃん」と、あいさつをしてきたので、翼も挨拶をかえした。
 父親の清哉は、土曜日にもかかわらず仕事なので、家には居ない。
 雅が朝食つくってあげようか、みたいなことを翼に言ったのだが、翼はそれを拒否する。
 自分でつくるのかと思いきや、翼は冷蔵庫にあったヨ―グルトを一つ取り出して食べると、朝食はそれだけで終わらせる。
 今日は土曜日。
 実は翼、休みの日になると朝食だけあまり食べたくなくなるのだ。
 だが、何か食べないと健康に結構害が生じるので、ヨ―グルトや、あるならバナナを食べるのだ。
 特に翼がお気に入りなのは、案外バナナだったりする。
 軽食にもかかわらず、栄養が結構豊富だからだ。
 朝食が終わると歯の手入れをし、その後、寝癖を直したりもしたりして、時刻は十一時。
 あと一時間でお昼という時間になる。
 自分の部屋に戻ってゲ―ムをやるのもよかった。しかし、それよりも翼はやらないといけないものがあると思っていた。
 それは、魔術の稽古だ。
 魔術の稽古――それは、翼の案外苦手なものの一つで、気が向いたときにしかしないと言うくらいだったのだが、昨日の夜の出来事でそんなことも言ってられない、と感じていたからだ。
 昨日、下手したら自分は死んでいたかもしれない。――そう考えると、翼は自分の背筋が凍りついたようにゾクッとするのを感じた。
 死んだら自分が得たものすべてを手放さなければならない。それは友達や両親はもちろん、自分の生きた身体までもだ。
 そうしないためにも、翼は少しこんをつめて稽古をしようと考えているのだ。
 そんな翼の表情は、そんなことをまるで決心したように、いつもより真剣な表情だった。


                    *     *     *


 稽古をするべく、翼は家の中庭へと行くと、そこには早くも先客がいた。
 腰の位置までとどくやや紅味がかった黒髪を赤いリボンで一つにまとめ束ねて、体格は至って華奢。そして、巫女服を着た少女――緋睡だ。
 緋睡は和弓を構え、離れた場所に木があるのだが、そこに的を設置して中心を狙うべく標準を合わせているところだった。
 弦を唸らせ、極限まで矢を引く。そして放つ。
 シュッと風を切るような音がし、そのまま吸い付けられるように的の中心に見事すぎるくらいに当たる。
 魔力や気の類を矢にまとわせていなかったので、木がぶっ飛ぶ……なんてことにはならなかった。

「へぇ〜。さすがだね、緋睡」

 パチパチと拍手を緋睡に送る翼。
 すると、翼がいる事に気づくや否や、ズコズコとものすごい剣幕で緋睡が翼に詰め寄ってくる。

「兄上ッ!なんてこと言ってくれたのですかぁッ!!」

 眉をつり上げ、緋睡が似合わないくらいの荒れた声を出す。
 翼自身、何で起こられているのかわかっておらず、翼の頭の中は「?」で埋め尽くされていた。

「ちょっと緋睡。どうしたんだい?まさかまたあのル―クとかいう奇術師っぽい人に操られているんじゃ――」
「わたくしはいたって正常ですッ!――それよりも、母上と父上に昨日わたくしが気を失っていたことを、兄上はどう説明しましたか?」
「え……。あ〜……」

 翼は沈黙する。そして同時に、なぜ緋睡が起こっているのかわかった。
 つまりは、それが原因だ。
 昨日翼が、緋睡がなぜ気絶していたのかの説明が、どうやら緋睡は気に入っていないらしい。

「さぁッ!言ってください、兄上ッ!」

 言わなきゃ殺す――そう、緋睡の目が語っていた。
 いやこの場合、言っても殺すと、考えることができる。
 つまり――
 翼が言わない→死亡。
 翼が言う→死亡。
 ――という、実にどうしようもない状況に翼は追い込まれている。というか、すでにどちらを選んでもたどり着く結末が同じなので翼は観念して緋睡に言うことにした。

「――緋睡が未成年にもかかわらずアルコ―ル度数20のお酒を飲んで、その結果、緋睡がドジョウすくいの芸をしながら狂喜乱舞、その後『ウホウホォ―ッ!』とゴリラまで知能が退化したように叫びながら町中を暴走したあと――」

 緋睡はそれだけで十分だったらしい。
 翼にとどめをさすべく、矢を躊躇ちゅうちょなく翼目掛けて射るのだった。


                    *     *     *


 真道家中庭。そこには顔面公害男がいた。
 顔は蜂に刺されたように、なおかつプロのボクサ―に素人が喧嘩を挑み、そして完膚無きまでに叩きのめされたみたいにぶくぶくに風船のように膨れ上がっており、さらに鼻血がたら〜、とだらしなく垂れ、服装はすでにボロ雑巾とほぼイコ―ル状態。
 そんな顔面公害男――いや、全身公害男が木にもたれてぐったりとしていた。
 その青年の頭からは、何かエクトプラズムのような謎の超常現象的なものが発生しており、今にもその青年の身体から抜けそうになっている。
 そんな青年を気遣うように、青年の使い魔であるプリムラが傷の手当をしていた。

「全く兄上、自分が言われて嫌な事を公言するものではありません」
「……だったら、自分がされて嫌な事を他人にするなよ…………」

 エクトプラズムのようなものが翼の身体に入り込むと、翼は意識を取り戻し、そう緋睡に言う。
 もっともそれを言ってしまっては、この人たちは戦闘そのものができなくなるのだが。

「……兄上。ふと気がついたのですが」
「なにに?自分がしたおこないに少しでも罪悪感を感じたなら僕の目の前で土下座――ゲフゥッ!!」

 怪我人と化している翼に、何の躊躇ためらいもなく拳を腹部に叩きつける緋睡。
 再び翼はぐったりとうなだれる。

「……兄上。ふと気がついたのですが」
「なにに?」

 俗にいう仕切り直し、テイク2というやつだろうか。

「天真から連絡は来ているのですか?」
「え?ああ……。来てるには来てるけど――」

 正直、何の役にも立たない。
 なにせいたずらメ―ルなのだから。

「……先輩か」

 翼は緋睡にそう言われて、そういえば今頃どうしているのだろう、と思う。
 あの先輩のことだから死んでいることは絶対にないというのは、翼自身なんとなくわかっていた。毎日毎日飽きもせずいたずらメ―ルを送り続けているとおろからしても、まずそれは間違いないだろう。

「――本当に、今頃どうしてるかなぁ。先輩」
「ふふ。そんなに心配しているのか。おまえの親愛なる先輩様は、さぞかし喜んでいるだろうな」
「ハハハ……。別に親愛ってわけじゃないけどさ。――て」

 翼はふと自分がもたれかかっている木の後ろを見ると、そこには――

「せ、先輩いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!??」

 翼の先輩、神藤天真の登場は唐突だった。







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