<お試し版>満咲高校騒乱記(4/11)縦書き表示RDF


<お試し版>満咲高校騒乱記
作:瑛彪・玄彪



[四] シ中求活 の 4。


 進む廊下の奥に、非常灯の反射らしき仄かな光が見えた。
 ほっとした途端・・・その薄明かりの下で、幽かにうごめくものを見て、アキラは凍りつく。

 (な、なんだ??)

 頭では、クラスメイトがいたずらしているかもしれないと考えようとするのだが、体の方が危険を察知して硬直する。さっき、門のところで感じた、ただならぬ感覚だ。

 もっとよく見ようと目を凝らせば凝らすほど、視界がぼやける。頭を振って、改めて周りを見渡すと、辺りにうっすらと白いもやが漂い始めているのに気づく。
 靄は次第に濃くなり、辺りが乳白色となる。

 (なんなんだ、いったい・・・)

 アキラは壁にへばりつく。自然と姿勢が低くなる。
 その体がビクッと震えた。

 その靄の奥に、ゆらり、と人影が現れたのだ。

 髪が長く、異常に長く、まるで頭から黒いワンピースを被っているように見えるほど長い。それがぼそぼそと呟きながら廊下を進んでいく。声音からして、若い女だ。
 靄は、極微小な羽虫のように宙を自在に舞う。靄は彼女の周りが一番濃い。彼女の漏らす声に、靄がたかっているのだろうか。さながら、虫の屍骸に群がる蟻の如く・・・。
 不意に、女が歩みを止めた。

 それはアキラの前だった。

 アキラはじっと、食い入るように、女を見つめる。

 (どうするどうする・・・)

 バクバクバクバク脈打つ心臓の音を漏らさじと、息を止める。

 静止するアキラと女。



 動くのは、靄だけ。









 耳が痛いほどの静寂。











 唐突に女は云った。

『・・・くるしいの』

 溜息のような女の声に、アキラは飛び上がりそうになるのを懸命にこらえる。

『くるしくて、くるしくて、』

 云ううちに、口調が激しくなる。女が身をよじる。長い髪が乱れて、靄に舞う。

『くるしくてくるしくてくるしくてくるしくて』

 よじってよじって、1回転、2回転・・・これはもはや人間業ではない。
 とっぴな状況で思考が麻痺し、アキラはただただ、ねじれていく女を見ていた。

『くるしすぎて、』

 ぴたりと動きが止まる。

『たまらないの』

 ぐるりと体を回して、前――進行方向に向き直る女。
 すだれのように垂れた髪の中で、女の横顔がふいに歪む。


 
『・・・そこに、いるのだろう?』



 女の言葉に、アキラは縮み上がった。

 





















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