MAGIC6-1〜いざ、旅立ちッ!!(先輩が)〜
「おはよ〜」
ガラリと引き戸を開け、居間に寝ぼけながら入る翼。
髪の毛はぴんぴんに寝癖で立っており、普段とはパッと見別人になっていた。
髪形が違うだけで人はこんなにも変わるのかと思える良い例であるが、翼の場合その髪型が似合ってなさ過ぎ。
「兄上。ちょうど良いところにやってきましたね」
「どうしたんだ?緋睡」
「とにかくテレビをご覧になってください」
わけがわからなかったが、翼は緋睡の言うとおりにテレビを見る。
すると、そこには翼たちが通っている高校が映し出されて、なにやら報道されている。
報道を聞くまでもない。昨日の戦いの爪跡を報道しているのだ。
ニュ―スキャスタ―は巨大なクレ―タ―をカメラで映しながら色々と話している。
もっとも当事者である翼たちには、そのクレ―タ―の正体がわかっているのだが。まぁ、翼たちはそのクレ―タ―のど真ん中にいたわけだし。
「……緋睡。他に何か言うことは?」
「はい。連絡網が来て、3日間学校は休校になるようです」
予想外の学校の休校。いや、ある程度翼は予測していたがまさか本当になるとは思っていなかった。
しかし、それも仕方のないことだろう。
『Lightning blade』で発生した巨大なクレ―タ―を、まず元に戻さないといけないし、学校やその周辺の民家のガラスなどもすべて元に戻さないといけないのだから。
「昨日は、どうやら翼君たちは派手にやりすぎちゃったみたいですね」
と、ニコニコ優男の清哉が翼たちにそう言う。
この父親がとても優しいのが、翼たちにとっては唯一の救い。
もし父親が、某長寿アニメに出てくるバ―コ―ド頭で、名前のように髪の毛一本を波のように立たせている人物が父親なら、こんな穏便には済まない。
「ごめん、父さん。昨日ちょっと……他の魔術師と一戦交えて…………」
「いいんですよ。幸い死人は出なかったのですし、それだけでも十分です」
優しくそう言ってくれる清哉。
それだけでも、翼たちにとっては十分すぎるくらい心が救われる。
「それじゃあ、ぼくは仕事にいってきます。翼君たちも元気を出してくださいね」
居間を出るとき、清哉はそう言って出ていく。
そんな清哉に少しばかり感謝すると、翼たちも朝食を食べることにするのだった。
* * *
翼は外に出ていた。……というのも、家では特にやることがないからだ。
こういう時間を使って魔術師として少しでも鍛えたほうが良いと思えるのは気のせいだろうか。
何気なく、翼は昨日戦った場所へと行ったのだが、立ち入り禁止となっており中に入ることができなかったので、現在翼はこうして意味もなくブラブラと町中を散歩している。
ためしに公園に行ってみる。
しかし、平日とあってか子供たちの姿はない。いるのは翼ただ一人。
ここまで静かで誰もいない公園というのも珍しい。公園というものは、子供たちが遊ぶために作られた憩いの場で、少なくともここまで静かなものではないだろう。
翼が公園の中へと足を踏み入れる。そして、なんとなく公園の中心付近に立って、そして瞳を閉じる。
瞳を閉じ、景色が暗転し、真っ暗な闇一色になる。
――昨日、下手をしたらこんな世界を永遠と味わうことになっていたのか。
瞳を閉じながら、翼はそう思う。
耳からは、風で揺られて木々が揺れ、葉と葉が擦り合う音が聞こえていた。
だが、昨日あそこで死んでしまったら、こんな当たり前のような音すら聞けなくなるのだなぁ、と翼は思った。
当たり前過ぎて、在って当然だと思う景色、音、感覚……。
だけど、そんな当たり前のものをすべて奪い去るものが『死』だ。
たった一文字。たった『S』と『I』だけでつくられている単語に、それだけ恐ろしいことができるのだ、と翼は今更ながら感じた。
そんな『死』が常につきまとってる闇の住人の戦い……。
――自分は、何のために、そこまでするのだろうか。
最後にそんなことを思い、翼はゆっくりと目を開ける。……と、
「あれ?」
思わず翼はそんな言葉を口に出してしまった。
公園に設置されているベンチ。そこに一人の少女が座っていたからだ。
漆黒の髪を腰まで下ろし、大きな白いリボンをつけ、服装も髪の色と同じような漆黒メインでネックレスのように黄色の水晶をぶら下げており、瞳の色はやや蒼い色をしている……そんな少女。
パッと見た目十二歳ほどではないだろうか。身長は150センチ弱ほどで、白い肌で華奢な身体をしているのがわかる。
そんな少女が、翼をじっと見ている。
「……」
「……」
翼が少女を見ても、少女は動じることなくじっと翼を見ていた。
だけど、どうしてこんな娘がこんなところに?
今日は平日で、どう考えても学校はあるはずだ。……まぁ、翼の学校は休校だが。
「……あのさ」
「……」
翼に言葉をかけられても動じる気配はなし。
翼と少女が対面したまま硬直状態。そのまま無意味に時間だけが過ぎていく。
やがて、立っているのが疲れたので翼は少女が座っているベンチに腰を下ろす。
「……」
「……」
……正直、気まずい。
おまけに辺りがとても静かなので、なんとなくよけいに気まずくなってしまう。
と、そんなとき――
「はぁ――――――――――――はっはっはっはっはっはっはぁッ!!!!!翼の先輩様である神藤天真様、参上ッ!!!!!」
公園に滑り込むようにして入ってくる翼の先輩。
手にはなぜか大きなバックを持っていた。
「……先輩って、どうしてこう……僕の目の前によく現れるんですか?」
「ふっふっふ……。それはな翼、おまえの身体にGPSを組み込んでいるからだ」
「あからさまな嘘をつくのはやめてくださいよ」
「それじゃあ、試してみるか?我が親愛なる後輩よ」
天真はそう言うと、相手の首根っこを掴み、そのままつり上げ、そして拳を何度もそいつの腹に叩き込むジェスチャ―をして見せた。何を試すというのかこの女。
「……いえ。試さなくていいです」
「わかってくれればいいのだ、翼。――それより」
天真は翼の隣に座っている少女をじっと見る。
その少女は、その視線に気づいたように天真を見た。
「……」
「……うむ」
天真はそうなぜか頷くと、翼に視線を戻す。
「翼よ。おれは驚いたぞ。それはもうグレイトに」
「……何にですか?」
「おまえがまさか…………ロリコンだったとはな」
「…………はい?」
「いや、おれは別にかまわんぞ。恋愛は人の自由のはずだからな」
「いや、あの……先輩?」
「だがしかし……巫女がこれを聞いたらどうなるかだな、問題は」
「ちょっと、先輩。勘違いしすぎじゃないですか?」
だんだんと、このままでは誤解が誤解のままになってしまうので翼は天真の発言を一度ストップさせる。
「勘違い?何を言っている。二人とも立派にデ」
「デ―トじゃありませんから。偶然この娘がここにいて、僕が少したっているのに疲れたので隣に座っているだけですよ」
そう言われると、天真は少し考えるそぶりを見せ、そして――
「……後輩よ」
「なんですか」
「……隠さなくてもよ」
「隠してませんってぇぇぇぇぇッ!!!!!」
翼の強烈なツッコミ。その反応を楽しむかのごとく腐っても翼の先輩は「はっはっは……」と笑っていた。
「……それはそうと、先輩のその荷物はなんなんですか?」
「ん?ああ、これか」
先ほどから気になっていた大きなバック。
修学旅行にでも持って行きそうなくらいの大きなバックである。
「実はな、翼。おれは少しばかり旅に出ることにしたのだ」
「は?旅ぃ?」
あまりにも唐突過ぎるその発言に、翼は耳を疑う。
「そうだ。ちょうど学校もしばらくの間休みだしな。この機会にな。――どうだ?頼りになりすぎて困ッチングなグレ―トビュ―ティ―先輩がいなくなって寂しいだろう?」
「いや、別に――」
「そうだろうそうだろう、実に寂しいだろう。安心しろ。おまえの携帯に一日一通最凶ないたずらメ―ルをだしてやるから、寂しくなんてないぞ」
翼の言葉を完全無視。しかも、いやがらせメ―ルを送る気満々なこの先輩。
「それではな、我が親愛なる後輩である翼よッ!今日の晩のメ―ルを楽しみにしててくれッ!!」
はぁ―――――はっはっはっはっはっはっはぁッ!!!!!
そんな高笑いと共に、天真は公園から立ち去るのだった。 |