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4話* 「この国を見て、知りたい」

 前のルキリスのテストは惨敗。やっぱり頭が悪いのは現実世界とそう変わらないらしい。溜息を零しながら、自分の部屋の机の上に積み上げられた本を手に取り目を通していく、この一連の作業を一日中やっているのだ。自分がものすごくレベルの高い大学を受けようとして必死になっている受験生になった気さえしてくる。


「外に出たいな」


 窓の外に目を向けたときに、自然と出た自分自身の言葉。

 そういえば、この世界に来てからは一度も外には出ていない。今のままでは私はこの小さなお城という空間だけで生きていく事になってしまう。それでは本当に籠の鳥だ。しかも私自身は、そんなに可愛らしいものではないだろう。たとえるなら綺麗な歌すら歌えない、籠の虫だろう・・・。


「それは嫌だな」


 私が万が一この世界の姫になったとしても私は深窓のお姫様になりたくはない、どうせなるならすべてを自分の目で見て、多くの人と関わり、自分の意思で動いていきたい。

 外を眺めていると自分の部屋の扉がノックと共に、開かれる。


「終わったか?黒姫」


 私の部屋に入ってきたのはルキリスだ。しかし、私はあることが引っかかった。前から思っていたが黒姫とはどういう意味なのだろうか?普通ならば黒姫とは呼ばれはしないだろう。呼ばれるのだとしたら、アイ姫とかになるのでは・・・・。いやまぁ、それもとても遠慮したいが、私には姫という言葉があまりにも似合わない。


「ねぇルキリス・・・なんで私は黒姫なんですか?」


 そう質問するとルキリスが形の整った眉を少しだけ寄せる。


「いまさら聞く事ではないと思うが・・・」


 前から疑問に思っていたが聞きそびれ、先延ばしになっていた質問。もっと前に聞くべきなのではと聞かれれば、否定はできはしない。言うまでもなく、聞きそびれていた私に否がある。


「すみません」


 小さな声で謝罪をするとルキリスはあきれたような表情をするものの、すぐに説明をしてくれた。


「お前も知っているだろうと思うが、このリストス城は国王と女王が住むお城を中心に4つの建物が建っている。その城を囲う建物にはそれぞれ名前がついている。お前が住む建物は『黒百合塔』、そしてその隣ある建物から順番に『白薔薇塔』『白百合塔』『黒薔薇塔』と呼ばれている。その建物の名からお前は黒姫や、黒百合姫と呼ばれる」

「そうなんだ」


 その言葉に納得しながら、外を眺めると先ほど思った事を思い出し、ルキリスに切り出した。


「町に行っちゃダメですか?」


 その問いかけに、ルキリスがあきれたようにこちらを見る。


「行けると思っているのか?」

「・・・・」


 簡単に外に行けるなんてそんな甘い考えを持っていないつもりだ。

 私は養子になりたくない、早く帰りたいとばかり言っている問題児なのだ 少しでも出ればどうなるかなんて分かったもんじゃないと思われているに違いないだろう。けれどすべてを分かっていても言わずにはいられない。


「この国を見て、知りたい」


 その問いかけにルキリスは小さく首を横に振る。


「お前の言う事も分からないでもないが、今のお前では無理だ。出れるのはもう少しこの国の空気に慣れてからだ」

「どうしてもですか?」


 身を乗り出しながらルキリスを見つめる。

 完全に慣れたとは口が裂けてもいえないが、初めてこのわけの分からない国に来たときよりは幾分かましだ。


「無理だ」


 今度の言葉は、とても冷たく否定を許さない言葉だった。その雰囲気と言葉には私は何も言う事は出来ない。


「もういいです・・・何も言いません」


 これ以上、何を言ったって何も変わらない。だからこそこれ以上は何も言わない・・・


「もう少したってからだ・・・・」


 それだけ言うと、ルキリスは部屋に背を向け出て行ってしまった。その背中を見つめながら小さく溜息を吐く。


「ダメか・・・」


 うな垂れながら、窓に向かい外を眺めるが相変わらずこの国は広く知らない事ばかりだ。


「やっぱり外に出たいな・・・・ちょっとなら良いよね」


 無言で自分に納得させて、こっそりと部屋から建物の入り口まで出るとそこには二人の門番さんが立ち外を真剣な表情で見ている。私が居る建物である「黒百合塔」は私に与えられた部屋というか家だ。

 建物内には生活に必要なお風呂などがあるが、お風呂や食事などは本邸である中心のお城で行うらしいく、黒百合塔では使われない。その為か私が知る限りでは、この建物に居るのは門を守る二人の門番さんと、掃除などをしてくれる召使いさんが二人。そんな少人数のため少し寂しいものがあるがとても静かで落ち着ける場所だと思う。外に出ようと門をくぐると門番たちは驚いた顔でこちらを見つめる。


「あなたが黒姫様ですね」

「よろしくお願いいたします」


 頭を深々と下げてくる二人に、私の本能が身を引く。


「あのそんなに畏まらないでください。こっちが気を使いますから」


 手を前に出し、首を振ると二人が小さく微笑んでくれた。


「あなたみたいな人なら安心です」

「よろしくお願いしますね」


 二人に微笑みかけられ、こちらが恥ずかしくなってくる。


「こちらこそお願いします。あのお庭を歩かせていただいてもかまいませんか?」


 その問いかけに、二人が敬礼をする。


「「どうぞ!!黒姫様の思いのままに!!けど外には出ないでくださいね アーヴィス卿からそう伝言を預かっておりますから」」

「はっはい」


 さすが、ルキリスは抜け目はないようだが、私自身は抜け出すという決意は揺らがすつもりはない。けれど、この門番さんの尊敬のまなざしと、ビシリとした敬礼に少しだけ気まずくなりながらも、すばやく門をくぐる。


 なんというか・・ごめん門番さん!!嘘ついて!!

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