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白の涙。 作者:朝登 優
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白の代価。


「ねえ、甲斐崎」
「ん、なに?」

 先生の家で二人寄り添ってテレビを見ていると、小さく先生の長細い指が僕の髪を撫でた。

 僕はこの時間が大好きだ。

「甲斐崎は俺を名前で呼んでくれないね」
「なに、急に」

 なんだか小さな子供のようで、小さく笑ってしまうと、真剣だよ、と怒られた。

「先生だって呼ばないでしょ」
「朝行」
「な…」
「トモユキ。とーも」

 僕の髪を撫でていた手を止めて、ぐい、と頭を抱えて引かれた。

「ね、呼んでくれないの」
「よ、呼ばない。名前は、呼ばない」

 先生の僕を抱き締める腕が、ぎゅ、と締まった。

「はは、ごめん、冗談。言ってみたかったんだ」

 ぱっと離された先にあったのは先生の悲しそうな笑顔だった。

「…せんせ、」

 僕の声とぶぶぶぶ、と鳴り響く携帯のバイブ。
 ガラステーブルをみると、僕の携帯と並んでおかれた先生の携帯だった。

『美幸』

 一瞬見えた文字に胸が泣き出した気がした。

「はい、ああ…どうした…いや、今はちょっと…」

 ちらっとこちらをうががう先生はなんだか少し困ってるようだった。

「先生、今日は帰る、ね」

 なんだか居たたまれなくて慌てて携帯をもって飛び出した。


 …痛いな。
 しくしくと泣き出した心臓をとんとんとんと叩いた。

(これは、先生を悲しませた代価だ)


『甲斐崎は、俺の名前を呼ばないね』

 だって呼んだら、もう戻れない。
 …終わりが来るのが、怖い。


「――…さん」


 小さく呟いて、後悔した。

『トモユキ。とーも』

「…ごめんね、ごめんなさい」



 この心臓の泣き声と呼応するように空が泣きはじめた。

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