後悔
期限まであと・・・
まだ在庫は残っている。
いくらかかっていると思ってるんだ、と自分に言い聞かせた。
事実、100万円を超えていた。
今は肉体労働で稼いでいるが、まだ夢を捨てきれない。
だが、仕事が終わり、テレビを見ていると知らぬ間に眠ってしまう。
そんな日の繰り返しなのだ。
郵便物に一通の往復はがきを見つけた。
同窓会の通知だった。
人生節目の年の同窓会だった。
行きたくないな、とまず思った。
中学時代は頭がいいということになっている。
進学校に進み、県内の私立大学理工学部を卒業した。
今年、ノーベル賞で話題になった大学だった。
某自動車グループの会社で技術者をしていることもあった。
だから、「今、何しているの?」と聞かれると、
なんとなく恥ずかしさがあるのだ。
でも、そんなことを気にするやつらではないと分かっていたが。
ぐっと目を閉じる。
行きたくないという気持ちを潰していく。
その代わりにとなる下心を掻き立てる。
好きだった女の子の顔がよぎる。
告白はできなかった。
いやいや、そうじゃない。
彼女を頭から追い出そうと頭を振った。
その代わりに指折る。
買ってくれそうな奴らを思い浮かべた。
行こう、と決心した
それから3ヶ月が経った。
家から15分歩き、バスで会場に向かう。
紙袋が少し重かった。
中には営業するためのブツとチラシが入っている。
バスに乗り込み驚いた。
4人しかいなかった。
これじゃあ売れないと覚悟した。
もう30分遅いバスでも開始時間に間に合うが、期待するなと自分に言い聞かせた。
会場のホテルに着く。
受付にはたくさんの人がいた。
各クラスごとに受付があり、違うクラスでもほとんど知った顔だった。
受付をすると、あだ名呼ばれた。
小太りなので付けられたあだ名だったので微妙な感じだった。
ぐっと右手に力を入れ、紙袋をふくらはぎに手繰り寄せる。
まだ出すのは早いと思った。
あだ名が後ろで聞こえた。
長イスで男女が座っている。
男は良く知っている。
高校まで同じで、今は実家を継いで社長をしている。
女はキレイだった。
でも、30年以上経つから思い出せなかった。
自己紹介されて、ハッとした。
名前と面影がどんどん結びつく。
スカートめくりしてゴメン、と反射的に謝った。
彼女は懐かしそうに笑った。
話が一段落して、チラシを出した。
もちろん営業だ。
男は買ってくれると言った。
それから、参加した目的を果たそうと知った顔を探した。
乾杯が終わると、さっそくブツをチラシを紙袋から出した。
テーブルにはクラスメートが14,5人いた。
みんな、面白がって俺の話を聞いてくれた。
真面目だと思われていたので、
こんなことをするとは想像していなかったという。
一番親しかった友人も驚いて買ってくれた。
俺は内心、彼に驚いた。
参加しないだろうと思っていた。
大学が近くで通学時、顔をよく合わせていた。
卒業後も年賀状を交わしていたが、いつの間にか途切れていた。
高校生の息子がいることにも驚いた。
それから違うクラスのやつらに営業を始めた。
3年間部活を共にした剣道部の仲間を見つけると心強かった。
でも、やっぱり探してしまった。
好きだった彼女を。
いた。
でも、躊躇した。
考え方は変わっても性格は変わらないものだ。
チラシを一枚手に取る。
彼女の前に立つ。
「興味があったら、読んでね」
チラシを渡して立ち去った。
なんでこんな性格だろうと後悔した。
営業をしていると、突然マイクで名前を呼ばれた。
宣伝しろよ、と司会者に肘で小突かれた。
予想外のことでドキドキした。
彼女を見つけ、視線を彼女に合わせた。
「本を出しました。
さきら天悟というペンネームです」
この会場にいる半分くらいは、ペンネームの意味が分かるだろう、と思った。
「『愛と死のせつな』税込648円です。
ネットで買えます。本屋でも注文できます。
他人のために死ねますか、というちょっと哲学的なテーマで、
でもエンターテイメント小説です。
よろしくお願いします」
手短に説明して壇上を去った。
その後、営業した。
結局、本はすべて売れた。
チラシも配った。
参加してよかったと思った。
残念なこともあった。
壇上に立った時、彼女は微笑んでくれた。
もし、告白していれば人生が変わったかもしれない・・・
とそんなことを想像してみた。
作家を目指す習性かなと思った。
そんな中学時代から今までのことに思い巡らす。
コンピューターを設計して、一流企業にも努めたことはあった。
でも、後悔していない。
会社を辞めなかったら、小説を書こうとは思わなかったに違いない。
文章はヘタだが、書きたいことは尽きないのだ。
一生書き続けようと思った。
でも、一つだけ後悔したことがあった。
なぜ、もっと・・・
本を持って行かなかったのか・・・
30冊くらい売れたに違いない、と思った。
吉良中学校および西尾高校のみなさん、
本を買っていただいてありがとうございました!