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6話* 「あぁもう!!!やっぱり王道コースなわけね!!!」

 おばさんから教えてもらった、曲がり角を曲がるとその道は思っていた以上に薄暗く不気味だ。


「本当に美しい湖に付くのかな」


 ビクビクしながら、その通りを通っていくと後ろの方から複数の足音が響く。


「まっ まさかね・・・」


 本当に王道コースをまっしぐらするのではないかと思い後ろを振り向くが誰の姿もない。なんというか不気味さが倍増する。その不安を拭い去るように足早に道を歩いていくと後ろの足音も同じように早くなる。しかも、誰も居ないはずの後ろからはこそこそと会話をする声が響く。


「おい あの女 瞳が黒だったぞ 売れば高くつくぞ」

「けど あんまり美人じゃないぜ というか普通すぎだ」

「大丈夫だ 瞳の色でどんなに普通だろうとつりが来る」

「まぁそれもそうだ」


 なんか、むちゃくちゃ失礼な会話だ。あそこまで普通を連呼しなくてもいいだろうに。

 けれどどんな理由にせよ 捕まって売りさばかれるのはぜひとも勘弁したい。思いっきりスピードを上げて走る。


「ちっ ばれたか 追うぞ」

「わかってるぜ 兄貴」


 そのことに気づいたらしい失礼な男たちも同じように走り出す。


「あぁもう!!!やっぱり王道コースなわけね!!!」


 その叫びと共に裏道を駆けていくが、あまり体力に自信がない・・というかまったく自信がない私はもう息が上がり、ぶっ倒れそうだ。

それに比べ男たちは慣れている様子でものすごいスピードで追ってくる。


「湖までどんなけ遠いの!!!」


 倒れそうになる自分の体に、鞭を打って走るが相変わらずあきらめる様子はなく男たちは迫ってくる。


「むっ無理!!誰か助けてよ!!」


 足を挫き倒れそうになるが根性で耐え走る。その叫びに気づいたのかどうか分からないがこの道のずっと向こうで青空のような美しい水色の髪をもつ男の人が歩いていた。


「ちょっと そこのあなた助けて!!」


 安堵と共に私は叫ぶがまったくこちらに気づいていないようだ。

男たちの方はものすごい舌打ちをしてスピードを上げる。


「ちっ 人か見つかるとまずい、さっさと捕まえるぞ」

「へい」


 男たちの速さにこちらも負けまいとスピードを上げる。


「そこのあなた!!!今にも捕まりそうなんだから早く気づけ!!!」


 大声を張り上げるが、まったく道の向こうの男は気づかないらしい

 その人が居る場所まで行けばいいのだが、そこまで体力が持つ自信はまったくない。うな垂れながら下を俯いたときに、目に入ったのは自分の手にある赤いリンゴ。


「こっ これだ!!」


 これさえあれば、もしかしたら助かるかもしれない、無理だとしてもやってみる価値はある。そう自分に言い聞かせ、思いっきり全身全霊の力を込めてそのリンゴを正面居る水色の髪の男に向かって投げる。

 そのリンゴは美しい弧を描き、その男の頭にクリティカルヒットしたのだ。しかも、その男の人は痛そうに頭を抱えてしゃがみ込んでいるが、相手の身なんて案じている場合ではない。


「よし!!そこの人!!助けて!!」


その声にリンゴがクリティカルヒットした男の人は頭をさすりながら振り返る。その姿を見た瞬間、私はガッツポーズを作るが、私を追っていた男たちは恐ろしいものでも見たような震えた声で呟く。


「この女 むちゃくちゃだ」

「ひっひどい」

「かっ帰るぞ」

「へっへい」


 そして、最後には脱兎の如くその場から消えていった。


「よっ良かった」


 息を整えながら、前に進むと薄暗かった道がなくなり、広い場所に出た。その場所が何処なのか確認するため、周りを見回すととても広く美しい湖が広がっていた。


「綺麗」


 先ほどの出来事も忘れてそう呟くと、後ろからとても美しい低音の声が響く。


「君もそう思うかい」

 

 その声に後ろを振り向くと、そこには見る目麗しい男の人が立っていた。その姿に私は息をのんだ、肩まである水色の髪は女性の私が羨ましいとほどまっすぐで美しく、海のような真っ青な瞳はルキリスと似て居るものの少し違う、なんというかルキリスの場合はとても鋭く強い光を持つものの、この男の瞳は美しい光だと感じる。服装は、この男には少しだけ不釣合いな真っ黒なマントだ。まぁ顔がとても整っているため似合うには違いないのだが。

それにしても、ルキリスにせよ、国王にせよ、女王陛下にせよ、この男にせよ、この世界の人間は無駄に格好よかったり、美しい人が多いような気がする。その中に居る自分の顔は、まったくもって普通すぎて逆に目立っているような気さえしてくる。その男の人の美しさを観察しながら、ぼんやりとしていたが質問されていた事を思い出しすぐに返事をする。


「思いますよ」


 その問いかけに、男の人が微笑む。その微笑みはそんじょそこらの女性より何倍か綺麗だ。


「一緒だ それより君だね リンゴを投げつけてきたのは」


 その微笑と共に言われ言葉に固まる。そっそういえば、私この美しいお兄さんにリンゴを投げつけてたんだ!!

 あわてて目を逸らすものの、気まずい空気は相変わらずだ。


「えぇとすみません・・・ちょっと変な男に追われてて、反射的に」


 謝罪をこめて頭を下げる。


「君が無事ならいくらでも投げつけてくれてもかまわないよ 君みたいな美しい子にならなおさらさ」


 そういって手を取り甲にキスをしてきた瞬間、私の中のこの人のイメージは一瞬にして砕け散った。ついさっきまで、この男の人は美しくて高貴で優しい人だというイメージが私の中で広がっていたものの、今の行動を見た瞬間、そのイメージは拭い去られた。これではただのチャラオで女たらしだ、それにうざい・・・


 思いっきり、男から手を奪い返しズボンで手の甲をごしごしと拭う。


「それじゃあ」


 なんというか、私はこういったなれ慣れしくて、軽い人間は好きではない。というかめちゃくちゃ関わりたくない感じだ。背を向けながら、そそくさと男の前から消えようとするが、男の人に手を引かれ、思いっきり躓き倒れそうになると先ほどの男の人が美しい身のこなしで受け止めてくれた、しかも腰に手を回すというオマケ付だ。しかも顔が近い・・・多分この状況を何も知らない人が見たなら恋人同士が湖の前でイチャイチャしているようにしか見えないだろう思う。


「どわぁ!!何んですか!!」


 あわてて男の人を押しのけようとするものの、しっかりと抱きしめられているためびくともしない。初対面の女性になんてことするんだよ この男は!!


「そんなに冷たくされると、なんだか逃がしたくなくなるよ」


 その言葉に、私は再び固まっていた・・・なんだこいつは、もしかしてあれなのか・・・変態という部類なのか!?頭大丈夫!?


「ちょっちょっ!!!何がどうしてこうなったわけ!!!とうか・・暑苦しいんですが!!」


 男を思いっきり突き飛ばしてしまったらしく、男の人が湖に落ちそうになる。その瞬間、私は男の人の腕を掴み、後ろに引っ張ると湖から離れたものの、二人して尻餅を付いてしまった。


「痛いたたたた・・・わわわわ!!ご、ごめんなさい!!そんなに強くするつもりじゃなかったんですけど」


 私に助けられた事がよほど驚いたのか男の人は茫然としている。実際のところ、驚いたのは私だ、こいつ顔は良いくせに初対面の女性を抱きしめてくる失礼極まりない男なわけで、湖に落ちてくれたら気分がすっきりしていただろうと、思う節もあったのだが、私の体は反射的に助けたらしい。まぁ目の前で水浸しになられてもあまり気分が良くはない、この男がいくらウザくても、自分自身が売り飛ばされなくてすんだのはこの人のおかげなのだ。


「大丈夫ですか?」


 恐る恐る質問すると、男の人が肩を揺らしながら下を俯いている。やっぱり私のせいで、どこかを地面にぶつけてしまったのだろうか・・・・


 心配そうに眺めていると、男の人が思いっきり顔を上げて、大爆笑をしだす。


「アハハハ 君、面白いよ 僕にそんな反応を見せてくれた女性も珍しいし、それにこちらが悪いのに君が謝るなんて変わってるね」


 どうやら私をからかっていたようだ・・・。

 その姿に安堵の溜息がこぼれ、全身の力が抜ける。


「よかった 私のせいで怪我とかしなくても」


 その呟きに、男の人がじっとこちらを見詰める。


「君?名前は?」


 その問いかけに、顔を上げる。


「えっ私ですか?アイですけど・・・」

「アイか変わった響きの名前だね 僕の名はラウリス」

「ラウリスさんですか・・・すみません色々と」


 謝罪をこめると、男の人がまた美しい微笑みを見せてくれた。


「いいよ こちらこそ すまないね」

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