2ーまさか?ここで?!ー
映画館で僕らが選んだのは、テレビの連続ドラマから映画化された話題の作品。
事件ものだけど、恋あり笑いありの楽しい作品のはずだ。
チケットを買って、劇場に入る。
少し暗い場内を手をつないで移動して、座席に着いた。
席は一番後ろだけど中央で、それほど広くない劇場だからちょうどいい場所だった。
「よかったね、真ん中で」
僕は出来るだけ明るく言った。
とにかく、さっきまでの自分の恥ずかしさを振り払おうと思った。
そうして、ちょっとぎくしゃくした雰囲気を元に戻せれば、また、いつも通りになるはずだ。
彼女は、
「うん」
と小さく肯いた。
まだ、なんだか硬いなあ。
映画が楽しかったらいいんだけど。そしたら、また、元のように明るくなれるはずだよな。
その時は、そう思っていた。
予告編が始まって場内が暗くなった。
チラッと彼女を見るとスクリーンを見つめる横顔が、暗い中、映画の照り返しをうけて浮かび上がっている。
その瞳がキラキラと輝いて見えて、僕はあらためて、彼女のことを綺麗だと思った。
映画が始まって、どのくらい経っただろう?
物語のおもしろさに、いつの間にかスクリーンに集中していた。
その意識が、ふっと我に返った。
なぜなら、僕の右手に、彼女の手が重なったからだ。
ドキッとして、僕の意識の半分が、彼女と触れる自分の手の甲に集まった。
映画館で好きな人の手を握って見るシチュエーション。
そんなあこがれの瞬間。急にまた胸がドキドキしてきた。
僕はスクリーンを見つめながら、彼女の手を握り返そうと思って、右手を動かした。
その時、僕の腕がそのまま彼女に引っ張られる。
あれ? なんだろう?
そのまま彼女は僕の腕を引き寄せた。そして……。
掌に、すべすべした柔らかい感覚が触れた。
え?
驚いて、彼女を振り返った。
「なっ?!」
さらに驚愕。僕は目を見張った。
うわああぁ。
えっと、えっと、これって……。
いきなり混乱してしまった。
いつの間にか、彼女のワンピースのボタンが、上からいくつか外されていた。
はだけた服が捲れて、ブラをしていない彼女のきれいな胸が一つ、暗い中で露になっている。
そしてもう片方の胸に……僕の手が押し当てられていた。
つまり、肌に、直接!
彼女の両手が、抱くように僕の右手を彼女の左胸に押し付ける。
掌に、彼女の胸の柔らかさと、小さな堅い感触が同時にした。
あまりのことに、声も出ない。
彼女は僕の方を向いて、でも、恥ずかしそうに目を瞑っていた。
ど、どうすればいいんだろう? 僕のこの手は?
このまま? それとも、なにかしないと、いけないのか?
僕は、手を離すこともできず固まっていた。心臓が痛いほどドキドキしている。
暗いとはいえ、ここは、まわりに人のいる映画館の中だ。
幸い最後列で、隣にも他の人はいないけれど、まさか、こんなところで、胸を出すなんて?!
これって、大胆すぎないか?
彼女、いつも、こんなことしてるんだろうか? こんな、恥ずかしいこと?
彼女が、瞑っていた目を薄く開けた。
それから映画の音響に消えてしまいそうな小さな声で言った。
「お、お願い……触って」
うっ! さ、触る? それって、どういう?
……動かせばいいのかな?
僕は恐る恐る掌に力を入れてみる。
弾力のあるそれが僕の手にそって形を変えるようだった。
「あっ」
彼女が声を漏らした。
その声が、やけに大きく聞こえて、びくっとして掌の動きを止めた。
「あ、あの……もっと」
彼女の恥ずかしそうな声。僕はまたそろそろと手を動かす。
「あ、うん……あ、ぁ、あん」
ほんとはそんなに大きな声じゃないはずなのに、彼女のその声が、とても大きく聞こえた。
まわりに気づかれないか、ビクビクしてしまう。
止せばいいのにキョロキョロと首を振って、周りを見てしまう。
心臓が早鐘のように鳴っていた。
その時、いきなり、映画の大音響の効果音が響いた。
「うわあああぁ!」
僕は驚いて、思わず彼女から手を離した。
そのまま自分の手を引っ込める。その手をポケットに突っ込んでしまった。
それからは、とてももう一度、彼女の方を見ることはできなかった。
ずっと目はスクリーンを向いていた。
でも、映画の内容なんて少しも理解できなかった。
心臓がいつまでもドキドキして、となりの彼女が気になった。
そのくせ、やっぱり彼女を見ることができなかった。
僕はただ、映画が終わるまでの残りの時間を、半ば放心して過ごした。
場内が明るくなって、やっと我に返った。
恐る恐る彼女を振り返る。
もう、服はちゃんとしていて、でも、彼女は俯いたままだった。
「い、行こうか?」
僕は、ようやくそれだけ言った。
ふたりで映画館を出て、でも、もう手を繋ぐことが出来なかった。
あまりに予想以上の出来事に、驚きと恥ずかしさで、僕は自分でもどうすればいいのかわからなかった。
僕たちは無言で、行きの電車の中で決めていたファミレスに向かって歩き出した。
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