MAGIC7-1〜今朝は普通ではないわけで…〜
「――にい、さん――お兄……さん――」
なにか、自分を呼んでいる人がいる。
自分を兄と慕い、そして声をかけてくれる人物といえば、翼には一人しか思い当たる人物がなかった。
「ぅ……ん。あと五分……」
「その五分がいつも肝心だって、お兄さんはおっしゃっているじゃないですか」
「……うん。それは……そう、だけど…………」
寝ぼけながら声をかけてくる人物に返答する翼。
…………ん?何かがおかしい。
布団に潜り込んで、翼はふと思った。――お兄さん?
ガバッと翼は上半身を起こす。そこには――
「あ。お目覚めですね♪お兄さん」
と、翼が起きたのを確認する緋睡がいた。……が、何かがおかしい。
そもそも『お兄さん』って……。緋睡はいつも、翼のことを『兄上』と呼んでいたはず。
おまけになぜか緋睡は性格が変わっているような気がする。
「……?どうしましたか?お兄さん」
「え?……あ、…あぁ〜……えっと……」
戸惑う翼。無理もない。
普段の緋睡なら、ここで「ふん。兄上は所詮、前世はナマケモノだったのでしょうね。こんなに遅くまで寝ているなんて」と、皮肉の一つ二つかまして来るはずなのだから。
「フフ……。どうやらお兄さんは、まだ寝ぼけていらっしゃるようですね♪」
にこりと、皮肉のかわりに天使のような微笑をする緋睡。
おまけに話し方からしてすでに性格が変わっている『気がする』、ではなく、性格が『変わっている』。
敬語なのは相変わらずなのだが、普段の緋睡は、どこか冷めたような話し方をするのだが、目の前にいる緋睡は、なんだか気の良く利く後輩チックなのである。
…………なんだろう。はっきり言ってすごく嫌だ。なんだか、生活のペ―スを軽く乱される。もっとこう、皮肉の一つ二つは当たり前な感じの緋睡のほうが幾分マシだ。――と翼は思ってしまう。
「ああ、夢なら覚めてくれ……」
緋睡に聞こえないように、そう小声で言う翼だった。
* * *
「…………うぅ……ぅ……」
うっすらと、そしてゆっくりとまぶたを開ける翼。
そして、辺りを見渡す。
カ―テンが閉まっている窓からは朝日がさし込み、さらに鳥のさえずりも一緒に入ってくる。
ベッドの隣には、二日前から一緒に住むことになったオコジョ……。
そう。今日は、休校になってから三日目。つまり、休み最終日である。
ちなみに昨日は、プリムラのことで翼は色々と忙しい日だった。なにせ、プリムラの服などを買い揃える必要があったからだ。
プリムラは女性なのだから、ここは同じ女性である雅と緋睡がプリムラの服などを買うのが当たり前なのだろうが、どういうわけか翼も付き合わされた。
雅曰く、「プリムラちゃんの保護者だからねぇ〜」らしい。なので、翼にとって昨日は、必要以上に体力よりも精神力が消費された日であった。
なにせ、男が女性の服売り場や下着売り場に行くのだ。変態男たちならいざ知らず、翼はその部類には入らない。
ましてや翼は、思う以上にピュアな心の持ち主。そんな場所に連れて行かれたら、精神力をズルズル、ガリガリ、ズコズコと削られてしまうのだ。
……そういうわけで、翼は結構昨日はハ―ドな一日だったのだ。
一つ言い忘れていたが、昨日翼が寝ようとしたとき、メ―ルが届いたのだ。
九割方アレなのだが、重要な件を伝えるメ―ルである可能性も否定できないので、そのメ―ルを開いて見ると――
《チョメリバ、ウンチョッチョォォォ―――――》
ハズレだったので、けっこうそれでも疲れていた。
昨日のことを思い出すと、ついため息を出してしまう翼。
そして、布団で寝ているオコジョを何気なく見る。
…………。――ん!?
翼はようやくそれに気づいた。
なぜ布団でオコジョが寝ていることに。いや、オコジョなのかどうかも怪しかった。
オコジョは普通、真っ白な体毛で覆われているはずなのだが、翼が布団で発見したオコジョは漆黒、真っ白とは正反対の黒なのである。全身黒の体毛で覆われているオコジョなのである。
決して、墨汁で染められたわけではなく。
しかも、プリムラの姿がないのである。
「な、なな、なななんで……僕の部屋にプリムラじゃなくて真っ黒なオコジョが……」
口をパクパクと、酸素がない水槽に入れられている金魚のようにしている翼。
だが、そこでふとその寝ているオコジョを見て連想する翼。
真っ黒のオコジョ→漆黒のオコジョ→食べてもまずそう→毛皮にもできなさそう→プリムラの姿なし→…………。
途中、なにか変なものがあった気がするが、翼はそれではっと勘付く。
「ま、まさか……プリ、ムラ?」
翼がそう口にすると、漆黒のオコジョは目を覚ます。
そしていきなりそのオコジョが光りだすと、徐々に人の形になっていき、やがてその人の姿は。
「プリムラ!」
翼の言葉に、プリムラはコクリと首を縦に振る。
すると翼は昨日緋睡から聞いた話を思い出した。
―――――回想―――――
「兄上、使い魔について何かご存知ですか?」
「へ?……いや、別に何も」
「…………」
「なんだよ。その冷めた視線は」
「別に。――それでは、『無能』な兄上のために、使い魔のことについて説明して差し上げましょう」
「『無能』を強調するな」
「使い魔となる者の大半が、人間形態とは別の形態を持ち合わせています。例えば、狼や猫……もしくは、あのミントという女の使い魔のように、別形態が武器であるものもいます」
「僕の発言を完全にスル―されたのはこの際置いといて、その情報は知らなかったよ」
―――――回想終了―――――
つまりその緋睡の話から考えると、プリムラの別形態がオコジョだったということわけだ。
ただし、黒というオコジョらしくない色だけど。
黒ならせめて、黒猫とかのほうがもっと自然なのに、とそんなことをつい考えてしまう翼。
別に翼は嫌と言うわけではない。
翼が一つ、プリムラについて新しい発見をしていたそのときだった。
ドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタ…………
なんだかものすごい足音を立てながら、翼の部屋に何かが近づいてくるのが翼にはわかった。
そして、ガシャアアアアアァァァァァァァァァァンと、扉がぶっ飛ぶのではないかと思われるくらいの勢いで開けられた。……というか、その開けられた扉は、『ぶっ飛ぶような』ではなく、すでに『ぶっ飛んで』、中庭に設置されている石で囲まれた緑色の水が入っている池にみごとチップインバ―ディ―した。
そして、扉が開かれて現れて、次のように叫んだその人物は――
「おらあぁぁぁぁぁッッ!!兄貴ッ!!朝飯をとっとと食いやがれぇッ!!!」
真道緋睡、その人だった。 |