遠く響く銃声と痛覚を伴う脈動が鼓膜を刺戟する。熱帯雨林特有の湿った空気が、半ば失いかけた意識にまとわり付く。
ふと、目の端に人影。
首だけを巡らせ、木の根元にうずくまる某の顔を見定める。そして、安堵と悲哀に染まる嘆息を漏らした。
某は、彼と同じ軍服を身に付けていた。枯れ草色の上下に、同色のヘルメット。しかし、ヘルメットの下の素顔には蛆がたかり、ところどころに見える骨の白さが妙に明るい。
握り締めたままの銃。抜き身の軍刀が、下草の中で錆付いていた。
背で地面を這う。押さえていた腹から、粘りけのある血液が流れ出る。荒くなるばかりの呼吸に進退を諦め、露出した臓物を、再び腹へと押し戻した。
戦況は、前進と後退の繰り返しだった。昨日進んだ道を、今日は弾道を縫って引き返す。既に食料は底を突き、武器、弾薬の供給ルートも絶たれて久しい。飢餓の向こうに創り上げた桃源郷だけが、今ある備蓄の全てだった。
最初から何も得られぬ場所で戦っていた。
そして今は、軍刀を首に当てることも、銃の引き金を引くことも適わずにいる。
目の前には、密林から覗く青く蒼い空。祖国のそれと変わらない、涼やかで果てしない天空。
空を飛びたいと願っていた。幼い日には、鳥が飛来するたび後を追った。腕を振り、大地を蹴った。成長しては、飛行機乗りに憧れた。召集を受けた時は、神風になると意を決した。けれど、終ぞ飛ぶ日は来なかった。
彼は今、大地へと横たわる。縁すらない密林で、彼は一人、空を見上げる。
夢見た頃と同じ想いで。
遠く響く銃声が、彼の耳には殊更に遠い。こめかみで騒いでいたはずの脈動も、子供の頃に聴いた子守歌のよう。
端から闇が迫り上がる視界の中央に、青く蒼い空。
血に染まった手を掲げても、決して汚れることのない、青く蒼い……。 |